side 亜衣 遺書、キャラクター
父さんと話した後、私は芽衣と話した。
内容は、あのライトノベルについて。
「亜衣、日中暇でしょ?麻衣お姉ちゃんの小説、完成させなよ♪」
芽衣は少し意地悪く言った。
「あれは、芽衣が完成させる様に言われたんじゃない?」
私は少し遠慮をして芽衣に聞く。
「いや私、小説なんて書いた事ないし。
あれは亜衣が立ち直れなかった時、亜衣に贈る為にお願いしたんだと思う」
麻衣が芽衣に残したメッセージ。
『ごめん、もし私が戻らなかったら私の物語を芽衣が完成させて♪宜しくね』
これは恐らく、私が救助の準備をされている間に送ったものだ。
あの状況で、そこまで考えていた・・・?
「亜衣、気付いてる?麻衣お姉ちゃんが、
本当に死を覚悟して送ったメッセージは唯一これだけだよ?」
その通りだ。麻衣は死ぬ様な病気ではなかった。
ではなぜ、これ程に何も残そうとしなかったのか・・・。
「また難しく考えてるでしょ?亜衣の悪い癖だよ。
この小説が麻衣お姉ちゃんの遺書だよ。よく読んで完成させてね」
芽衣は何かに気づいているのかも知れない・・・。
これを完成させれば何かがわかるのだろうか?
私は、麻衣が残したライトノベルを完成させる事にした。
・・・
次の日、私は相変わらず病室にいる。
日中は退屈だ。
フラッシュバックの恐れはあるが、体はもう何ともない。
慣れとは凄いものだ。哀しみも苦しみも時間が少しずつ溶かしてくれる。
喜びも、思い出も・・・そして記憶も、時間が溶かしていくのだろうか?
私は、それが怖い。私もいつか麻衣を忘れる。
まるで何もなかったかの様に・・・。
思考が巡る。ぐるぐる回り、どこにも辿り着かない。
それはまるで積み木の様に、積み上げては壊れていく。
私は、自然とスマホに手が伸びる。
時間はたっぷりある。
麻衣のアカウントで小説投稿サイトにログインする。
よく考えたら、記憶が戻ったあの時から、まだ6日しかたってないのか・・・。
『え・・・?だってこの作者は、もうどこにもいないはずなのに・・・』
あいつからのコメント。
そう言えば、返信出来ていなかったな。
何と送ってやろうか?
私は少し考えた後、面倒になりこう送った。
『続きをお楽しみに♪』
これでいいや。さぁ書こう!
内容を読み返し、麻衣の残した物語を元に書き足していく。
麻衣の書いたものはバックアップを取り、残した上で修正も加えていく。
今まで書いたものにも加筆した。
書く内に、没頭していく。
私は、単純に楽しいと感じていた。
何かに導かれる様に書き進めていく。
思考よりも先に物語が広がる。
かつて、ここまで気持ち良く書けた事はなかっただろう。
私は夢中になっていた。
ある程度書けたら、掲載をしていく。
するとすかさず、コメントが付く。
『大体、予想はついてます。あなたも私が誰か分かってますよね?』
んー、麻衣から何か聞いてたのかもしれないな。
じゃあ、ほっといていっか。ついでだから手伝って貰おう。
『誤字報告と問題点の考察お願いします♪あと感想と応援も宜しく!』
さて、続きを書くか。
私は続きを書き始める。暫くするとまたコメントが入る。
『遠慮無いな!これは・・・あいつが考えた続きなのか?』
少し文章が砕けてきたなー。どうしようかな?
バラしてもいいけど・・・やめとこう。
『よく読んで、自分で考えてください。』
気付くだろうか?多分、気づくだろう。
そして、麻衣の想いを受け取りこいつは歩き出す。
私はそれを確信している。
芽衣も、この小説を読んでくれている。
芽衣は今年、大学受験だ。
勉強に影響し、芽衣の将来に影響が出ないか心配したが、
「私、心理カウンセラーを目指す事にしたの。
心理学を勉強できる大学を探したら志望校のランク下がったから余裕♪」
と言っていた。優秀な妹で私は嬉しいよ。
ただ心配なのは・・・それ塔矢の影響だよね?絶対。
本気っぽいしなぁ・・・応援してあげたいけど、塔矢だしなぁ・・・。
いや、いい奴だし案外お似合いかも知れないとは思っている。
元弁護士で頭はいいし、顔もいい。
歳は離れているが、最近では珍しくもないだろう。
とりあえず見守る事にしよう。
芽衣なら大丈夫だろう。
そんな事を思い出しながらも書き進める。
すると一つのコメントが付く。
『急に凄い更新速度ですね。修正もしている様で最初から読み直しました。笑
凄く良くなったと思います。内容もとても面白いです。続きを楽しみにしています。』
ブックマークをしてくれていた人、作風の変化に気付いた人だ。
私はこの人のコメントに救われた。
どこの誰かも分からない人に、物語を通して言葉が伝わる。
それはどんな意味を持つのだろうか・・・。
『コメントありがとうございます。あなたのコメントに救われました。
続きもお読み頂けましたら幸いです。』
私は心からのお礼を送る。
もっと沢山の人に、麻衣の想いが届いて欲しい。
これはきっとワガママだ。
でも、私はこれを否定しない。
そこにはきっと意味がある。
通していいワガママは存在する。
それはきっと・・・意志だ。
小説を、物語を書くというのは不思議だ。
自分の中で世界を作り、そこでキャラクターが行動する。
このキャラクターは私なのだろうか?
私じゃない者として作られたこのキャラは、一体誰なんだろうか?
彼が語る言葉は私が考えたものだ。
彼の行動もまた、私が書いた。
立場を変えた、私の意識はキャラとして独立する。
更に、そこに麻衣の残したものが加わる。
彼の行動は私の意識から外れる。
物語を通して言葉だけを残していく。
『麻衣は、まるで物語のキャラクターの様だ・・・。』
私はなぜか鳥肌が立った。
パズルのピースが・・・また一つハマった気がした。
・・・
気付くと連続で通知が入っていた。
5件の誤字報告・・・。
「あいつ真面目だなぁ・・・」




