side 亜衣 ヒーロー
私は芽衣に、私の辿り着いた答えを伝える。
まだ何かが足りない、事実を繋ぎ合わせた答え。
それはまるで、彼女の物語の設定資料の様だと思った。
***
彼女は病気になり、命の危機に直面する。
その後、一命を取り留めるが難病を抱える事になった。
出産を諦め、定期的な通院、検査を余儀なくされる。
それは、存在意義を揺るがし自信を奪っていく。
そして、塔矢のカウンセリングを受ける事になる。
彼女は暗く心を閉ざしネットの世界に没頭する。
そこでは、そこでだけは、彼女は自由で明るく楽しい自分でいられた。
ある時、彼女は幼い頃に出会ったヒーローである私と再び出会う。
自分と同じ様に心を閉ざした私。
この時、既に彼女はキャラクターとして私と接する。
そして、私の抱える悩みを知る。
彼女は私の悩みの根底を徹底的に調べた。
自分とよく似た境遇の私にシンパシーを感じる。
自分の事は、どうしようもなかったが私の力にはなれるかもしれない。
誰かを救う事で、自身の尊厳を保つ。それは偽善だ。
それでもいいと彼女は思った。
彼女は決意する。ヒーローの目を覚まさせる。
しかし、彼女はなぜか自分がいなくなる事を知っていた。
キャラクターとして何も残さず、言葉で私を支え導く。
想いのない言葉で人を導けるはずがない。
その心は彼女自身だった。
それでも、彼女はキャラクターのまま私を想う。
最高の結果と最悪の結末を並べ、最悪の中でも最善を残そうとする。
最高の結果は、おそらく麻衣が私に送った半年後のメッセージの内容。
最悪の結末は・・・どこまで想定していたかは分からない。
彼女は物語を残す。それは希望に満ちた物語。
彼女の生きた証。そして残された人達に、前を向いて生きて欲しいと願う。
***
私は、私なりに辿り着いた麻衣の過去を語った。
芽衣はそれを、じっと真剣に聞いていた。
そして一頻り、話し終えた所で芽衣は口を開いた。
「違うよ。それはただの事実、本当の想いは別にある」
芽衣の一言で気付く。
そうだ。私は彼女の想いをもう否定しない。
「麻衣お姉ちゃんが残したかった言葉は、想いはそうじゃない」
彼女自身の心を証明する術はどこにあるのだろうか・・・?
それが出来るのは受け取った私だけだ。
芽衣は、何を言おうとしているのだろうか?
本当の答え・・・それは、
「麻衣お姉ちゃんは亜衣に幸せになって貰いたかった。
それは・・・亜衣を愛してたから。ただそれだけ。他の事は全部おまけ」
・
・
・
ただ・・・それだけ?
え?そんな事は・・・ある?
きっと・・・ある。
私は馬鹿だ。
こんな単純な事を知るのに、
なんでこんなにも遠回りしたのだろう?
「亜衣の答えに抜けているのは、麻衣お姉ちゃん自身の我儘。
相変わらず美化しすぎなのよ」
麻衣は・・・私の幸せを願っていた・・・。
だから何も残さなかった。
私は麻衣を過大評価しすぎていて・・・
麻衣の想いを過小評価しすぎていた。
私は大粒の涙を流す。
抑え込んでいた感情がまた、溢れ出す。
「最高の結果には、沢山の麻衣お姉ちゃんの我儘が含まれてる」
微睡で聴いた詩を思い出す。
最後に残るのは言葉がいい。
言葉は意志を育てるから・・・。
「その中で一番、優先順位の高い事」
私は、とっくに気付いていたんだ・・・
静江母さんから話を聞いた時、私は麻衣の想いを受け入れた。
それでも、認めたくなかったんだ・・・
自分が不幸であれば、それが罰になり自分を許せると思ってしまった。
自分の不幸を、心のどこかで願ってしまっていた。
「それが亜衣の幸せ。それが答えだよ」
麻衣は物語で何度も言っていたじゃないか・・・。
『人は幸せを求めなければいけない。
求め続けていなければ生きていけないのだ。』
あれは・・・私に向けられたメッセージだ。
「目を覚まして前を向け♪私達のヒーロー!」
私は、まだちゃんと前を向けていなかった・・・。
芽衣の言葉で、私は目を覚ます。
私は、ついにちゃんと前に・・・私自身の幸せの為に歩き出す。
男装メイクは、もうぐしゃぐしゃだ。
そんな顔で私は芽衣を見つめる。
そんな私の顔を見て呆れながらも嬉しそうに芽衣は言う。
「私達のヒーローは・・・泣き虫だなぁ」




