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激臭の女勇者ランナ  作者: 阿国豊山
アジャラ峠でにおいを出しまくろう
24/29

生理的に無理な大眷属ウッホ 中編

 大地を蹴ったウッホは、ランナ達に向かって飛び跳ねる。


「芳――えッ!?)


 ルイの前に出たランナが、その超人的速度に驚愕して目を見開く。


(速過ぎ! 無理無理間に合わないっ!)


 速攻で大魔法を使おうとしていたが、出鼻をくじかれた。すぐさま剣を抜き、正眼に構えて受けに転じる

彼女へ、ウッホが太い腕を振り上げる。


「しゃらッ」


 鋭く伸びた指の爪がランナを襲う。


「うわ!?」

「ほらほらどうだ! コレがウッホ様自慢の爪乱舞だっぺッ」


 当然一振りだけでは終わらない。

 風切り音が耳をかすめる。ランナは迫りくる十本の刃の乱れ咲きを、かろうじて捌く。


(激ヤバだよ! 激しくて防ぐしかできない!)


 新米勇者は複数の眷属と同時に戦ってきた経験で両刀使いのような未知の斬撃を凌ぐが、手一杯だ。


「何だそりゃ! 相手になんねぇ、さっきの奴らの方がまだマシだったべ!」


 勢いを増すウッホが煽り立てた。

 防戦一方で後退するしかないランナだが、彼女は一人ではなく相棒と共に戦っている。


「ランナ! 離れて下さいッ」


 いつの間にか距離をとっていたルイが、人差し指に光を纏わせて宙に聖霊文字を描こうとした瞬間、ウッホの標的はすでに変わっていた。


「グゥッ!?」


 ランナを剣ごと蹴り飛ばした後、ルイを斬り込むべく驚異の加速力で走り出していたのだ。


「させねぇべ!」

「ヒィッ!?」


 鋭い眼光に睨まれた刹那、死を予感したルイは直感的に真横へ飛び込む。

 高速移動しながら繰り出したウッホの爪撃が空を切る。判断を誤っていれば切り刻まれていた。

 

「チィ、ちょこまかしやがって。次は外さねぇ」


 だが一撃のみ避けただけで、危機は続いている。


「はわわわ……」


 構え直したウッホは、急いで立ち上がろうとしているルイへ、再び切り込もうとするが、


「――あ?」


 右方向へ意識を切り替えた。

 ランナが必死の形相で駆けてきていたのだ。

 蹴り飛ばされたものの、ルイを救うべくすぐに起き上がっていたのだ。


「ハァッ!」


 大きく踏み込みウッホを斬り上げるが――


「当たらない!?」

「遅いっぺ!」


 ランナの剣はウッホの肉を削げなかった。

 超反射。そして高く飛び上がられ、紙一重で回避されたのだ。


(速いだけじゃない。あんな高く飛べるなんて、なんて脚力!)


 羽がついているかのような常識離れしたジャンプ力に、攻撃を躱されたランナは驚き慄く。


「はわわッ、今のうちに!」


 一方、窮地を救われたルイは、慌てて相棒の方へ駆け込んだ。

 再び向かい合う二組。華麗に着地したウッホは余裕気に口を三日月の形にしているが、ランナ達は息を切らしている。

 幸いにも傷は負っていないが、序盤から劣勢には違いない。だがランナは、未だ必殺の大魔法を使っていないのだ。

 息をする暇もないスピーディーな戦闘の中で生まれた、数瞬の間――


(まだよ、まだ終わってない。今ならッ)


 紋章がランナの右頬へ現れる。不意をつくように全身に光を纏わせて両手を翳すが、


「芳醇大――」

「身体が光りやがったか! 妙な魔法はさせねぇ!」


 やはりウッホが許さない。

 ランナの身体変化を確認し、反射的に駆ける。


(気がついた!? やっぱり駄目だ!)


