side 亜衣 意思疎通
色々な事が同時に起こって頭が追いつかない。
麻衣の父親に説教をしたら、瑠衣が盗み聞きしてて、
ドアを開けて現れたと思ったら女性の格好をしていた。
うん。意味がわからん。
服装だけじゃなく化粧もしっかりとしている。
普段からそうなのか?
「幼稚園児でも知ってる、は傑作だったなぁ。
笑いが堪えきれなかったよ」
瑠衣の奴は、随分と楽しそうに笑っていた。
「瑠衣!?その格好はどうしたんだ?」
麻衣パパが驚いている。瑠衣パパか?どっちでもいいや。どっちもだし。
んー今は瑠衣がいるし、とりあえず瑠衣パパとしよう。
私は、頭が混乱して訳のわからない事を考えていた。
「亜衣、初めましてだな。
投稿サイトで話してたから初めてな感じがしないけど」
瑠衣パパほったらかしだけどいいの?まぁいいか。
あの様子だと普段からこの格好という訳ではない様だ。
「だなぁ。お前、トランスジェンダーだったのか?」
聞いて良いものかとも思ったが、私の事は知っているのだしいいだろう。
ある程度交流があるなら、聞く事自体は悪い事ではない。
余計な誤解を避ける為にも、そして相手を知る為にも。
無理に聞き出そうとしたり、他人に勝手にバラすのが問題なのだと思う。
『大切なのは配慮だ。』
斉藤が間違えたのは三人組で来た事、
そして最低限の前知識を持たなかった事だな。
他人にバラされる事は、とても大きな問題なのだ。
相手がちゃんと配慮出来る人かを見極める必要がある。
そう言えば、静江母さんが瑠衣に会ったら驚くと思うと言っていたが、
この事だったのだろう。
「やっぱり聞いてなかったんだな。
母さんには伝えていいって言ったんだけどなぁ」
瑠衣はやれやれといった表情を浮かべていた。
静江母さんは結構イタズラ好きだからなぁ・・・。
絶対わざとだ。
「で、その格好は?」
瑠衣パパが可哀想だし話を戻そう。
「それこそ聞いてないんだな・・・。
私としてはお前のその格好も驚きなんだがな」
経緯は先程、盗み聞きしていた様だが・・・。
「お前の妹、凄いな。ゲームに負けてこのザマだ」
芽衣なにしてんの?
何やら、SNSのやり取りからメールを使ったゲームで勝負して、
負けたらしい。メールは例の予約送信メールを使ったらしいが・・・
「あのメール、やり方は分かりずらいけど内容書き換えれるぞ?」
実はあの予約送信は送った後、修正が出来るのだ。
麻衣のメールに違和感を覚えて調べたら出来た。
日付はそのままだったし修正の痕跡は残らなかった。
ほぼ間違いなく、麻衣は修正を行なっていたと思う。ずるい。
もうすぐ届く2年後へのメッセージもいつ書いたものなのやら。
「はぁ!?イカサマじゃないか!」
昨日の自分を見ている様だ。ご愁傷様。
一緒に聞いてた瑠衣パパも状況をある程度、把握した様だ。
「まぁ、いいじゃないか。似合ってるぞ」
私は瑠衣を慰める様に言ったがわりと本気でそう思った。
背は高いが普通に美人に見える。
ちょっと格好いい。タイプではないが。
「ありがとよ。まぁいいか・・・。それよりさっきの親父との話だ」
ちょっとまだ納得いかない表情だが、溜飲を下げた瑠衣は強引に話を戻した。
「なんだ?間違った事は言ってないぞ?」
むしろ、これほど正しい事もないだろう。
「その通りだな。私もそう思うよ。
私達に足りなかったのはコミュニケーションだと思う。
私は親父の事を尊敬してるし別に恨んでもいないし」
瑠衣は真剣な顔で言った。
少し意外な気もしたが、それほど違和感も感じなかった。
しかし、引きこもりがコミュニケーションとはよくいったものだ。
瑠衣パパは、驚いた顔をしていた。
慣れてきたのか無表情の中にも感情があるのが分かる。
早くも少し分かる様になってきた。なんでだ?
