side 亜衣 Re dear.
「そう言えばあの子、ある時こう言ったのよ。
『どうしよう!?好きになっちゃった!』って。笑ちゃったわよ」
静江母さんは嬉しそうに、その時の事を語った。
「あれは貴方に出会ってすぐの頃ね。そんなの最初からでしょって私は思わず笑ちゃったわ。麻衣には言わなかったけど。あの子は自分の好きの在処が分からなくなってたのね」
私はまた、少し照れて恥ずかしくなる。
「それに気付かせてくれたのも貴方よ」
それはきっと・・・お互い様なのだろう。
私も少し笑ってしまった。
「これは麻衣には口止めされてたんだけど、話しておくわね。
麻衣には一緒に謝ってね♪」
静江母さんはおどけて言う。
父さんといい、静江母さんといい・・・
私は何回、麻衣に謝らないといけないんだ?
いや、何度だって謝るけどさ。
私は私の我儘で、麻衣の事を知る。
「再婚してから一年経たない頃だったかしら。
1ヶ月、程家を家を開けた事があったのを覚えてる?」
きっと半年後のメッセージを受け取る前の事だ。
「検査の結果が良くなくてね・・・あれから徐々にだけど数値は落ちていたのよ」
麻衣の病気は命に関わるものではないと認識していた・・・。
「それでも、すぐにどうこうなるものではないと、お医者さんからは説明を受けていたの」
間違いではない様だ。
「でもね・・・あの子は何故か『やっぱりか・・・』って、どこか諦めた様に言ったのよ」
どう言う事だ?
「それ以前から麻衣はどこか、まるで自分がいなくなる事を確信した様な所があったの。断言した訳じゃないのよ?でもなんとなく感じたの」
私も、同じ事を感じていた・・・。
「一度、危険な状態になっていたしそのせいかもね。勘違いかも知れないわ。
さっ!そろそろ夕飯の用意をしないと。続きは夕飯の後にしましょう♪
今日は、亜衣の退院祝いだから頑張っちゃうわね」
静江母さんは一度、話を区切り料理の準備を始めた。
立派な人だ・・・。母さんはもう前を向いて歩き始めている。
私はさっきの話が、ずっと引っ掛かっていた。
でも、その答えはきっと・・・どこにもない気がした・・・。
・・・
その日の夕食はとても豪華なものだった。
静江母さんは料理がとても上手い。
唐揚げにサラダ、グラタンにポトフ。食べ切れないほどだった。
芽衣は好物の唐揚げにはしゃいでいた。
楽しい食事だった。
ただ・・・そこには麻衣の姿はなかった。
その姿を探した自分自身に何故か涙が滲んだ。
きっとグラタンのせいだ。
パッケージ通りに作った、あの普通のグラタン。
今日のグラタンはそれとは全然、違っていた。
あれも・・・普通に美味しかったよ・・・。
・・・
夕食を食べた後、私達は再び話し始めた。
「瑠衣の事もありがとう。この間、離婚してから初めて連絡が来たの。
貴方の事を、あれこれと聞いてきたわ。
麻衣からもある程度聞いてたみたいだったけど」
静江母さんが話を切り出した。
あいつは静江母さんにも確認してたのか。
大体、予想はついてるって言ってたのはそれもあったのだろう。
私は、静江母さんに麻衣の小説の事を話した。
「そう・・・あの子は、そんな事をしていたのね・・・。
それに不思議な話ね・・・。まるで物語を聞いているみたい。
それは完成したら読ませて貰えるのかしら?」
静江母さんはとても楽しそうに話を聞いてくれていた。
そう・・・不思議な話だ。
まるで物語の様。
その言葉が妙にしっくりときた。
そして、私はまるで物語のキャラクターの様だと思った。
「完成したら読んでくれると嬉しい」
あれは麻衣の遺書であり生きた証だ。
必ず完成させて、そして沢山の人に見て貰いたい。
「必ず読むわね♪」
静江母さんは嬉しそうに言った。
「そう言えば、瑠衣もリュウイって名前で小説を書き始めたんだ」
私は、瑠衣とのやり取りについても話す。
そして彼が、きっともう大丈夫だと思うという事も。
「そう・・・色々、本当にありがとうね。あの子の事もとても心配していたから。
あの子にとっても麻衣は特別だったから・・・」
静江母さんは少し目に涙を浮かべていた。
そしてそれを直ぐに拭う。
「いつか、あの子にも直接会ってあげて欲しいわね。
きっと驚くだろうから♪」
静江母さんは少し悪戯っぽく言った。
そのうち、直接文句を言ってやろうと思っていたところだ。
いつまでも引き篭もってたら引き摺り出しに行ってやろう。
「そう言えば、あの子はリディアと言う名前で書いていたのね。
確かゲームではディアって名前だったから、何か意味があるのかも」
ディアとリディア。
ディア【dear】親愛な。 敬愛する。
Re・・・意味は「繰り返し」「再び」「後ろ」「反対」
・・・考えすぎか?




