お破廉恥な姫様 後編
「誇りだよ。邪神ミルンのふざけた年齢制限結界に入れる歳のワタシが、同じ時代に生まれて勇者を目指す者や眷属の襲撃から民を守る騎士団、魔法隊に全てを任せ安全圏で引きこもるなど誇りに反するからだ」
シャーリーは熱が籠もった口調で、勇者になった理由を語り続けた。
「確かに理解者である兄上以外の者からは猛反対にあった。父上と母上には泣きながら考え直せと懇願されたし学園長宛にワタシを入学させるなと書状を送られまでされたが、兄上の助力も得て両親を説き伏せ最終的には許可を取ったのだ。我が家の先祖が興した国を歩いて周り、邪鏡を壊して民を救う、それこそネックス王家に生まれた者の使命だとな……とまぁ、熱くなってしまったが動機はこんなものだ」
誇りと使命――自身を突き動かす想いを伝えきったシャーリーは、穏やかな表情で食事を再開する。
情熱を込めた演説のような語り口だったため、ルイは素直に感動して自然と拍手を送っていた。
「いやはや、素晴らしいです。勇者であると同時に王族としての高貴なるお覚悟もお持ちなのですね」
「ありがとう。責任ある立場の者としての意思を、言葉にしたまでだ」
と、あくまで意識の高いシャーリーだが、口をもごもごと動かしながら話すのでは格好がつかない。
ルイは行儀の悪いお姫様を眺めながら、相棒が彼女に襲われた破廉恥な出来事を思い返した。
(立派な信念がある姫様が、あんな破廉恥なマネを)
人の内面とは一見しただけではわからないものだと改めて考えさせられたのだった。
一方ランナは、語りが終わった後もまじまじとシャーリーを見つめていたが、程なくして隣のルイへまた耳打ちをした。
「ルイ、ちょっと聞いて!」
「どうしました? 閃いちゃった的な顔してますけど」
「大事な話よ。王女殿下に、あたし達のパーティへ加入してもらえないかなって」
「え。シャーリー王女殿下を、私達の仲間に……」
ランナの提案にルイはそこまで驚かなかった。
姫は勇者を続けると言っているが、一人のままでは無謀が過ぎる。ならばどこかのパーティに加入しなければ、それが自分達のパーティではどうだろうかと、ランナのような考えは彼女の中にも芽生えていた。
「うん。ずっと話を聞いてたけど、王族としての誇りや勇者としての情熱がハンパなくて、度胸や気概も凄いし、性癖を含めて圧倒されるくらいパワー溢れる人だわ。クセ強な姫様と私達が組めば、相乗効果で激ヤバパーティーができるわよ!」
勇者への並々ならぬ情熱を持つランナは、シャーリーの熱き語りに同じ色の意識を感じ、個性的な人格にも惹かれたのだろう。
ランナのシャーリー加入への想いに、ルイは納得して頷いた。
「私も概ね同意見です。身分が高くて偉い人特有の接しづらい感じもなく、でも誇りはしっかりと持っていて……性癖にはついていけませんけど、面白い方には違いないですね」
「でしょ! それに王女殿下がパーティに加わったら王族と繋がりができるわ。間近で活躍しまくって使命を果たした後にお願いすれば、絶対恩賞貰えるわよ」
ランナが瞳を金色に煌めかせて言った。
「成る程。言われてみれば確かに……」
欲にまみれた打算的発想は、流石我が相棒と思わざるおえない。
シャーリーを仲間に加えることで生まれる、使命を果たした後の「頑張ったから仲間の王女を通じて王様からご褒美いっぱい貰えるって」論は現実味があり、自身の夢が叶う率も高くなる。
考えただけで笑みが湧き上がるも、不審に思われるのを避けるため、ルイは笑み衝動をなんとか抑えた。
「一緒に危機を乗り越えて絆を深め、全ての邪鏡破壊を終えた時に頼み込めば……! まさか温泉で語り合った夢が現実になろうとは」
「気が早過ぎよ。でも打算抜きにしても、仲間へ裏切られて一人になった状況で大変だと思うし、力になりたいのは本当だしね」
級友を思いやる心もまた、ランナの本音である。
「でもですよ、仲間に裏切られて傷ついた人が簡単に私達を信用してくれるでしょうか」
と、思い浮かんだ懸念点をルイは訊いてみた。
