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激臭の女勇者ランナ  作者: 阿国豊山
女勇者あたし、においがヤバい
16/29

あたしとルイの記念日

「うぉッ、邪鏡結界が消えた! オイオイ、あいつら本当に邪鏡を割りやがったぞ!?」

「あいつらの実力じゃ、失敗パーティ続出のヒノエ神殿を攻略するなんて無理なのに……マジなのかよ、ランナの頬に浮き出た聖霊文字らしき紋章は、ヌンキ様と契約した証だって話は!」

 

 ダブとステップは、共に驚愕して目を見開いた。

 そしてジョウも目の前に起きた現実が信じられず、開いた口が塞がらない。


(ヒノエの神殿はステップの言う通り難所なんだ。それをあのランナ達が!)


 マグレで乗り切れる簡単な世界ではない。

 彼の認識では勇者に相応しくない平民の落ちこぼれ二人が、ヒノエ神殿の邪鏡を割るに成功したのだ。


「大聖霊との契約で頬に紋章が出るなんて知るか。歴史上初の人間なんだぞ……クソッ」


 聖霊と契約した際においては、身体に特殊な変化は起きない。だが大聖霊と契約した場合の変化は、誰も知るわけがない。なので頬の大聖霊文字とやらが顔料による細工だと疑うのも無理はなかった。

 大聖霊の石板を見つけて封印から解放、契約までしてみせた人間なんて、今まで存在しなかったのだから。

 しかし目の前で浮かび上がる様子を目撃したのに加え、宣言通り邪鏡を破壊して結界を消滅させた現実――実際大聖霊魔法を見てはいないが、それでも信じざるおえないだろう。

 ランナが豪語した、大聖霊ヌンキと契約を交わしたという大快挙を成し遂げた話は、真実であると。

 そして、噂の彼女が姿を現した。


「あーっ、邪鏡結界が消えてるわよルイ!」

「感動ですね。ランナと大聖霊魔法様々ですぅ」


 地上に出てきたランナとルイは、緑にまみれた大きな神殿をすっぽり覆っていた邪鏡結界の消失を確認して、歓喜の声を上げた。

 互いの腕を組み、浮き立つように跳ねて歩く二人は段差を飛び越えて着地し、ジョウ達と対峙。

 彼らは驚天動地の面持ちである。

 しばし無言の時間が流れたものの、ランナとルイが揃ってしたり顔を浮かべる。


「やったわよ、ジョウ。中でうじゃうじゃと待ち構えてた眷属を一匹残らず消して、ヒノエを支配してた強ーい大眷属を倒して邪鏡も割ったわ……大聖霊ヌンキ様の力でね! 勇者手帳を持つ者として結果を出したし、これで文句無しでしょ」

「凄かったですよー、ランナの大聖霊魔法。もはや敵なしですよアレは。お見せできなかったのが残念なくらいです」

「ぐぅ……」


 勝ち誇った様子のランナとルイを前に、ジョウは悔しそうに視線を彷徨わせ舌打ちをした。


「なにが大聖霊魔法だ! 奇跡を起こそうが最低限、やっと邪鏡一つ壊したくらいでいい気になるなッ。貴様らは勇者としての一歩を踏み出したにすぎん」


 どれだけの偉業を成そうがプライドが高く負けず嫌いな彼は、ランナを完全には認めない。

 逃げるように身を翻し、


「歴史に名を馳せるくらいに運が良かった! ただそれだけだ貴様はっ! オイ行くぞお前ら」


 オロオロと狼狽えていたお供達に声を掛け、足早に場を後にする。


「あ、待って下さいジョウ様ー!」


 ダブが慌てて後を追う。


「覚えてろよお前ら! その運も長く続くと思うなッ」


 ステップもランナ達に負け惜しみめいた言葉を吐いた後、二人に続く。

 ジョウ一行は廃都ヒノエを出て、やがて見えなくなった。

 棒立ち真顔で見送った勇者少女達。

 訪れた静寂の中、ルイがあきれ顔で口を開いた。


「覚えてろよって、どういうことなんでしょうか。こっちが何をしたわけでもないのに。ランナの運がケタ違いに凄いと思うのは同意ですが、難癖つけてくる騒がしい輩達とはもう出会いたくないですねぇ」


 ランナが腰に手を当てて頷いた。


「褒めてんのか貶してんかわからないわね。ま、きっかけは幸運だろうとやっと結果でわからせれたし、今後はウザ絡みしてはこないだろーけど」


 言い切る頃には、彼女の表情がしてやったりとしたものに変わる。


「えぇ。これで口だけじゃなく堂々勇者を名乗れますね。私も巻き添えをくらったかいがあります」


 ルイが親指を立てて白い歯を見せた。


「激ヤバ効力だったけど、激危険な魔法でもあったしね……ルイは具合、あれから大丈夫?」


 ランナが大聖霊魔法の余波を受けて大変な目にあった相棒を再度心配するも、


「ゴリンの実のすり下ろし汁で治りきったので、問題ありません。二回目は鼻を塞いで防ぎましたし、この通りですよ」


 ルイは心配無用とくるくる小躍りしてみせる。

 ランナはほっと胸を撫で下ろした。


「平気そうで良かった。じゃあ出発しましょ。ワニの町に着いたら、無事に使命を果たしましたってことを報告ないとね」

「えぇ!」


 二人は邪神ミルンの魔の手から解放された神殿を後にして、廃都ヒノエを意気揚々と歩き出した。

 森まであと半ばといったところで、ルイは隣のランナの顔を覗き込む。


「ランナ! 多少長くはなりましたが、ついに私達が一人前の勇者になった日を迎えることができました。なので……今日は町でパーっと騒ぎましょう」 


 両手を広げて祝勝会を希望するルイの表情は、これまでにないくらい輝いていた。


「パーッとってねぇ。あんた、うちらの財政事情知って言ってるの?」


 ランナが苦笑しながら返すと、ルイはにんまりと笑った。


「私達は街道を通る人達に迷惑をかけてた、厄介な邪鏡を壊したんですよ。ジョウ達みたいに感謝されて、タダでご馳走食べれるのは間違いないかと。これぞ勇者の特権ってやつです」


 鼻高々に言われたランナは、納得したようにポンと手を叩く。


「あぁ、そーいうこと! 毎回失敗してばっかだったから、成功した自分達の扱いなんて頭になかったわ。確かに激感謝されまくるでしょうね」


 たくさんの人から感謝され、豪華な大皿料理を食べている自分達の姿を、二人は頭の中で浮かべた。

 初成功の高揚感が大きすぎて、妄想が現実になると勝手に確定させる。

 ルイは湧き上がる期待を抑えきれず、


「あー楽しみになってきた! 走りますよランナ、喜びの赴くままにー!」


 足の回転を上げ、疾風の如く走り出したのだ。

 よほど嬉しかったのか、普段の彼女が見せない高テンションにランナはビクッと驚いて、慌てて彼女の後を追う。


「待ってよルイ! もー、いきなり元気じゃん。てかそんなに速く走れるなら普段から走りなさいよ!」


 一行は朽ち果ての都市をあっという間に駆け抜けて、森の中に入った。

 そしてルイは木の根に躓いてコケた。

 眷属も結界も消えて勇者達も去った廃都ヒノエは、元通りの静けさを取り戻したのだった。

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