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三
稚内上空の暗闇を、無数の探照灯が切り裂いていた。
「第一波、ノースベイ地区に着地。残存18機を確認」
陸自迅速展開隊の通信が、第一空挺団指揮所に届く。ソ連時代から続く戦略だった。大型ドローンによる偵察と牽制、そして北方の沿岸部からの高速艇による特殊部隊の上陸。同時に、空からの降下部隊が拠点を確保する。
「滑走路、制圧されました」
稚内空港管制官の最後の通信が入る。管制塔の窓から、装甲を纏った人影が滑走路に次々と降り立つのが見えた。その背後では、逃げ遅れた民間機が炎を上げている。
「ヴォルコフからの通信を受信」
『我々は民間人への危害を意図していない。抵抗がなければ、一切の危害は加えない。これは解放のための行動であり、占領ではない』
「解放」――その言葉の裏にある意図を、作戦指揮官たちは直感的に理解していた。これは一九四五年八月、ソ連軍による北方領土への上陸と同じ論理だった。