Anoter side ⅲ.
いつの間に意識を手放したのか分からない。
メールを開いた所までは覚えている。
私は今はもうどこにもない、
以前のあの家の、あの部屋にいた。
あぁ・・・、これは夢だ・・・。
あの時の様に私はベッドに寝転がりながら、
携帯で麻衣の作品を読んでいる。
投稿者名は『ディア』。
そして、読んでいる作品は・・・
『遺書と言って渡されたのはライトノベルでした。』
それは、麻衣の創った物語。
とても哀しい物語。
私のよく知る物語・・・。
私はそれを読み進める。
そして・・・真実を知る。
私は読み終えてベッドに座る。
そこには・・・
あの時と同じ様に、
床に正座して小説が読み終わるのをじっと待っている、
麻衣がいた。
「どうだった!?」
麻衣が期待混じりの声で私に問いかける。
あの日と同じだ。
まるで、あの幸せな日々の続きの様だ。
「誤字、脱字が多すぎ」
私は、あの時と同じ様にダメ出しをする。
「まずそこ!?他にもっとあるんじゃないの?」
麻衣は不満そうな素振りを見せながらも楽しそうに言う。
その仕草は、まさに麻衣そのものだった。
・・・
そして一呼吸置いて、私の見た事のない少し悲しそうな表情を見せる。
これは本当に夢なのだろうか?
だとしたら、普通ではない。
夢特有の違和感が感じられない。
私の知らない表情を見せる夢。
一切の違和感を取り払う、夢のような世界。
・・・
「忘れて欲しいって伝えたつもりだったんですけど?」
麻衣は、少し拗ねた様な口調で言った。
ちょっと怒っている様にも見える。
「あぁ。伝わってるよ?」
私は、その理由を知っている。
それは私の為だ。
彼女の怒っている理由も分かっている。
「じゃあなんでっ!忘れてくれないの・・・」
私は決してこの哀しみを忘れない。
それでも彼女は、忘れて欲しいと言う。
彼女の望みは私の望みだ。それでも・・・
「忘れたくないからだよ」
私は、優しく答える。
その瞬間、
舞台はいつもの公園に変わる。
見慣れた場所。
「今でも覚えてるよ。あのドロップキック」
彼女は間違っている。
時間が傷を癒してくれるのではない。
傷を癒すのは、私自身だ。
時間は記憶を暈していく。
しかし、哀しみを奪いはしない。
時間はいつか、哀しみの理由だけを消し去っていく。
「哀しみに囚われたら幸せにはなれないよ?」
私はこの哀しみの物語に、
私の本当の想いを加えていく。
「後ろを向いていたら、前を向けない」
時に逆らい必死で残す。
残すのは・・・哀しみの理由。
「足枷になるのは嫌なの!」
それには大きな意味がある。
「亜衣には幸せになって欲しいの・・・」
それは私の心の在処。
居場所を失った心は・・・
『それはもう、私のものではない。』
私は彼女を、彼女との記憶を、
心の在処に選んだのだ。
私は彼女が忘れて欲しいと願う、その理由を奪う。
「私は、この哀しみを抱えたまま幸せになってみせるよ」
私は、麻衣が想像出来る幸せなんかじゃ物足りないんだ。
私は、麻衣の想像も絶する様な幸せになる。