「とりあえず、やってみたらどうだ?『ごめんなさい』ってやつ。
目の前に丁度いい練習台もいるしな。
私もさっき知ったけど、言われたら結構嬉しいぞ?」
斉藤に言われて、誤解が解けて、私は素直に嬉しかった。
言わないと分からないのだ。
言っても分かるか怪しいのだから、言わないで分かるはずがない。
言わないでも分かるなんて事は、それまで積み重ねた結果か、
はたまた都合のいい思い込みか。
まずは、言わないと、問わないと、発しないと、
関心を持たないと始まらないのだ。
そして謝罪はとてもハードルが低い。
明確な理由があるから。
謝れば許されると言うものでもない。
しかし、謝らないのはもっと悪いだろ?
自分に否があるなら、それを明確にしてやる事で共通の認識が生まれる。
明らかな相手の否ですらも、相手に認めて貰わないと明確にならないのだ。
なぜだろう?
人は相対的にしか物事判断出来ないからか・・・
自分の認識だけでなく、比較対象を必要とするのではないだろうか?
自分と相手の認識を照らし合わせ、正しさを証明する。
その時、初めて確証に変わる。
それは、お互いにとって有益な事実として繋がる。
それを意思疎通、コミュニケーションというのではないだろうか。
配慮して問いかけて、それに答える。いや、応えるかな・・・。
それの積み重ねなのかも知れない。
そして人は、中心に一歩近づく。
とても手間の掛かる作業だ。
億劫になる事もあるかも知れない。
それでも人は歩み寄る。
『人は一人では生きていけない。』
いつぞやの自分の言葉を思い出す。
大切な事だ。それを怠った・・・だから怠慢か・・・。
瑠衣パパの思う事が、表情が読めた理由が分かった。
彼は、やっぱり昔の私に似ている。
「今まで、関わる事を避けていた。私の怠慢だ。
目を背けていた。本当にすまなかった。
今更だが、お前と向き合いたいと思っている。
私は・・・これ以上、後悔を重ねたくない・・・」
瑠衣パパは、静かに相変わらずの無表情で言った。
「お互い様だよ。私の方こそごめん。いつもありがとう」
瑠衣は、にっこりと笑いながら言った。
こいつはこいつなりに色々と考えていたのだろう。
瑠衣パパが仕事を頑張っていたのは家族の為でもあるだろうしな。
家族は恩恵も受けている。
静江母さんのSOSを無視した事以外は、
それ程大きな問題でもなかったのかも知れない。
まだ十分やり直せるのだろう。麻衣の事を除けば・・・。
いや、麻衣の事はこいつが悪い訳じゃないが。
ただ、謝る機会を失ったと言う事なのかも知れない。
しかし、それがきっかけになった。
麻衣は、もしかしたら満足しているかもな。
それこそ都合のいい話かも知れないが・・・。
「ありがとう・・・」
瑠衣パパは目に小さな涙を浮かべながら小さく呟いた。
死後に届いて欲しい言葉が沢山ある。
沢山語られるスピリチュアルな事象の多くは、
やはり生者の願いなんじゃないだろうか?
『届いて欲しいな・・・彼もまた、一歩踏み出したよ・・・。』
・・・
さぁ、ここまで来たら完遂してやろうじゃないか!
「瑠衣。ちょっと近くの喫茶店で話そうぜ」
瑠衣パパが心の整理をする時間をあげようと言う配慮、
と言うよりは・・・
「この格好でか!?着替えちゃだめか?」
「いや、実は私はとても忙しい!着替える時間などない!行くぞ♪」
忙しい訳などない。芽衣からのミッションは、
瑠衣パパへの説教と・・・こいつを引っ張り出す事だ!
どこからとは言ってなかったけど。
というか、私と同じ苦しみを味わえ♪
私は意気揚々と瑠衣を商店街へ連れ出す。
いやぁ、実に気分が良い!ミッションコンプリートだ!!




