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side 亜衣 説教

 私はダイニングテーブルで麻衣の元父親にライトノベルを差し出し、

それを挟んで対峙している。


 なんだこの状況?


 我ながら笑えてくる。

 しかし、私は意外と冷静だった。

 向こうは、訳が分からないといった感じだろうか。


 私は事の経緯を話し始める。

 私と麻衣の事、麻衣の最後がどの様だったかについて。

 そして、その後の事、麻衣が残してくれたモノについて・・・。


 あと、ついでに自分の格好についての言い訳も。


・・・


「そうか、君が亜衣君だったか・・・。静江から話は少し聞いている。

 色々とすまなかった」


 一通り話を聞いた後、男は静かに、そして落ち着いたトーンで言った。

 あれ?思ってた反応と違うな。とても理性的だった。

 どうしたものか・・・。

 なぜだろう?私はこの男の話を聞きたいと思った。


「麻衣が亡くなって哀しいですか?」


 私は、少し失礼な事を聞いたのかもしれない。

 なぜこんな質問をしたのだろうか?


「哀しい・・・か。今更、私が麻衣の事を哀しむ資格があるのだろうか・・・。

 父親らしい事を何もしてこなかった。

 麻衣はこんな私をどう思っていたんだろうか・・・」


 相変わらず無表情で感情が読みにくいが、私はその感情をよく知っていた。


 それは、後悔と自責に囚われた・・・自己嫌悪だ。


「後悔、しているんですね」


 何を偉そうに言っているんだか・・・。

 しかし、放って置けなかった。

 きっと麻衣は、この人がこのままである事を望まない。


「後悔か・・・そうだな。後悔している。自分の怠慢に気付かされた。

 私は私自身の責任を放棄した。そして、それに対して出来る事を失った・・・」


 空気が重い。私がこの人を放っておけない理由が分かった。

 この人は・・・麻衣を失ってすぐの私だ。

 気持ちが痛いほど分かった。


 更に言うと、この人は塔矢に出会わなかった私だ。

 静江母さん事も・・・私は責める事など出来ないのかもしれない・・・。


 それでも、全てを踏まえた上で・・・やってやろうじゃないか!


 お説教ってやつを!


・・・


「私は麻衣からあなたの悪口を聞いた事はありませんよ?」


 これは事実だ。


「そうなのか?」


 男は少し驚いていた。


「しょうがない人だ、とか不器用な人だとは言ってたけどな」


 私は少し砕けた口調で言う。

 実際、恨んだりはしてなかったのだろうと思う。

 真面目そうな人だしなぁ。怠慢かぁ。怠慢ってなんだろうな。


「麻衣は・・・そんな事を言ってたのか・・・」


 嬉しそうな、哀しそうな、なんとも表情の読めない人だ。

 不器用な人・・・か。まさに、その通りだな。


「出来る事を失ったって言ってたけどさ。

 多分、あんた大事な事をやり忘れてるぞ?」


 私も、ついさっきその大切さを知ったんだけどな。

 我ながら、よくも偉そうに言えたもんだ。でもそれでいい。

 だからこそわかる事がある。言える言葉がある。


「ん?それはなんだ!?」


 男は目を見開き、すがる様に声を上げる。

 彼はきっと悩んでいたのだろう。

 自分に何が出来るのかと。そして自分を責める言葉を求めていたのだろう。

 この人は、本当に私そっくりだ。



「悪い事をしたら『ごめんなさい』だろ?幼稚園児でも知ってるぞ?」



 私は、目一杯の皮肉を込めて言ってやる。

 くらえ、私の全力お説教!

 

 男はと言うと・・・唖然としていた。


 相変わらず、表情は読めないなぁ。

 

・・・


「ぷっ、・・・くくっ!」


 先程、通った廊下の方、閉めたドアの向こうから怪しげな声が聞こえる。

 必死で笑いを堪えている様だ。

 ドアに付いたスリガラス越しに人影が見える。


 全部、聞いてやがったな。


「盗み聞きとは関心しないな!

 というか、わざと父親と話させたんじゃないだろうな!?」


 私がどれだけ怖い思いをしたと思っているのだ!

 マジでこいつ許さん!


 私がいきどおっていると、ドアが開きそいつが姿を現した。



 は?


 

 どうゆうこと?


 

 こいつは瑠衣・・・だよな?



 そこには・・・女性の格好をした・・・背の高い男性がいた。



 瑠衣は、私の()()を麻衣から聞いて知っている。

 以前、麻衣から相談されて伝えて良いと言った。

 本人の許可無く、それを他人に話す事は絶対にしてはいけない。


 そして瑠衣はそれを知っていて、冗談でこんな事をしたりはしない。


 だとすれば・・・色々な事が納得いく。


 静江母さんと麻衣の私への対応が、

違和感を覚えるほど不快感がなかったのはそういう事だったのだ。



 瑠衣は、MtFのトランスジェンダーだ。

MtFトランスジェンダー: 生まれた時の身体的性が男性(Male)で、性自認が女性(Female)である方のこと。Male to Femaleの略。

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