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side亜衣 静江母さん

 仮住まいでの整頓と掃除、必需品の買い出しをしていると、

時間はもう夕方になっていた。


 リビングで芽衣と一緒にゆっくりしていると静江母さんが帰ってきた。

 私は少し身構える。なんとも言えない緊張感があった。

 静江母さんは今、どんな心境でいるのだろうか・・・。


 玄関の鍵を開ける音がして、リビングの扉が開く。


「お帰りなさい。静江母さん」


 私は精一杯、平静を装って先に声をかけた。


「亜衣!退院おめでとう♪今のところ辛いところはない?」


 静江母さんは至って今まで通りに見えた。

 その様に振る舞っているのだろうか?


「うん。大丈夫だと思う。心配かけてごめん。それと・・・」


 私はと言うと、とりあえず返事をした後、言葉に詰まった。

 

「謝らないで。貴方は辛い思いをしたのよ。そして、私は貴方の母親。

 私の方こそごめんなさい。力になれなくて・・・」


 静江母さんは、とても申し訳無さそうに言う。

 麻衣の遺体は見つかっていないが災害からもう3週間が経つ。

 

 土砂に巻き込まれる様子は救助隊の人も見ていた。

 生存は絶望的。私はもうその事実を知っている。

 この目で見たのだから・・・。


 葬儀は来週にも行われる予定となっていた。

 

 ただ、私はそれに参加する事は出来なそうだ・・・

 

 正気でいられる自信がない。


・・・


 私は静江母さんの謝罪に戸惑う。


「もし、麻衣の救助を優先していたら麻衣は今も生きていた・・・。

 麻衣は静江母さんの実の子だし、私は申し訳なくて・・・」


 私は懺悔する。すると静江母さんは少し怒った様に言った。


「貴方も私の子よ?それに麻衣は自分より他人を優先出来る素晴らしい子だった。

 私はそれが誇らしい。麻衣の事も、亜衣の事も、悪く言う人は許さないわ。

 それが例え、本人であってもね」


 あぁ・・・なんて立派な人なんだろう。

 多分、この人に私は許されたのだ。

 静江母さんは人を許せる素晴らしい人だった。

 私はそれを疑った事を恥じた。


「ありがとう・・・静江母さん」


 私は一言、ただ沢山の想いを集めて絞り出す様に感謝を告げた。

 私を許してくれて、そして麻衣を産み育ててくれて、

父と再婚してくれて、私の新しい母さんになってくれて、


 只々、ありがとうと・・・。


・・・・・


「どういたしまして♪と言っても私はむしろ貴方に感謝してるんだけどね」


 そう。それだった。

 父さんが言っていた事、私は感謝される覚えがなかった。


「不思議がってる感じね?」


 静江母さんは少し意地悪そうに言う。


「身に覚えがないから・・・」


 私は正直に答える。


「そうねぇ・・・。どこから話そうかしら?

 麻衣は暗い子だったのよ」


 は?そんな訳はない。

 不意な言葉に私は面食らった顔になる。

 私の知る麻衣は底抜けに明るくいつも自由奔放だった。


「亜衣は驚くでしょうね。あの子は貴方の前では、

必死で明るく振る舞っていたから」


 え・・・。そんな事って・・・。

 私はふと芽衣が気になった。

 芽衣は・・・あまり驚いた様子ではなかった。


「芽衣は、気付いていたの?」


 私は問いかける。


「うん。なんとなくね。それとごめんなさい。

 実は私、塔矢先生に聞く前から、麻衣お姉ちゃんの病気について知ってたの」


「えっ!?どうゆうこと?」


 私は分かりやすく動揺する。


「偶然、鞄に入ってる薬を見ちゃったの。あっ、わざとじゃないよ!

 聞いた事のない薬で気になって、調べたら普通の人が飲む様な薬じゃなかった」


 芽衣は偶然、麻衣の病気を知っていたのか。

 でも、それなら私にも教えて欲しかった・・・。


「それで、麻衣お姉ちゃんに見ちゃった事を謝って、聞いてみたの。

 その内容は塔矢先生に聞いた内容と一緒。そして口止めされた」


 そうか・・・麻衣に口止めされてたのか。

 

「暗い性格だったと言う事も聞いてたの?」


「いや、それは何となく見てて思っただけ」


 芽衣はあっさりと言う。

 この子は本当にそう言う事に鋭い。

 カウンセラーに向いていると思う。

 塔矢より向いてるんじゃないか?


 ・・・あいつより向いてない奴を探す方が難しいか。


「元々明るい性格ではなかったけど、

中学1年の時、病気で危険な状態に陥った後は完全に塞ぎ込んでしまっていたわ。

 丁度、入院する前に学校でも色々あったみたい。

 あの子は話さなかったけど・・・」


 病気、難病、そして学校での問題・・・恐らくいじめの類。

 麻衣は心を閉ざしていた。


「パソコンを使ったインターネットの、特にゲームに没頭してたわ。

 私、実はこっそりそのログ?を見ちゃった事があったのよ。

 わざとじゃないのよ?いつもリビングのパソコンで遊んでたから・・・」


 静江母さんは少しバツが悪そうに言う。


「そこではあの子は、とても明るくて・・・とても楽しそうだった。

 今思えば、あれがあの子の本当の姿だったのかも知れないわね。

 あの子はそれを否定している様だったけど・・・」

 

 静江母さんが語ったその詳細は、その姿は・・・

 私の知っている麻衣の姿そのものだった。


「それがね、貴方に会ってから急に変わったの。

 私のヒーローを取り戻すんだって息巻いてたのよ♪」


 なんだか少し恥ずかしいな。


「貴方に会ってからの麻衣は本当に楽しそうだった・・・。

 あなたが麻衣を、連れ出してくれたのよ。

 私はそれを貴方に感謝していたの。お礼を言いたかったのよ」


 そうだったのか・・・、でも私は何もしていない。

 それに対してお礼を言われても申し訳ない気持ちになる・・・。


「私は何もしていない・・・」


 すると静江母さんは少し悲しそうに言った。


「そんな事ないわ。何もしてない訳ないでしょ?

 貴方は辛い思いをしたじゃない。それは麻衣の事を想っていた証よ」


 想う程に別れは辛くなる。それを後悔した瞬間もあったのかも知れない。

 それでも私は今、彼女の想いで生きている。


 私は失った哀しみを受け入れる・・・それは彼女の想いの証だ・・・。

 私は彼女の想いを、もう否定しない。

 

「麻衣の事を想ってくれてありがとう。

 これが本当に言いたかったお礼だと思うわ」


 麻衣の想いが私を生かしてくれた様に・・・

私の想いも麻衣に届いていた。


 私は私の想いも、もう否定しない・・・。


「どういたしまして・・・」


 私は目に涙を浮かべながら、絞り出す様にその言葉を口にする。

 言葉のお礼に言葉を贈る。

 想いのお礼に想いを贈る。


 当たり前の事だ・・・大切な事だ・・・

 私は、それが出来た事を嬉しく思う。


 誇りに思う。

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