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暗黒街探訪

作者: 中川 篤



 新大阪から新横浜。新横浜から横浜へ。横浜から関内駅へ。ごみごみしてて案外いいところやないか。新横浜から横浜までの道のりは良かった。空気がやっぱ違うわ。ドヤ街の香りがするわ。よう知らんけど。ここでの過ごし方は二つから選べと言われた。みなとみらいちゅうところでジャズ聴いてクラフトビール飲む観光客コースと中区のヤーさんやら危ない宗教施設の事務所の近所で古書店巡りしたあと、何やでっかい図書館に入り浸る不健康横浜市民コース。

 どっちも嫌やけど、選べちゅうたらまあ後者やろな。

 そう答えると、おっさん仰々しく、天を仰いで、残念だと抜かしおったわ。でも内心ではうれしがってるのがよくわかった。

 というやり取りがあって、黄金町までの道筋を教えてもらい、横浜駅の人のたっくさんおる通路を頭上の案内板を目を回しながら歩いた。

 まあ、迷路みたいや。ウロウロしとると、

 「ァ痛あ!」

 と、どっかから声が上がった。誰かが人にぶっつかったみたいなんや。

 「痛えぞ!」

 おおこわ。

 仕様(しゃあ)ない奴らや。何だか笑ってしもうた。そりゃそうや。あたりがガヤガヤしとった。髪を染めたやつ、ポケモンのグッズに身を固めとるやつ、バンドマン風のV系、聖書や仏教のパンフを配ってるやつまでいおる。中華街がこの辺りにあるからか中国人の数も多かった。


 なんかうまいもんくおうと思った。近くにお伊勢様があるらしい。そこはまあ帰りに寄るとして、弘明寺というところを勧められた。とにかくうまいもん。この辺りは割といい店が並んでそうやった。「すずや」(漢字がわからへん)という店でラーメン食った。うまい。店を出るとヤーさんが警察に捕まっとった。まったくここはすごいで。七メートル置きに犯罪事件が多発してるんやから。とんでもない暗黒街や。


 それから人に聞いたりして(ヤーさんぽかったが)伊勢崎モールという通りに迷い込んだ。人がごみごみしてて、韓国系の店が多かった。落語家が歩いて、猿まわししとった。かわいいもんやな。

 三月やった。いい季節で、皆思い思いの格好しとる。道路一本越えるとそっち系の店が平然と軒を連ねとるんやから。たまげたもんや。これでも浄化された方って言っとったけどな。

 店の前のラックに吉川英治が並んでるのを見て、ちょっと手にとって嬉しくなった。カンカン虫が唄うやった。五十円の値札がつけられとったんで本もつて店ん中入った。ざつぜんとした、オッソロしく汚い店やった。けどけっこうな掘りだしもんがあるんや。ふっるーい漫画やったり、エロ本の中古雑誌やったりな。それも一冊手にとって、レジに向かった。巨乳の子や。


 レジはごちゃごちゃしていて奥からぬっと親父が出てきた。家族経営らしくて、カウンターからは店んなかが覗けた。

 「これいくら?」

 出てきたのは四、五十代のおっさんで、所帯じみてた。本をさっと見ると、えへへと笑って(コノヤロー)、

 「ああええと、これは」

 「おっちゃん()よしてえな。そんな急いでるわけじゃないけどな」とんでもない嘘やで。エロ本目の前でジロジロ見られて羞恥プレイか? 話題をそらすように、

 「なあ、弘明寺ってとこ知らへんか」

 「弘明寺? 弘明寺行くの?」

 なんや食いつきいいな。

 「ちょっとまってて、おおーい! 順! これいくらか分かるか」

 順が顔をのぞかせる。女の子や。そのうえ巨乳の。やめてーや。

 順は汚いもんでも見るような顔して、

 「二百円でしょ…?」

 「ハイ、ソノトオリデス」

 順はすぐに奥に引っ込んでしまい、おっちゃんがヘラヘラしながら、

 「はは。関西から来たの。大阪、神戸?」

 「出身は大阪やけど、今は神戸の布引ちゅうとこに住んどる、あんたはここらへんの人なんやろ?」

 「ここに店あるけど、杉田っってとこの生まれですよ。ア、杉田ってのはこの近くの」

 「それは聞いとるから知っとるんや。いいことなんやろ?」

 「子どもがいっぱいいますよ」

 「そりゃええところや。ありがとうな!」代金を払って、それから店を出た。店のおっちゃんも本を軒先のフックに下げるために表に出てきた。「弘明寺はこのまままっすぐ行くと着きますよ。桜がきれいですよ」

 「おう。またな」

 


 

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