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激臭の女勇者ランナ  作者: 阿国豊山
あたしがにおいの力を手にするまで
8/29

あさからテンション激上がりっ

「はっ」

 

 ランナは眠りから覚めた。何度か瞬きをしてから辺りを眺める。

 見渡す限り真っ白の世界はなくなっている。

 ぼろぼろの壁に立て掛けた、愛用の武具が見えた。

 携帯型照明器具内の火球は消えているが、室内は明るい。隣の寝具では銀髪の相棒がすうすう寝息を立てて眠っていた。つんとした埃の匂いがするこの空間は、自身が生きる現実世界だ。


(あ、もう朝じゃん)

 

 ランナは寝具から降りて窓際に向かい、陽光を浴びながら身体を伸ばし、先程の出来事を思い返した。


「夢。いや、でもあれは……」

 

 現実世界に戻った彼女の記憶の中には、摩訶不思議体験が間違いなく刻まれていた。

 

 何より――


「痛たっ……やっぱり夢じゃない」

 

 大聖霊ヌキアと契約した際の頭痛の残滓も、未だ残っていたのだ。


「もー、頭痛はすぐ治まるって言ってたのに」

 

 頭を抱えながら不満げに呟くランナは、窓に映る自身の顔を見ながら、ある違和感に気がついた。


「あれ、あれれ!? 頬っぺたに何かついてるッ」

 

 まるで聖霊文字のような紋章が、右頬に浮かび上がっていたのだ。


「一体なんなのコレッ!?」

 

 何度手で擦っても消えない。

 数瞬後、唖然とする彼女の頭上で、


「それは、大聖霊のオデと契約した証だーの」


 紋章を付けた張本人の声が響いた。


「わひぁあ!?」

 

 突然聴こえた甲高い声に驚いたランナが、尻もちをついた。すぐさま天井含む室内全体を見回すが、誰もいない。

 しかし、聞き覚えのある声だった。


「え、ヌンキ様!?」

 

 それもそのはず、ヌンキの声だ。

 ランナは彼? が常に自身と共にある旨を話した先刻を思い返してハッとした。

 くっつき虫と化したヌンキは、契約者が覚醒して早々に意識を共有した理由を伝えるべく話し出す。


「本来は芳醇大酔香を完全に発現させる時だけ頬に契約の証が浮かび上がるんだが、契約が成功したかちゃんと試したかったから、今出てきて浮かび上がらせたんだの」

「そうだったんですね……ご丁寧にどうも」

 

 と、ホッと胸をなで下ろすランナ。


(人のこと言えないけど結構唐突よね、ヌンキ様は)


 しかし事前告知なく、サラッと身体操作してくる件については少々不満があったが、それでも大聖霊魔法を授けてくれた神様同様の存在に失礼があってはいけないと、気にしないように努めた。


「驚かせてゴメンだーの。精神世界だと繋がれる時間が限られてたから、話せなかったこともあるの」


 そんな彼女の心中を察したヌンキが、重ねて説明した。


「とにかく契約は無事成立したの。念じてみれば、いつでも芳醇大酔香を使えるの」

「へ? 念じるってどういう――」

 

 そう言われて、自身に起きた変化をもう一点ランナは感知した。


「あ、あれ。あたし……ソレ、出来るかも」

「かもじゃなくて、できるんだーの」

 

 身体の中で未知なる感覚が芽生えている。

 手足を動かすように、口から声を発するように、瞬きをするように、身体へ命令すればすぐに発現出来る異能が確かに生まれていたのだ。


「とりまソレは、戦闘の現場以外で使えばどえらいことになるから使用には気をつけるの。ランナはまだ一つしかにおいを扱えないけど、その内もっと色んなにおいにも目覚めるだろうから精進するの」

「成る程……はい、頑張ります」


 強大な力を更に有することができる可能性に、ランナの胸が高鳴った。


「ま、オデの変わりに邪神ミルンへ一泡吹かせるのを、ランナの中で気長に見物させてもらうの」

「任せて下さい! 必ずご覧に差し上げますからっ」

「期待してるーの。じゃあの」


 ランナの右頬に浮かんでいた紋章が消えていく。

 以降、ヌンキが言葉を発することはなかった。 

 大いなる力を宿した実感が湧いてきたランナは、ぐっと拳を握った。


「凄い! 凄い! 念じればにおいの力が使える!」


 底しれない自信が漲ってきた彼女は、込み上げてきた笑みを抑えきれない。


「あは、あはははっ。いける、いけるっしょ!」


 奇跡を享受したランナは、今すぐ相棒に喜びを伝えたくて駆け寄った。


「ルイ! ルイ! 起きてよルイ!」


 静かに寝ているルイを激しく揺するも、中々起きない。未だ夢の中である。


「ルイったら! ルーイ!」


 だが耳元で名を何度も呼ばれたので、ルイはとうとう無理やり覚醒させられ、瞳をぱちくりとさせた。


「ふにぁ、ランナ? もー、何なんですか……まだ夜ですし寝かせて下さいよ」


 目をこすりながら騒がしい相棒へ抗議した彼女は、まだ半分寝ぼけている。


「だから、もうとっくに朝だって!」

「ふにゅ……あら? そうですね、いつの間にやら朝になってましたか」


 窓から差し込む朝の光を確認したルイは、小さな欠伸を漏らした。

 ランナは寝起きの相棒の両肩をがしっと掴み、


「てか聞いてルイ。あの割れた石板に、封印された大聖霊ヌンキ様が入ってたのよ! それで解放してくれたお礼にって、寝てる間に大聖霊ヌンキ様と契約して、においを操る力を手に入れたのッ」

 

 伝説の大聖霊との契約を興奮気味に話した。

 時が止まったかのような、しばしの沈黙が生まれる。

 意識がフル稼働していないルイには、ランナが喋った一言一句全てを理解するまで少々時間を要した。

 やっと上体を起こしたルイは、


「割れた石板に入ってた大聖霊ヌンキが、寝てる間にランナと契約してにおいの力を? はー、朝っぱらから何を言っているやら。ベッドから落ちて頭でも打ったんですか?」

 

 瞳を輝かせたランナを怪訝そうに見つめながら、呆れた口調で言った。

 結論は意味不明。ルイからしてみれば、起きてすぐに付き合える冗談の範囲外である。

 だが夢想話ではなく実際に身に起きた奇跡なのだと、当人の昂ぶりは止められない。


「いーからしゅばっと起きてしゅばっと準備よ! 早速目覚めた力を試しに、ジャルロックの邪鏡を壊しに行くんだからね!」

 

 下着姿で意気揚々に言い放った相棒の話は、変わらず妄想の中にいるようで脈絡がなさ過ぎたため、ルイは呆気に取られる。


「さぁさぁ起床よ! 動きなさいルイ!」

 

 銀髪の魔法使いは彼女の促しに反応せず、ぽつりと呟いた。


「ランナがとうとう壊れてしまいました……」

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