 先刻の展開から、ウッホの常識外れな高速移動による魔法発現阻止も予測に入れていたランナが、詠唱中止して後方へ飛び下がるも、


「ほりゃあッ」 

「あうッ!?」


 ウッホの長い手と爪からなる攻撃範囲から逃れることはできず、斬撃を受けてしまった。


「ランナ!?」


 ウッホの攻撃間際、回避のため再度横へ飛んでいたルイの悲痛な叫びが響く。

 衝撃で受け身もとれず尻から地面に落ちたランナだが、未だ意識は保っていた。


「……ッ」


 戦闘で培わされた判断力と生存本能が働き、ランナは跳ねるように立ち上がった。

 自身の状態の把握に努める。剣を構える元気はある。血飛沫は舞い上がっていない。革鎧が損傷したのみ、寸のところで肉には届いていなかった。


「チッ、運がいいっぺが、二度はねぇ。これでトドメだっぺ!」


 残念そうに舌打ちしたウッホが、追撃しようと動いたその時――


「ウホッ!?」


 なんと、落ちていた石に躓き前のめりに転倒した。

 獲物を狩ることしか考えておらず、足元への注意は足りていなかったようだ。

 緊迫した空気が壊れた。間抜けな大眷属へ呆気にとられるランナだが、ハッとして距離をとり窮地を脱した。


「ハァッハァッ、激ギリで助かったわ」


 呼吸を整えながら、革鎧の破壊された箇所を確認する。回避もせず直撃していたのなら貫通し、致命傷を負っていただろう。


「無事で良かったですランナ! もーダメかと」


 ウッホを避け、回り込んで駆け寄ってきたルイが、切り裂かれなかった相棒に安堵した。


「コケてくれてホッとしました。相手が阿呆で助かりましたね」

「馬鹿で良かった。でも厄介過ぎるわよあの速さ。あたしの大聖霊魔法も何故か見切ってるっぽいし」

「どういうことでしょう。初めて見たはずですが」

「速いだけじゃなくて、少しの変化にも敏感だからすぐ反応できるのかもね」


 ランナは焦燥に揺らぐ瞳で、すでに起き上がってぶつけた箇所を手で抑え、痛そうな顔をしているウッホを見据えた。

 聖霊魔法とは発現時の身体変化や動作が違う大聖霊魔法―‐芳醇大酔香にも初見で対応してみせた彼は、一見気を抜いているように見えるが実際のところ全く隙はない。


「今だってあたしが大聖霊魔法を使おうとちょっとでも集中したら、走り飛んでくるわよ」


 手を額に当てながらもランナとルイから視線を外さずに、聞き耳も立てている厳戒態勢である。


「一定の距離を保って異常な反応の速さと瞬発的な脚力で魔法の発現を邪魔する戦法ですか。しかも両手の爪による攻撃も強力かつ高速ですし、恐ろしやですぅ」


 聖霊文字を描こうとした自身へ、ウッホが凄まじい速さで切り込んできた先刻の様子を思い返し、ルイの顔が青ざめる。 

 魔法を発現させようと聖霊文字を刻む指の動作も見極めて即座に判断し、爆発的な瞬発力で阻止する戦法にやられてしまっている。

 弱気になりかけている勇者パーティの空気を感じとったウッホは、愉快そうな顔で言い放った。


「にべさの〜、下僕から話は聞いてたからな……おめぇら人間の聖霊魔法なんぞ多少発現方法が変わっていようが、出そうとする前に邪魔しちまえば厄介な効力があろうが関係ねぇ。足も速いうえに頭もいい、これが大眷属一モテモテのウッホ様の実力だべ!」


 ウッホは自己称賛して高笑いをした。

 舐められている。悔しさのあまり、ルイは顔を赤くしてわなわなと震えた。


「事前に情報を得ていたなんて。大聖霊魔法とまでは知らなそうですが、何にせよムカつきますあの顔」

「激速妨害ヤロー、抜け目ない感じが腹立つわ……」


 ランナも同様の感情であるが、


「でも、いい気になってるのも今のうちよ。思いついちゃったんだから、あたし達でアイツを止めるいい感じの作戦を!」


 ウッホの異常な快速と超反応に対し、魔法発現までの時間を稼ぐ策が閃いていた。


「えぇっ、ホントですか?」


 ルイが目を瞬かせた。

 瞳に希望を宿したランナは、ルイを呼び寄せる。


「えぇ。ルイ、ちょっとこっちに来て」

「は、はい」


 相棒の耳元でゴニョゴニョと小声で秘策を説明すると、ネガティブに侵食されていたルイの表情が明るくなる。


「それは、試す価値は大いにアリですね」

「おーい! 死ぬ前の最後の語らいは終わったべか?」


 ウッホが勇者達に生まれた光明の気を遮るように、殺気を纏わせた声で呼びかけた。


「ゴチャゴチャと何を企もうが、オラを倒すなんて無理なんだからよ。潔くここでくたばるっぺ!」


 再び戦闘態勢のウッホ。

 強大な力を見せつけた大眷属は、今度こそ二人を仕留めるため、全力全開で飛びかかるだろう。

 ランナとルイは意を決した表情で目配せし合い、ウッホを打ち倒すべく動き出す。


「あッ、囚われたあたし達の仲間がいない! 綱を解いて逃げてくれたんだわッ」


 まずランナがウッホ後方の塔の屋上を指差して、わざとらしく虚言を叫ぶ。

 勇者の策はまさかの子供騙しだった。一体誰が信じるのか―‐


「なぬぅッ!?」


 阿呆が一匹。

 大眷属は素直に信じて、慌てて振り返ったのだ。


(やっぱり馬鹿で純粋だ! 隙ありだわっ)


