side 亜衣 斉藤
そこには見覚えのありそうな同い年くらいの男性が立っていた。
「お久しぶりです?田中・・・君?」
私は適当に、適当な事を言ってみる。
何故か、こいつにはそれでいい気がした。
「お前、覚えてないだろ・・・。俺は斉藤だ!」
サイトウ・・・?西東?再投??
「あぁ・・・サイトウ君ね。うん。久しぶり。ペットの犬、元気?」
マジで思い出せない・・・。
「俺は犬なんて飼ってた事ねぇよ!本当に覚えてないんだな。
俺、この公園でお前の姉ちゃんに吹っ飛ばされたんだけど・・・」
「あ・・・あぁ!あの時のデリカシーのない哀れな奴!」
つい本音が漏れる。
「おい!哀れとか言うんじゃねぇよ!デリカシーがなかったのは認めるけどさ・・・」
意外な反応だった。
「すまん。つい本音が出てしまった」
実はいい奴なのか?そんな気がする。遠慮なく冗談を溢してみる。
「本音なのかよ!まぁいいや。今日は謝りたくって来たんだ」
ん?二点ほど意味が分からない事がある。
一つ、謝るのはこっちだ。2mも吹っ飛ばして、私は当時謝ってすらいない。
やったのは私ではないが、横で笑ってた私はどう考えても加害者だ。
二つ、なんで今日、私がこの時間にここを通るのが分かったんだ?
ずっと待ち伏せしてたのか?卒業して1年半も経つぞ?ヤバい奴だろ・・・。
「謝るのはこっちだろ。と言うかなんで私が今日ここを通る事を知ってたんだ?」
そのまま疑問を投げ掛ける。
「え!?事前に聞いてたんじゃないのか?
お前の妹に話すなら今日だって言われて決死の思いできたんだぞ?」
芽衣に聞いた?・・・どうやって?
うちの妹のコミュ力はどうなってるんだ?
ちょっと怖くなってきた。
「芽衣がなんでお前と連絡を取りあってるんだ?」
芽衣は塔矢が好きな訳だし、こいつが変な勘違いをしないか心配だ。
妹は、キョウダイの私が言うのもアレだが可愛い。
小動物系守ってあげたい女子だ。中身は逞しい限りだが・・・。
「いやお前の妹、うちの高校ではちょっとした人気者で生徒のほとんどは、
彼女のSNSをフォローしてたんだ。俺もその一人だな」
芽衣の人気が出るのは分かる。あの子は要領がいいし社交的だ。
「お前の妹だしな。みんな興味深々で彼女のSNSを見てた。
内容も面白かったし、と言うかお前が知らなかったのか!?」
斉藤は私が芽衣のSNSを知らなかった事に驚いている様だ。
凄い嫌な予感がする。
「斉藤君、そのSNSの使い方を教えなさい」
私は、この手のツールが嫌いで今まで見なかった。
芽衣も、私がこう言うのを見ない事は知っている。
それをいい事に、こっそりと色々やってそうな予感がしたのだ。
斉藤は丁寧に使い方を教えてくれた。
フォローしてくれている相手にはメールを送れるらしく、
これを使って芽衣は斉藤に私が今日ここを通る事を伝えた様だ。
芽衣からの連絡は3日前、始めて連絡が来たそうだ。
それを聞いてノコノコ来るなんて、どうやらこいつは本当にいい奴の様だ。
色々と申し訳なく思う。
あれ?3日前ってポーカーで勝負する2日前じゃないか。
あんなものは勝負でもなんでもない通過儀礼だったのだと実感する。
しかし・・・そんな事よりも今はこれだ・・・。SNSの内容。
なんだこれ?
そこには、自分のキョウダイが如何に素晴らしいかが只管に綴られていた。
主に私の事だ。二人で撮った写真も何枚か載っている。
聞いてないぞ!?
