表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

笑顔に背を向け

作者: くだか南

私は人の気配で振り返った。

そこには男が立っていた。

いつからこの男は、この屋上にいたのだろう?

「お嬢さん、もしかして、飛び降り自殺ですか?」

男は、自信なさげに聞いてきた。

そう、私は今ここから飛び降りて、死のうと思っていた。

私の周りは馬鹿しかいない。

私はあの人達が何を言っているのか解らない。

あの人達にも、私の言葉は届いていないのだ、きっと…。

世界には馬鹿しかいない。だから私は、この世界から消えなければならない。だから私は、古ぼけたビルの非常階段を上って、この屋上の錆びた金網の前にいるのだ。

ここから飛び上るために。

私は男を見る。

妙にビクビクしている。四十前くらいの薄汚い男だ...。

「お嬢さん、飛び降りだよね?」

男はまた聞いてきた。私は答えずに男をにらんだ。視線をそらしながら男は言った。

「いや、まあ、急に声をかけたのは…うん、謝るけどさ、えーと、ねえ、ちょっと見てもらいたい物があるんだけど」

バッグの中からノートのような物を取り出した。男は数歩下がった。

「ね、ちょっと見てくれない?」

男は私との距離をとると、そのノートの様な物を投げてよこした。私は思わずそれを両手でつかんでいた。

それはノートではなく、小さなアルバムだった。

「ね、お願いだから」

男はさらに後に下がった。

男とアルバムを交互に見て、私はアルバムを開いた。写真には道が写っていた。

中央には人が倒れている。

すぐにその意味が私の目玉に飛び込んできた。

それは飛び降り自殺を写した写真だった!

血まみれになっている。

手や足が変な方に曲がっている。

何故か私は、その無惨な写真から目が離せなかった。

そして私は、自分がその写真のように、血まみれで道に転がっている姿を想像した。

嫌だ!!

こんなになって人から見られるのは嫌だ!!

私はアルバムを足下に落とした。

「飛び降り自殺ってね、きれいじゃないんだよね、人は簡単に飛び降りちゃうけど、その後の事なんて何にも考えないよね、ま、そりゃ自分はいなくなるんだから当たり前だけど」

男はまだ遠くの方に立ったまま言う。

「飛び降りるとね、手足は折れちゃうし、頭が割れて脳みそが出る事があるし、当たりどころによったら、腹が割けて内蔵が飛び散っちゃうし、それにその後、たくさんの人に見られるし、それを掃除する人もいるわけだしね」

私は金網から離れた。

もう下を見るのも嫌だった。

男は私が立っていた場所まで来てアルバムを拾った。

「うん、でね、僕がこのアルバムを見せたのはね、お嬢さんの決意が固くて、このまま飛び降りるんだったら」

私は男を見た。

「飛び降りた後の写真を、僕が撮るからねって、いちお言っとこうと思ってね」

男は笑顔で言った。

私は、その笑顔に背を向けて、非常階段を駆け降りた。




「笑顔に背を向け」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