side 亜衣 答え合わせ
自分で自分の背中は押せない。
希望へ向いている人の背中を押せば、人は一歩踏み出せる。
絶望へ向いている人の背中を押してはいけない。
そこにあるのは、更なる絶望かも知れない。
麻衣は私を信じたのだ。そして背中を押してくれた。
責任の伴う言葉。
無責任に放たれるそれは、一歩間違えば悪意だ。
ただ、もし責任を受け止めて、決意を持ってそれが送られたなら・・・
それは、きっと愛だ。
*****
「イカサマしたお詫びじゃないけど、
麻衣お姉ちゃんからのメッセージの内容を教えてあげるよ」
白状しやがった。
やっぱりイカサマだったんじゃないか。知ってたけど。
「メッセージの内容は亜衣のと全く同じ」
は?どうゆう事?
「そこに付け加えて、一言。『これ亜衣に送るから芽衣、協力してね♪』だって。
もう勝手にしてって感じ?呆れたわよ」
なんだそれ・・・。私は思わず笑ってしまう。
「麻衣お姉ちゃんは私には結構、我儘だったし適当だったよ?
あっ!約束破っちゃった事、麻衣お姉ちゃんに一緒に謝ってね」
芽衣は可愛くむくれて言う。
今更、謝る事が2、3個増えても変わらんでしょ。どんとこいだ。
謝る事がいっぱいある。
私は宗教的な事は信じない。
こんな時ばっかり、本当に都合のいい話だ。
それでも謝らせて欲しい。
そして、言わせて欲しい。
『色々と心配かけて、疑ってごめん。
そして、私に愛をくれてありがとう。』と・・・
・・・
「そう言えば、麻衣お姉ちゃんはなんで亜衣に男装させたがったか分かった?」
芽衣は意地悪な質問をする。
分からないから聞いたのだ。
「その様子じゃ、まだ分かってないみたいね。
麻衣お姉ちゃんはさ、亜衣の男装姿を見たかっただけだよ?」
は?
「はぁ!?」
私は思わず大きく素っ頓狂な声を出す。
「麻衣お姉ちゃんは、トランスジェンダーじゃないし、
男の人が好きだけど、亜衣の事が好きだから男装させてみたかっただけ」
芽衣は、さも当たり前かの様に言った。
「多分なんにも考えてないよ?適当だったもの」
ちょっと投げやりな感じすらある。
「ちなみに、私は麻衣お姉ちゃんの想いを引き継いであげただけ。
協力してって言われてたし」
芽衣は律儀だなぁ・・・。そう言えば昔からそうだった。
そして、麻衣は本当に・・・適当で我儘だなぁ・・・。
「理由は理解できた?麻衣お姉ちゃんに散々、
フォローして貰ったんだし折角だからその姿見せてあげなよ」
沢山の言葉を、想いを貰った。
たしかに、そのぐらいはしないと罰が当たるかもしれないな。
・・・
「アポは取っといたから明日その格好で行って来てね。
あっ!あとこれも渡して来て♪」
そう言って渡されたのは・・・原稿用紙。
え?何これ?
よく見るとそれは私が書いた小説を写したもの。
「いやー18万文字の書き写しは流石に疲れたわぁ。
肩凝った。我ながら頑張った!」
芽衣はドヤ顔で満足そうだ。
なんで?
「何これ?」
私は思ったままの事を聞く。
「自分で書いたんだからわかるでしょ?ライトノベル?」
いや。それは知っている。なんで原稿用紙?
今時、手書きとかないよ?
「向こうには電波、届かないだろうから読めないでしょ?
だから手書きした♪」
この子の辞書に、プリンターという文字はないようだ。
天国とやらが、もしあるならば
そりゃ、電波は届かないだろうけど・・・。
電波塔もないだろうしなぁ。
「ん?アポ取ったってどこに?
居間にある仏壇に行くんだよね?」
神様に?芽衣、大丈夫か?
私は少し心配になる。
ちなみに認定死亡もまだ取れていないが、仏壇は置いている。
状況からしても生存は絶望的だ。認定もじきにおりるだろう・・・。
「仏壇は、瑠衣さんの所にもあるのよ。
だから行ってきて♪」
ツッコミどころが多すぎる!
一つずつ潰していこう。
「どうやって瑠衣にアポとったの?」
まずそこじゃない感はあるがそれどころじゃない。
「投稿サイトからSNS通して連絡取り合ってるよ?」
妹のコミュ力が高すぎる件について・・・
「なんでわざわざ向こうの仏壇に行く必要が?」
通常、仏壇を二つ用意したりはしない。
しかし麻衣の場合、遺体もない。
瑠衣の事も想い静江母さんと瑠衣のお父さんが話し合って、
一時的に形式上だけ両方におく事となったそうだ。
「麻衣お姉ちゃんが向こうにいるかもしれないじゃない?
ついでに瑠衣さんを引っ張り出して、向こうのお父さんに説教してきて♪」
ハードル高すぎるだろ・・・。
と言うか、なんだこの一問一答スタイル。
まだまだツッコミ足りないが・・・
「なんで送り出すスタンスなんだ?芽衣もこいよ」
自慢のコミュ力でなんとかしてくれ。
そのハードルは私には高すぎる。いや、人類には高すぎる。
「私が急な急用で、ほら!私、受験生だから、
そろそろ勉強しないと危険が危ないし♪」
文法が滅茶苦茶だ・・・もう、上手に誤魔化す気ないだろ・・・。
あと受験が危険で危ない奴は、18万文字の手書き原稿を作ったりはしない・・・。
「あー忙しいわー超忙しいわー♪
なに?一人で行くのは怖いの?」
イラッ!!
「できらぁ!!」
私はまんまと、芽衣の挑発に乗ってしまう。
どうやら私の冒険はまだ終わらない様だ。
明日は、裏ボス戦に突入するらしい・・・。
・・・
「まぁ、気楽に行って楽しんできなよ♪
もし、失敗したら一緒に笑ってあげるから。
なんせ、私は麻衣お姉ちゃんの協力者だからね」
そうか。芽衣は半年後のメッセージを知っているんだったな。
『楽しい失敗があるのだとしたら、それはきっと無敵です♪』
なんだか、思っていたのと随分と違う気がするが・・・
人生、そんなものなのかも知れない。
これだけ、色々と協力して貰ったんだ。
盛大に笑わせてやるとするか。
笑えない事にならなきゃいいが・・・。
いや、芽衣はそれでも笑うのだろう。笑ってくれるに違いない。
想像するとちょっと笑えてくる。
楽しい失敗は無敵か・・・確かにそうかもな。
せいぜい楽しく踊ってやろうじゃないか!
踊らされるのは、もう充分だ。
認定死亡:
事故や災害などで死亡した蓋然性が極めて高いが、死体が確認できない場合に、取調官公署が死亡を認定し、これを受けて戸籍に死亡の記載がなされる制度。