私達しか知らない様なエピソードも数多くあった。
なんだ、この恥ずかしい数々は・・・。
それは芽衣が高校に入ってすぐの頃、2年半前から続いていた。
「それもあって、学校でお前の事を知らない奴はいないくらいだったんだぞ?」
知らぬは本人ばかりなり・・・。
「全然、知らなかった・・・」
私の知らない所でそんな事になっていたとは。
「でも、それのおかげでお前への嫌がらせは無くなったんじゃないか?」
芽衣の奴、さてはその為にこんな事をしてたな。
我が妹ながら、恐ろしい奴だ。
でもおかげで私は高校三年生の1年間、平穏に過ごせた。
麻衣の事もあって充実した一年だった。
芽衣には本当に頭が上がらないな。
「俺さ、実は高校の時ずっとお前の事が気になってたんだ」
突然のカミングアウト。
「お前すげぇ綺麗な顔してんのに、いつも暗い顔しててさ。
誰とも仲良くしないし、他の女子からは嫌がらせされてるし・・・」
褒めて・・・はいないなぁ。
「それでも全然、関係ないって顔してさ。
なんでだろう?ってずっと思ってたんだ」
こんな風に、気にしてくれている奴がいるなんて思ってもいなかった。
「だから、三年なって同じクラスになった時、
何とか声を掛けたくてこの公園で待ち伏せしてたんだ」
え?こいつマジでいい奴じゃね?
「けど、俺バカだからさ。声の掛け方を完全に間違えた。
あの後、色々調べたんだ。お前のその・・・悩み?の事」
こいつはこいつなりにトランスジェンダーについて調べてくれたようだ。
だからこそ、この姿を見てもこの反応が出来てるのだろう。
そして会話の節々から気遣いを感じる。
「憧れだったのかもしれないな。好きとか、そう言うのはお互いの気持ちがあってこそだし。当時、お前にはそう言うのはなかっただろ?だから、きっと一方的な憧れだったんだ」
その通りだ。当時の私は、他人を好きになる余裕なんてなかった。
「でもあの時、笑ってるお前を見て俺は思ったんだ。もう大丈夫だって」
麻衣のおかげだ。こいつは本当によく見ててくれたんだな。
「でも、調べる程にあの時の発言が後悔になった。
今日は本当に謝れてよかった。あの時はごめん」
こいつ本当にいい奴だなぁ。
私はあの時の事をむしろ感謝している。
でも、こいつはずっと罪悪感を抱えていたのか。
「私の方こそごめん。あと私に関心を持ってくれてありがとう」
私は素直に謝罪とお礼言う。お互い大人になったものだ。
もっと早く話していれば友達になれたのかもしれない。
そうしたら、何かが変わっていたのだろうか?
いや、もしかしたらまだ遅くもないのかもな。
「斉藤。フォローの仕方を教えてくれ。そしてお前をフォローさせろ」
私は彼のおかげで、また少し変化した様だ。
人は相対的にしか物事を判断出来ない。
だからこんなにも他人の意見に右往左往するのだろう。
私は少し変わった自分を受け入れる。
後悔し、失ったものがある。
失ったものの多くは元には戻らない。
しかし、変わる事実もあるのかもしれない。
起こった事象は変わらなくても、捉え方が変われば本質が変わる。
そこに事の大きさは関係ない。
大切なのは捉え方だ。
私は謝る事の大切さを知る。
知るために必要なのは、興味だ。
それを持ってくれた彼に私は感謝する。
「そう言えば、その格好も似合ってるな。
最近はずっと、そうなのか?」
自分の格好の事を一瞬忘れていた。
「いや、今日はちょっと理由があって特別だ。
これから行く所があってね・・・」
思い出したら、また気分が重くなってきた。
「そうか、呼び止めて悪かったな」
こいつマジでいい奴だなぁ。
「こっちこそ、わざわざ来てくれてありがとう。
今までの事も色々と感謝してる。また会おう」
斉藤は嬉しそうに手を振る。
私は色々と誤解していたのかもしれない。
それに気付かせてくれた彼は・・・
ほんと、いい奴だなぁ。




