side 亜衣 完結
私が退院した日から六日後、麻衣の葬儀は行われた。
*****
葬儀はしめやかに行われた。
友人は余り多く無かった様で、
本人も家族もそれほど信心深い方では無かったため、
家族葬という形で静かに行われた。
私はその死をまだ完全には受け入れられずにいた。
*****
結局、麻衣の遺体はまだ発見されていない・・・。
私は葬儀には参列出来なかった。
本来、私の様な者こそ参列するべきなのかも知れない。
葬儀は、故人の冥福を祈って成仏祈願を行う儀式。
故人との別れの場としての意味がある。
遺された側がその死を受け止め、お別れをするための行為。
私には宗教的な思想はない。
それでもその意味は、少しは分かる。
それでも・・・私は忘れたくない。受け入れたくない。
この想いを薄める可能性を、決して受け入れられずにいる。
葬儀が終わった後も、大きく何かが変わる事はなかった。
ただ時間が、日常が、前に進む意志が、明日を受け入れ日々を流し、
あの日の出来事から少しずつ私の意識を離していく。
・・・
結局、私の出来る事はあまりなかった。
だからこそ、小説を完成させる事に没頭した。
相変わらず、瑠衣の奴は的確な指摘をくれている。
助かるなぁ・・・。おかげで順調に進んでいる。
芽衣もたまにコメントをくれる。内容はあっさりしたものだが・・・。
見守ってくれている。
そして、退院から2週間。
その小説は完結した。
・・・
瑠衣からは、
『完結おめでとう。とてもいい作品になったと思います。
残された想いは受け取ったつもりです。私は私で前を向いて頑張ります。』
シンプルで完結な感想。
麻衣の伝えたかった事は、無事伝えられたのだろう。
それが嬉しかった。報われた。
芽衣からは、
『お疲れ様♪素敵な作品になったね。これはきっと二人の作品だよ』
それはきっと私達にしか伝わらないメッセージ。
これは私の作品でもある。そう言う事なのだろう。
私はそれを誇らしく思う。
そしてずっと読んでくれていた見知らぬ誰か、
あの作風の変化を指摘してくれた人。
『無事完走お疲れ様でした。最後の展開は予想外でした。
いい意味で裏切られました。次回作期待しています。』
この人にも本当に救われた。見知らぬ誰かに伝わる想い。
私は誰かに、何かを伝える事が出来た。
それは承認欲求の充足。エゴかも知れない。
それでも人は、何かを伝える。
伝える事で想いは残り、それは証になるのかも知れない。
次回作・・・か。
私は麻衣の後書きに付け加えて、今後も修正を加える旨や
別作品を書く旨を書いていた。
私は書く事の楽しさを知った。
麻衣のおかげだ。私はこれからも書き続けようと思っている。
麻衣が齎した証。私はそれを引き継ぐ。
・・・
書き終えて、気付いた事がある。
私は誰よりもこの作品を読んだ。だから気付いた。
この物語には、物語を観測する存在が出てくる。
これは作中、集合思念体として表現される。これはきっと・・・読者だ。
主人公はその存在に『お礼に、思う存分遊んでやる』と告げる。
そして物語の最後、主人公は自分が物語のキャラクターである事を、
自覚した様な発言をする。
次回作にご期待下さい。と締めくくる。
それは読者を見送る言葉。
観測者を失い物語は終わる。しかしキャラクターの世界は続く。
キャラクターが残すのは言葉で、それ以外は何も残してはくれない。
きっとキャラクターは読者に、送った言葉を糧に進む事を願うのだろう。
『麻衣はまるで物語のキャラクターだ』
麻衣は、物語を、想いを、言葉だけを残した。
『麻衣はキャラクターである事を望んでいた。』
私は確信する。
『麻衣は自分がいなくなる事を確信していた・・・』
最後のピースが埋まった気がした・・・。