メリットばかりではない。裏切りに傷ついて人間関係には敏感になっているはずだ。
デリケートな問題に対して、ランナはあっけらかんに答えた。
「それはあたし達も似たような境遇じゃん。仲間に逃げられたのも話した時に伝えたし、より一層に共感できて寄り添えるわよ」
「まぁ、それはそうですけど」
「とにかくそこも織り交ぜてお願いしてみるからさ、ルイも合わせて」
「わ、わかりました」
ルイを言いくるめたランナは、決意を秘めた顔つきで勇者姫へ声掛ける。
「ねぇ、シャーリー」
「ハムハム、どうした。長々と話してたようだが」
ヒソヒソ会議をしていた二人を気にせず、パナムを貪るように食べ続けていたシャーリーは、ランナ達へやっと顔を向けた。
ランナはもはや彼女の奔放さに突っ込みは入れず、単刀直入に本題へ入る所存だ。
「お願いがあるわ。勇者を続けるなら、あたし達のパーティに加わってほしいの」
シャーリーは食事の手をピタっと止めて、ランナと視線を交わした。
「君達と一緒に、勇者を」
提案の意味を確認するように、シャーリーは呟く。
「うん。貴方の王族として、勇者としての覚悟や矜持、信念にあたし達、心を打たれちゃったの。それでシャーリーと一緒に勇者の使命を果たせたらいいなって、あたしとルイもメッチャメチャ思ったの!」
ランナが自身なりの言葉で熱く真剣に想いを伝え、ルイも強く頷いた。
シャーリーもおふざけなしで熟考しているのか、無言のままランナ達から視線を逸らさない。
ランナは話し続ける。
「あと旅の話をした時にも言ったけど、あたし達も最初から二人もパーティから抜けられて躓いた。あなたが受けた絶望程ではないけど悔しさは分かるし、何よりあたし達は仲間を見捨てるなんて、勇者という二文字に背くマネなんか絶対しない。だから安心して。一蓮托生の仲間として、一緒に勇者しましょう」
似たような傷ができた体験談を重ねて印象づけ、情熱的に勇者の姫君を口説く。
シャーリーは瞳を閉じて、未だ黙している。
やりとりを見守るルイの瞳が、期待と不安に揺れている。
長いようで短い時間は終わり、決断の時は来た。
シャーリーは開眼し、静かに口を開く。
「ふむ、君達の想いは受け取った。ワタシとて一人で旅を続けるのに不安を感じていたし。その申し出はむしろありがたいよ」
ランナとルイは、喜びで弾けそうになった。
「やった! それじゃあ――」
仲間になってくれる気があるのだと確信したランナは、握手をしようと手を出したが、シャーリーは差し出された手を握ってくれなかったのだ。
「加入はしたいが、ただしこちらも条件がある」
彼女はそのまま、含みのある声で返した。
「へ、条件?」
ランナはぽかんとした顔でシャーリーを眺めた。
ルイも同様の面持ちである。
ふぅと一息吐いたシャーリーは顔を赤らめて俯くと、モジモジしながら話し出した。
「ワタシは恥ずかしながら結構な甘えん坊で構ってほしい、くっつきたいと感じる質でな。そういった時は遠慮なく二人とスキンシップをとりたい。そんなワタシを君達が受入れるのが加入の条件だ」
予想外過ぎる返答に、ランナとルイは吹き出した。
「何なんですかその条件は!?」
「しかも絶対スキンシップに収まらないことしそうじゃん!」
そして我慢ならずに頓狂な声で突っ込む。
どんな条件なのだと憂慮したが、杞憂も杞憂の馬鹿馬鹿しさであった。
「城で過ごしていた時はずっとお母様に添い寝をしてもらっていたくらいだ、十代半ばになろうが変わらずな。学園に入ってからは大人になろうと我慢していたが最近我慢の限界が来て逃げた二人にも頻繁にくっついていたんだが、もういない。だから可愛い二人と仲間になるならくっつかせてイチャイチャ――じゃなくてワタシを安心させてほしい、という次第だ」
頬を両手で包みながら、チラチラとランナ達を見て反応を伺いつつ言ったシャーリーは、グフフといやらしく笑ってヨダレをたらした。
「ルイ。あたし、逃げた二人はガチの薄情者じゃなかったかもて思ったんだけど」
「うーん、私もそんな気がしてきました」
