Another side ⅰ..
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数日前から異常気象のせいか記録的な豪雨が続いていた。
今日も雨はやまない。
「相変わらず凄い雨だね」
亜衣が言った。
「だね。お陰で仕事にも行けやしない」
鳴り止まない大雨警報のお陰で外出も出来ずにいた。
それは亜衣も同じだった。
「それにしても降りすぎだよね。地球ふやけちゃうんじゃない?」
私はこの時まだあんな事になるとは思ってもいなかった。
「それは大変だ。ドライヤーで乾くかな?」
私達は2階の自室で呑気に話していた。
その時今まで聞いた事のない様な地響きを聞いた。
そして地面が揺れる。
「なに!?何の音?」
私は慌てふためく。部屋の電気、全ての電化製品が停止している。
停電?何かが起きた。それだけは間違い無かった。
「ベランダから外を見よう」
亜衣は真剣な顔で言う。
私達はベランダに出る。
そこには土砂に埋まった景色が広がっていた。
私達のいる建物も一階は土砂に埋もれていた。
現実のものとは思えなかった。
呆然とする私を他所に・・・
「救助を呼ばないと!」
亜衣は電話で救助を呼ぶ。
救助ヘリが来るまでは時間がかかる様だ。
私は命の危機を感じた。
恐怖で何も出来なくなっていた。
「時間は少し掛かるけど救助ヘリが来る。これで安心だ」
努めて明るく言うその声は少し震えていた。
それからどのくらいの時間が経っただろう・・・。
亜衣は携帯を弄ったり、情報を調べたり、定期的に救急に連絡したりとしていた。
私はただただ恐怖に震えていた。
そんな私を亜衣は励ましてくれていた。
・・・
そして暫くして、遠くからヘリの音が聞こえる。
私達はベランダに飛び出した。
外の状況はさっき見た時よりも酷くなっていた。
救助隊員が降下してくる。
私は助かったんだと安堵した。
そして救助隊員は言う。
「二人一度の運ぶ事は出来ない。近くの安全な場所に2回に分けて搬送する」
「麻衣、先に行って!」
「え・・・、でも・・・」
「大丈夫。すぐにまた救助に戻って来てくれるから二人とも助かる。
急いだ方が良いから早く行って!」
亜衣は急かす様に私を救助隊員へ誘導する。
「救助隊員さん。お願いします!」
安全具が私に手際よく取り付けられる。
そしてヘリが上昇し隊員の人と私の体が宙に浮く。
亜衣は笑顔で手を振る。
その姿が離れていく。
その時だった・・・
轟音を立てて山が崩れ落ちる。
そして・・・土砂が・・・
亜衣を飲み込んだ。
私は声にならない叫び声を上げる。
そして、あまりにも鮮烈で痛烈なその出来事に・・・
受け入れられない現実と恐怖に・・・
意識を失った・・・。
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意識を取り戻した私は絶望する。
亜衣を失った。
去年の三月から検査の数値が下がり続けていた。
1ヶ月の検査入院の後も、様々な薬を試したが効果は薄かった。
そして災害からの生還後、数値は急激に下がり・・・ステージ5に達していた。
生きる気力が湧かない。
あらゆる物を失い、最愛の人を失い、自らの命も消えようとしている。
助かったのが、亜衣だったらよかったのに・・・
亜衣を先に救助して貰うべきだった。
私が弱かったから、亜衣は私を先に行かせた。
深い、深い後悔。変えようのない過去。
・・・
私は、ふと日記代わりに非公開で投稿していた記録を見る。
それは、亜衣と再会してからの記録。思い出。
私はそれを書き換える。
私の名前を亜衣に、そして亜衣の名前を私に・・・。
そして、物語にする。
存在しない架空の希望を加えて・・・。
望む未来を語り、後悔をせめてもの理想で綴る。
それは懺悔にも似ていた。
あり得たかもしれない未来。
亜衣が生き残り、私が消える物語。
拙い文章で書かれたそれは、まるで初心者が書いたライトノベルだ。
これは私の遺書だ・・・。
私は物語のエピローグに一つの詩を載せる。
私はその物語を小説投稿サイトに掲載する。
アカウント名はディア。
dear、意味は『親愛なる』。
そして手紙の際、送り先の前に付ける言葉。
私はこれを、誰に残すのだろうか?
受け取った人はどう思うのだろうか?
私はこの作品にこうタイトルを付けた。
『遺書と言って渡されたのはライトノベルでした。』
そして私は消えていく。
神様、もし願いが叶うのならば・・・
どうかこの物語が現実であります様に・・・
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