七
「エコーシステムの無効化、それが唯一の選択肢ではないでしょうか」
国家安全保障会議の緊急召集から八時間が経過していた。発言したのは経済産業大臣。その声には、明らかな焦りが滲んでいた。
「システムの無効化なくして、海上自衛隊の展開は不可能です」防衛政務官も同調する。「このままでは、我が国の主権が」
首相は黙って目を閉じていた。表情からは疲労の色が濃く滲んでいる。官房長官が静かに口を開く。
「アメリカの見解が入っています」スクリーンが切り替わる。「国務省報道官の声明です」
『極東での事態を注視している。しかし、これは地域の問題として、関係国による平和的な解決を望む。太平洋艦隊は、同盟国の安全に関わる事態が生じた場合に備え、準備態勢を維持する』
「この消極性は」外務大臣が言葉を選びながら続ける。「内向き政策への転換を示唆しています。エコーを無効化したところで、アメリカの積極的な軍事展開は期待できないでしょう」
防衛省情報本部長が新たな分析を示す。
「中国は現在、様子見の姿勢を取っています。しかし、エコーが無効化され、当該海域での軍事展開が可能になれば――」彼は地図上を指す。「彼らは必ずや、独自の行動を起こすでしょう。そして、その動きに北朝鮮が呼応する可能性も」
会議室に重い沈黙が落ちる。全ては繋がっていた。エコーの無効化は、より大きな危機の引き金となりかねない。かといって、現状を放置すれば、北海道の一部を失うことになる。
「我々は」首相が静かに言葉を発する。「エコーの公開によって、国際社会に約束をしました。この海域の安定は、我が国の責任であると」