見守るもの
下界を眺めていた神様が人類の蛮行を見て心を痛めた。
「なんてことだ……」
人類ときたら自らが賢い事を良いことに他種族の命や棲家をどんどんと奪い去っているのだ。
「生存競争などと……それらしいことを嘯きおって」
この状況を重く見た神様は人類へ天罰を下すと決めた。
そして、いざ天からの雷を放とうとした時、突如悪魔がやってきて神様へ言った。
「そんな非効率的なことをしなくても良いだろう。俺がもっと効率的な方法を教えてやろう」
神様は悪魔をちらりと見る。
悪魔は人間よりは遥かに強い存在だが、神である自分にとっては何が起ころうとも決して勝てない存在だ。
つまり、神様が出し抜かれることは決してない。
故に神様は悪魔へ言った。
「ならば、言ってみろ。効率的な方法とやらを」
ところ変わって、こちらは下界。
ある娯楽施設が流行り出した。
そこは対価を支払えばありとあらゆる願いが一日だけ叶うというものだ。
美女を侍らすことも、色取り取りの男に求愛されることも、王になることも、人を殺すことも、たった一日限定ではあるが何もかもが思いのままだ。
では、対価とは何か。
それは自分の持つもの全てだ。
財産は勿論、命も含めて。
要するにこの場所はほんの一日の幸せと引き換えに命を失う場所なのだ。
事実上の安楽死施設である。
とんでもない施設であるが、世間の批判をものとものせずこの施設は繁盛し続けた。
これには背後に悪魔が居た事もあるが、それ以上に生きづらさを抱えて生きていた人々が多かったという証拠でもあったのだろう。
下界の様子を見ていた神様は大きくため息をつく。
人間の数は順調に減っていた。
かといって、絶滅するほどに減っているわけではない。
結果的には丁度良い案分になっているのが実に皮肉的だ。
そこに悪魔が現れて言った。
「あんたはいつも0か100だ。そろそろこう言う絡め手も覚えな」
神様は呆れ笑いをする。
悔しいが今回に限って言えば自分の負けかもしれない。
「それにしてもよくこんな方法を思いついたな」
「固定観念に囚われ過ぎているのさ。命は必ず生きていたい……なんて前提で世界を見るからこんなことにも気づかないんだ。それに」
「それに?」
神様が問うと悪魔は勝ち誇った顔で言った。
「俺はあんたよりずっと長く、ずっと近くで人間を見守り続けているからな」