side亜衣 物質的喪失感
無事、退院した私は仮住まいのマンションへ父の車で向かった。
芽衣も一緒だ。
そうか・・・母との思い出の詰まったあの家は・・・もうないのか。
今更ながら物質的喪失感にも襲われる。
「静江母さんは家にいるの?」
私は父に確認する。
「静江さんは今、前の家に行っているよ。帰ってくるのは夕方だな」
家は完全に土砂で埋まっており建て替えになるらしい。
保険や補助金のおかげで何とかなりそうだとか。
貴重品は既に回収出来たみたいで、今日は車で持ち帰れる小物を、
回収に行っているとの事だった。
復旧作業は色々な人の手伝いのおかげで順調に進んでいるらしい。
ただ、麻衣の遺体はまだ発見されていなかった・・・。
・・・
現場へ行く事は、父から止められた。
少しでも力になりたかったが、今の私が現場に行くとどうなるか分からない。
私は、仮住まいで待つしかなかった。
部屋は芽衣と共同で1部屋。
最低限の家具は揃っている様だ。
私が入院している間、大変だったんだろうなぁ・・・。
私はまた、自分が情けなくなる。
「無事退院出来てよかったね♪一人だと少し広いから落ち着かなかったよ」
芽衣は至って平気そうに言う。
「こっちは大変だったんだよね・・・ごめんね」
私は情けなさと申し訳なさで、声が小さくなる。
「亜衣は亜衣で大変だったんだから気にしないで!
大丈夫、これからは一緒に頑張っていこう♪」
前を向くと決めたのだ。それこそが麻衣の望んだ事だ。
『出来る事は全力でやる主義だ』
麻衣の小説に出てくるキャラクターのセリフだ。
私は、とりあえず荷物を整頓する。
あまり物を持たない主義なのですぐに片付いた。
失った物も、多くはないのかもしれない。
お金で買える物は、頑張れば買い直せる。
となると問題は思い出の品だろうか?
母との写真ぐらいしか思い浮かばなかった。
それもほとんどはスマホにデータがある。
家や、普段使っていた物も母との思い出が詰まっていた様に思う。
失った事で事実の証拠が減ったような感覚がする。
しかし、母さんの痕跡は私が証明している。
私自身が、何ものにも換え難い母の痕跡なのだ。
では、麻衣が残したものは・・・?
物質的痕跡は容易に消える。私は今それを実感している。
麻衣が私に残したものは言葉、そしてこの小説。
他に何があるのだろうか?
とても大きな、大切な何かを残していった気がする。
私はそれが何かを知りたい。
・・・
「芽衣は、勉強順調?無くて困ってる物はない?」
私は芽衣の心配をする。
「受験の方は心配なさそう。物はどうだろう?
意外と全部無くなっても何とかなるもんだなぁって感じてる」
芽衣も私と似た様な事を考えているのかもしれない。
私達が一生懸命、集めてきた物は一体何だったんだろうか?
それは一瞬で無くなり、そして無くなっても変わりなく生活は続く。
決して戻ってこない命と比べれば、どれほど軽い物なのか。
私が本当に欲しかったのは、何だったのだろうか・・・?




