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side 剛 怠慢

 ある日、元妻から一本の連絡が入った。

 それは、娘の死を告げるものだった・・・。


 家族から目を逸らし仕事に没頭して来た。

 そうする事こそが正しいと信じてきた。


 男は仕事をしてなんぼだ。

 社会に出て、そこで成功し、貢献しなければ価値がない。

 そう教えられて育ってきた。


 私の考えは古いのかも知れない。

 それでも、私はそれしか教えられなかった。

 私には今の考え方のほうが間違っているとすら思う。


 父親は厳しい人だった。

 しかし、私は父親を尊敬していた。

 会社の同僚、母、親戚が立派に働く父親を讃えていた。


 私は父親に遊んで貰った記憶はない。

 まともに会話すら、した事は少ないのではないか?

 しかし、そんな事は全く気にならなかった。

 それが正しいのだと思っていた。

 今も思っている。

 

 だが、失って初めて気付く家族の大切さ・・・。

 幼い頃の麻衣の姿が脳裏にチラつく。


 思い出すのは仕事を終え、夜遅くに帰宅した際、

瑠衣も寝静まったのを確認した上で、しのぶ様に見た麻衣の寝顔。


 何を恥ずかしがっていたのだろうな。

 静江にもバレない様にこっそり寝顔を見て安心していた。

 心の中の何かが、僅かに動くのを感じた。


 二人が大きくなってからも言葉は交わさずとも、

立派に育った姿を見て誇らしく思っていたのではないだろうか・・・。


 今更だ・・・本当に今更だ。


 離婚した時も、二人に、そして静江にとってその方が幸せならそれでいいと思った。

 静江が苦しんでいた時も何も出来なかった。

 しなかった。


 心の奥底に感じた空虚さみしさも、自分への戒めだとしか思わなかった。


 瑠衣の事も何もしなかった。


 ただ、仕事を、自分の使命を全うしようとした。

 それは間違いだったのだろうか・・・。

 いや、それ自体は間違いではない。

 私は今も、それは正しいと思っている。


 問題は、それ以外をしなかった事だ。

 出来ないと言い訳をし、しなかったのだ。

 出来る事をしなかった。


 そして、それに対する戒めさえも、私は意に返さなかった。

 失った事で気付く。

 失うまで気付かなかった事が愚かなのだと思う。

 想像出来ていなかった。


『だから今、後悔をしている。』


 私はこれからも、仕事に命を燃やす。

 ただ、今まで目を背けてきた事に向き合わなければいけないのかも知れない。


 父親は、間違っていなかった。

 間違っていたのは私だ。

 ちゃんと見てなかった。

 父親は、私の事を見ていた。

 私の見ていないところで、母を通じて・・・。


 そうでなければ辻褄が合わない事がある事に、

今更、気付いたのだ。


 父親は、私が父親を尊敬している事を知っていた。

 私が、運動会で一等を取った時、コンクールで賞をとった時、

受験に合格した時、就職した時、普段は仕事で一緒に夕食を食べない父親が、

何故か食卓にいた。


 そして、母は決まって食卓でその話題を出し、父親はただ黙って頷くのだ。 


 少し考えれば分かる事だ。

 父親は私に干渉しなかったが・・・関心がなかった訳ではなかった。


 むしろ、母からずっと聞いてくれていたのだろう。

 私の事を・・・。


 私の名前は父親がつけてくれたそうだ。

 つよし。意味は強いこと、固いこと、壊れにくいこと。


 私は強さの意味を履き違えていた。

 傷付く事を恐れ、逃げ、目を背けて、

そうして自分を守っても、それのどこが強さだ・・・。


 繋がりのある相手に関心を持たず、

関わりを避けるのは・・・怠慢だ。


 それに、今更になって気付いた。

 取り戻せないと分かって初めて・・・。


 誰も、この怠慢の罪を裁いてはくれない。

 私は自らを罰するしかないのだろうか・・・。

 せめて、残された静江と瑠衣が幸せであって欲しいと願う。


 ただ、その為に出来る事が見つからない。

 相談出来る相手もいない。

 私は、ただ二人を想い・・・何も出来ずにいる。


***


 それから暫くして家にある男が焼香に現れた。

 そして一束の小説原稿を私の前に差し出した。

 その男は言った。


「これは彼女の遺書です」


 それはライトノベルだった。

 私は何をふざけているんだと憤った。

 そして男を睨みつける。

 すると男は真剣な顔で言う。


「そして彼女の生きた証です」


 その真剣過ぎる姿に私は怒る気も失せた・・・。

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