Side 亜衣 濁流
前回のあらすじ
2022年8月23日
うしなった記憶を探して小説を書き進める。
そんな時、一つのコメントが投稿される。
それは、この小説の作者がもういないと言う。
数日前から異常気象のせいか記録的な豪雨が続いていた。
今日も雨はやまない。
「相変わらず凄い雨だね」
麻衣が言った。
「だね。お陰で仕事にも行けやしない」
私は高校を出てすぐ就職し接客業に従事していたが、
鳴り止まない大雨警報のお陰で外出も出来ずにいた。
それは麻衣も同じだった。
「芽衣はタイミング良かったね♪まぁお陰で帰って来れないんだけど」
芽衣はお母さんと大学の見学のために隣の県に行っており不在だ。
今日帰ってくる予定だったのだが豪雨の影響で日にちをずらしていた。
お父さんも単身赴任で他県に出ている。
お陰で今は麻衣と二人だ。
「それにしても降りすぎだよね。地球ふやけちゃうんじゃない?」
私はこの時まだあんな事になるとは思ってもいなかった。
「それは大変だ♪ドライヤーで乾くかな?」
私達は2階の自室で呑気に話していた。
その時、今まで聞いた事のない様な地響きを聞いた。
そして地面が揺れる。
「なに!?何の音?」
私は慌てふためく。部屋の電気、全ての電化製品が停止している。
停電?何かが起きた。それだけは間違い無かった。
「ベランダから外を見よう」
麻衣は真剣な顔で言う。
私達はベランダに出る。
そこには土砂に埋まった景色が広がっていた。
私達のいる建物も一階は土砂に埋もれていた。
現実のものとは思えなかった。
呆然とする私を他所に・・・
「救助を呼ばなきゃ!」
麻衣は電話で救助を呼ぶ。
救助ヘリが来るまでは時間がかかる様だ。
私は命の危機を感じた。
恐怖で何も出来なくなっていた。
「時間は少し掛かるけど救助ヘリが来るって♪これで安心だね」
努めて明るく言うその声は少し震えていた。
それからどのくらいの時間が経っただろう・・・。
麻衣は携帯を弄ったり、情報を調べたり、定期的に救急に連絡したりとしていた。
私はただただ恐怖に震えていた。
そんな私を麻衣は励ましてくれていた。
・・・
そして暫くして、遠くからヘリの音が聞こえる。
私達はベランダに飛び出した。
外の状況はさっき見た時よりも酷くなっていた。
救助隊員が降下してくる。
私は助かったんだと安堵した。
そして救助隊員は言う。
「二人一度の運ぶ事は出来ない。近くの安全な場所に2回に分けて搬送する」
「亜衣、先に行きなさい♪」
「え・・・、でも・・・」
私は、言い知れない不安感から言葉に出来ない言葉を漏らす。
すると、麻衣は少し携帯を弄ったかと思うと、
「そうね。私が・・・いなくなってから1時間後、
何も無ければこのスマホを芽衣に渡して欲しいの」
やけに芝居がかった物言いで麻衣は私のポケットにスマホを入れた。
「救助隊員さん。お願いします!」
安全具が私に手際よく取り付けられる。
そしてヘリが上昇し隊員の人と私の体が宙に浮く。
麻衣は笑顔で手を振る。
その姿が離れていく。
その時、轟音を立てて山が崩れ落ちる。
そして麻衣を飲み込んだ。
私は声にならない叫び声を上げ意識を失った。
その光景が脳裏に張り付いて離れない。
この時、私は姉と最愛の人を同時に失った。