六
「四」の内容と入れ替わっていました。最初期にご覧いただいた方は、申し訳ありませんが、読み直しをお願いします。
まぁ、順序が知違ってもだいたいこんな漢字で流し読みで大丈夫なんですけどね。そのほうが、読むのも書くのも楽ですし。
ただ、読み直すと、「エコー」の影響についての認識二若干の変化があると思います。
稚内の街は、異様な静けさに包まれていた。
「第二次上陸部隊、予定地点に到達」
陸自のフォワード・スパッターが、暗視装置を通して港湾部の状況を監視する。装甲を装備した高速艇が次々と接岸し、整然と部隊を展開していく。その動きには、長年の訓練の痕跡が見て取れた。
「衛星通信、一時的な復旧」通信班が報告する。「しかし、『エコー』の影響で、安定した通信の確保は困難です」
内閣情報調査室に派遣された北部方面総監部の参謀、佐伯大佐は状況報告に目を通していた。極東人民解放軍は、驚くべき速度で態勢を整えていく。
「総監部からの報告です」副官が新たな情報を伝える。「解放軍、宗谷岬の旧自衛隊施設に指揮所を設置。既に対空レーダーの展開を確認」
佐伯は地図を見つめる。彼らの戦略は明確だった。「エコー」システムによって制限された海域を背後の盾とし、陸路での進攻を図る。海と空からの攻撃を受ける心配がない以上、防御に回す必要もない。全てのリソースを、南への進攻に集中できる。
「各地の状況は?」
「利尻島、礼文島にも小規模部隊が上陸。稚内周辺の自衛隊施設は全て制圧されました。市街地での戦闘は最小限に抑えられています」
その時、新たな情報が入る。
「ヴォルコフ司令官、再び声明を発表。『我々は極東の新たな秩序を構築する。これは侵略ではなく、歴史的必然による解放行動である。日本国民、特に北海道の住民に対して敵意はない』」
佐伯はため息をつく。声明の内容よりも、その戦略的な意図が見えていた。市民への直接的な危害を最小限に抑えることで、国際社会からの非難を軽減する。同時に、軍事施設への精密な制圧によって、実効支配を着々と確立していく。
「本土からの増援部隊は?」
「第六師団の前進部隊が青森に到着。しかし、海路での展開は『エコー』の影響で困難。陸路での北上となれば、相当の時間を」
突如、通信機が緊急信号を発する。
「旭川方面からの通信です。利尻島沖で中国海軍の情報収集艦を確認。領海には入っていませんが、明らかな監視態勢を」
状況は刻一刻と複雑化していく。日本の安全保障に突きつけられた新たな現実。それは、「エコー」によってもたらされた皮肉な結果だった。