side 亜衣 名前
次の日、私と芽衣は病室に父さんを呼び話しをする事にした。
「塔矢先生が俺の話を聞いてみる事を進めた?
あの人は相変わらずだなぁ。最適な人がいれば簡単に仕事をぶん投げる」
父さんは呆れながらも笑いながらいった。
「でも確かに、これは俺の仕事だな。いや、仕事ではないか。
俺の・・・責任、義務・・・いや使命だな」
父さんは一変して真面目な顔をする。
「恐らく、塔矢先生が言っているのは俺の話と言うより、
母さんの話だろう。亜衣と麻衣が非常に親しい仲だったのは俺も知っている」
私は何だか、照れ臭いと言うか、バツの悪い感じを受ける。
「まずは、ずっと何も力になれず申し訳なかった。
今回の災害やその後の事も含めて、お前に何もしてやれなかった。
謝罪させてくれ。今更だと思うかも知れないが・・・」
何を言っているのだ?父さんは必死で働き家庭を支えた。
父さんのお陰で、カウンセリングを受けれたし入院出来ている。
塔矢を連れてきたのも父さんだ。
「私は、父さんに感謝しかないよ」
私は当たり前の事を言った。
「ありがとう」
父は安堵していた。
「まずは、何から話そうか・・・。
俺と母さんの馴れ初めを話しても仕方ないしな」
父は少し冗談を言って笑う。
「そうだなぁ・・・ちゃんと話そう。母さんには怒られるかもだが。
お前達も一緒に謝ってくれよ?」
父さんは、いつもの父さんと雰囲気が違った。
「お前達にとって、母さんはとても強い人に見えていただろうなぁ」
何を言っているんだ?母さんは優しくて強かで、私達を守ってくれていた。
最高のお母さんだった。
「母さんは、優しくて、一生懸命で、子供のためなら自分をも投げ出せる、
そんな当たり前の母親になろうと必死で頑張る人だった」
え・・・?私にとってはそのものだった。でもなろうと頑張っていた?
「当たり前の母親像だが、そうあれる人は少ない。
当たり前だが、当たり前じゃないんだ。人間誰しもそんなに強くはない」
それは・・・そうだ。だから母さんは特別なんだと思っていた。
「一所懸命だけど頼りなくてなぁ。結構どんくさかったんだぞ?」
懐かしそうに笑いながら言う。
私の知らない・・・母の姿。
「亜衣が生まれた時は、それはもう喜んでな。一人目の子だったし、
芽衣にはすまんな。もちろん芽衣の時も大はしゃぎだった」
「分かってる。母さんは私達を二人とも、とても大切に想ってくれていたから」
芽衣は言う。
「そう言えば、亜衣は自分の名前についてどう聞いている?」
父さんは知っているはずだが?
「母さんは自分の名前が苦手だった。
だから私に同じ名前を付けて、自分をその名で呼ばない様にした」
私は亜衣だ・・・亜種、私のそれは偽物なのだと思った。
「それ実は嘘だ。照れ隠しだろうな。自分を呼ばない様にしたのはあるだろうけど。
さっきも言ったが母さんは結構どんくさいから、訂正し忘れたんだろう。
苦手と言うより、簡単にその名を口にする事を躊躇ったんだよ」
え・・・?
「母さんは、言ってたよ。自分の名前の意味は何よりも尊いと。
この子を愛し育てるとな。だから子供にもつけたいと思ったらしいんだが、
色々、直球すぎて少し恥ずかしい思いもしたみたいでな」
母の名前は愛だった。
「名前をつける時に悩んだんだが、文字には色んな意味があるからな。
お前の名前に込められた亜は遠くどこまでも続くと言う意味だ」
きっと母が本物なのだと思っていた。
「誰もがその名を呼びながら、本当の意味はそっと隠す。
名前とは、周りの人からのシンボルだ。
母さんはそれをお前に残したかったんだ」
私の名前は母さんが残したものだ。偽物な訳がなかった・・・。
私は猜疑心の塊だ・・・。
私はまた、私が嫌になる。
しかし、また一つ誤解が溶ける。
沢山の大切な人からの想いが心に溜まる。
それが私の嫌悪を少し溶かす。
私は・・・猜疑心を疑う。
これは、きっと・・・私の中での、大きな変化だった。