逃げられた原因は変態姫君にもあると、二人の認識が一致した。
気がつけば逆に期待の眼差しを送られていたランナは、シャーリーと接して何度目かの大きなため息を吐いた後、
「まぁいいわ。お願いしてるのはこっちだしね。時と場を考えるなら、くっつくなりなんなりしてもいいからさ」
改めてシャーリーに手を差しだした。
「これから宜しくね、お姫サマ」
「レックス王国のみならず、ガルナンの大地に必ずや平和を取り戻しましょう」
ルイも同様に続いた。
「あぁ! 宜しくな、ランナにルイ」
三人はテーブル上で手を重ね合い、各々の顔を見やった。
欲望丸出しの交渉成立と仲間の契りを交わした喜びに破顔したシャーリーは、
「ん。あれ、すまない。何故か涙が……」
自身の双眸から雫が流れて頬をつたったことを認識した。様々な感情が入り混じった涙がぽつぽつと流れ出したシャーリーを見て、ランナとルイの目頭も熱くなった。
「う、う、うわぁぁぁぁぁん!」
感情は決壊。シャーリーは号泣する。
自らに重い責務を課して過酷な旅に出た。命を懸けた激闘中に仲間へ逃げられ、囚われの危機に瀕した絶望的? 状況を同期のランナ達に救われて、仲間になるという流転の最中――感情の整理ができず不安定になったのだと汲み取ったランナは立ち上がり歩み寄ると、シャーリを後ろから抱きしめた。
「辛かったわよね。もう大丈夫よ」
「ひぐっ、えぐっ、ランナぁ……」
温もりを受けた王女殿下は、涙を拭うも止まらない。
癒しの時間が過ぎていく。
(そろそろいいかな。シャーリも落ち着いたよね)
ランナがチラっと見やると、シャーリーは泣き止んだようだった。
静かに離れようとしたが、
「――ッ!?」
ビクッと動きを止めた。
彼女がモゾモゾ動き出したので、少し驚いたのだ。
同時に嫌な予感がした次の瞬間に、変態姫君は本領発揮する。
「っぱい……」
「へ、ちょっ――!?」
シャーリはぐるりと身体の向きを変えた。
「おっぱい! 丁度いいくらいに育ったおっぱいに埋もらせてくれぇぇぇッ」
初対面から二度目の正直である。
勢いのままに破廉恥な欲望を叫びながらランナの胸元へ無理やり頭を突っ込むに成功し、双丘に埋もれたのだ。
「きゃぁぁぁぁ嘘でしょッ! マジ泣きしてたばっかなのに!?」
ランナの悲鳴が、砦内の狭い一室に響いた。
泣き止みからの性的衝動大暴発に、信じられないといった面持ちである。
「くッ、力が……強い取れないッ!?」
やはり凄まじい力を発揮され、身体は動かせず。
ランナを逃がすまいと、両手で背中をがっちりとホールドしている。
「もにゅもにゅもにゅもにゅもにゅ!」
独特な擬音を声に出しながら、衣服越しに何度も柔らかな膨らみを堪能しようとするシャーリーの頭をランナは何度も引き剥がそうとするが、結果は変わらずだった。
「あーんルイ! とってよコレぇ!」
ランナは別の意味で涙目になってしまう。
巻き添えを怖れて、いつの間にか部屋の隅で静かに息を潜めていたルイへ助けを求めるも、
「いやいや無理ですって! 私に振らない下さい!」
手をブンブンと振って拒否されてしまう。
一人だけ「ふれあい」から逃れるのは許されない――爛々と光る眼光がルイを居抜いた。シャーリーが標的を変えたのだ。
「ルイ! ワタシを、慰めてくれぇぇぇ!」
そして飛び跳ねた。
「ヒィィッ!? 飛びついてきたぁ!」
慄き叫んだルイは初撃こそ避けたものの、そのまま足がもつれてソファーへと頭から突っ込んでしまう。
(マズイ、マズイですぅ!)
急いで体勢を直して立ち上がろうとするも、遅い。
またも飛び跳ねてきたシャーリに、ソファーへ押し倒されたのだ。
破廉恥姫君の狙いは勿論決まっている。
「ふにゅ! ふにゅふにゅふにゅ薄いふにゅ!」
「そこはあぁ駄目ですやめてぇぇぇ!」
身体への執拗な未知なる刺激を必死に拒否するルイの顔は赤く、扇情的な色を帯びてしまっていた。
清らかな乙女二人の悲鳴は、誰にも届かない。
闇夜に輝く満月が雲に隠れて霞んでいく。
夜が更けていった。




