二
「防衛大臣から、スパイダー・プロトコル発動の承認が」
参謀の報告に、源田は無言で頷く。隣室では統合幕僚監部の初動対応要員が次々と集結し始めていた。画面の中で、未確認機群は確実に日本の領空へと侵入していく。
そこへ新たな通信が入る。
「ハバロフスクより緊急放送。極東軍管区司令官、ヴォルコフ大将が『極東人民解放軍』の樹立と、ロシア連邦中央政府からの独立を宣言」
「映像を」源田は即座に要求する。
スクリーンには、旧ソ連軍の軍服に似た制服を着たヴォルコフの姿が映し出される。
「我々は、極東の民衆の意志に従い、中央政府の圧制から独立を宣言する。民衆の真の解放と、極東の新秩序の樹立のために、我々は必要な軍事行動を取る権利を留保する」
ヴォルコフの声には不自然な確信があった。その背後には、かつてのソ連時代の軍旗を模した旗が掲げられている。
「稚内沖の反応、さらに増加。計40隻を超える高速艇を確認」
地下指揮所の空気が、より重く沈んでいく。「エコー」システムは、皮肉にも日本に対する新たな脅威の発生を許してしまった。制限された海域の存在が、むしろ侵攻のための完璧な盾となったのだ。