 ランナはにやりと笑って剣を鞘へ仕舞い、右頬に紋章を浮かび上がらせた。

 身体の内から湧き上がる凄まじい力の奔流が、全身を満たしていく最中―‐


「てぇッ、逃げてねぇし嘘つくんでねぇ!」


 騙されたと遅れて気がついた間抜け白狒が、弾かれたように向きを戻し、


「あ、ヤベッ何してやがる!」


 虹色の光を迸らせるランナを視認。

 目の色を変えると、疾風の如き速さで駆け出した。


「だいすい――」

「クソがさせねぇッ」


 輝きが最高潮に達する目前に接近し、凶悪な爪でランナの五体を切り裂くべく腕を振り上げたが、僅かに遅かった。

 ランナが意図的に詠唱を中止すると同時―‐鞘から剣を抜き放ち、射抜かれた矢のような勢いで向かってきたウッホへ先に斬りかかったのだから。

 

「な――ッ!?」

 

 魔法を使うと見せかけての抜刀は想定外。

 またも欺かれたウッホは突進の最中に狼狽えるも、数多の剣士を相手にしてきた経験と超反射が、自然と彼の身体を動かした。


(危ねがった!)


 危機回避。抜刀技は体毛にのみ届いた。

 人間からしてみれば異常な脚力で天高く真上に跳ねられ、意表をついた攻撃を避けられたはずだったが、


「残念だった――あァ!?」

「ウインドスラッシャー!」


 二撃目。ルイの風の聖霊魔法が、空中のウッホ目掛けてすでに放たれていた。

 ランナが唱えると同時のタイミングで足を動かした相棒の魔法使いが、走りながら聖霊文字を描いていたのだ。


「ウヘァ!? このオラが人間の魔法にィ!」


 流石に空中では回避できず、荒々しく刃物のように鋭い豪風へ巻き込まれたウッホは絶叫を上げた。 


「アァ――ッ」


 風の斬撃は、ウッホの身体とプライドをズタズタに傷つけるが、


(オラが、最強大眷属のオラがあんな小娘の魔法を……屈辱だべ!)


 彼の闘志の炎までは消せなかった。


「絶対に許せねぇ! クソチビめ、踏みつけて斬り殺してやらぁ!」


 豪風は収まったが、大眷属はただ落ちるだけに終わらない。

 全身血だらけの憤激のウッホは、幾時振りに自身へ魔法攻撃を浴びせた地上のルイ目掛けて落下していくが―‐


「芳醇大酔香!」

 

 発現準備万端状態にあった激臭魔法剣士は、すでに大聖霊魔法を唱えきり、迸る力を放出していた。

 

(やっと出せたわ。とくと味わいなさいッ)


 一撃目も二撃目も、本命を当てるための引き立てに過ぎなかったのだ。

 不敵な笑みを浮かべ、ランナはその場から離れた。

 

「しまった! これは、ウホホーッ!」


 ウッホは目を見開いたまま、発生した閃光に飲み込まれる。


「やりましたねランナ!」


 作戦成功にはしゃぐルイも、ウッホが落下してくるだろう地点から急いで離れた。


(眩し―‐下僕共を抹殺した魔法だろうが上等ッ、オラには効かねぇからな!)


 高すぎる誇りと自信を胸に光を通り抜けたが、攻撃対象を見失ったまま地上に着地した。

 動揺はせず直ちに身体確認。風の聖霊魔法攻撃による痛みや傷以外は、新たな攻撃は受けていない。

 決死の第三波は外れたぞと、ほくそ笑んでやろうと口角を曲げかけたが、


「ウヘァ――ッ!?」


 身体に電撃が走るような違和感が発生。

 鼻がひん曲がるかのようなにおいがしたのだ。排泄物や生ごみ、体臭のそれとも違う。香水のにおいのようだが不快感の極みだ。

 ウッホも例外ではなく余りにも酷くて耐えきれず、目眩を覚えて膝をついた。

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