side亜衣 ピース
「ちょっといいです?」
唐突に、ずっと黙って聞いていてくれた芽衣が口を開いた。
その顔は少し怒っている様に見えた。
私はそれが何故か分からずにいた。
少しの静寂。
そして次の瞬間・・・
「パーン!!」
突然の事に、私は事態を把握出来ない。
芽衣は・・・
塔矢に強烈なビンタを放った。
「え・・・えぇー・・・?」
私は意味が分からず、意味の分からない言葉を発していた。
「危険だと思ったら殴ってでも止めてくれって言ったよね?」
芽衣は、顔は笑っているけど目が笑っていない。
普通に怖い。
「確かに言ったな」
塔矢は右頬を真っ赤にしながら首を左右にフラフラさせて言う。
コイツは本当に物理に弱いな・・・。
「何で、わざと誤解させる様な言い回しをしたのかな?」
芽衣は塔矢を睨みつける。
うん、凄い怖い。
「亜衣も亜衣よ!麻衣お姉ちゃんが亜衣の事を好きじゃなかった訳ないでしょ!
また記憶おかしくなってるんじないでしょうね?」
えぇー・・・。いや・・・でも芽衣の言う通りだな・・・。
何で疑ってしまったのだろう。
私は、また自分が嫌になる。
「でも塔矢先生の言う通りね。亜衣は麻衣お姉ちゃんを美化しすぎ。
亜衣に病気の事を言わなかった理由なんて、
『嫌われたくなかった』これだけで納得いかない?」
芽衣があっさりと言う。
まるで当たり前かの様に・・・。
私は目から鱗だった。
麻衣は普通の・・・臆病な人だったのだ。
自分を庇い、救ってくれた彼女を私は必要以上に過大評価をしていたのだ。
「特定の相手を持つことをやめた彼女が、
君と言う特別を持った。その意味を考えて欲しい」
塔矢が言う。
彼女は私と一緒だ。
「災害の日、彼女がなぜ君を先に行かせたか分かるかい?」
麻衣は死ぬ気なんてなかった、臆病な普通の人。
そして、私の事を好きだった。
「簡単な事だ。彼女は、自分より君を優先した自分を残したかった。
ただそれだけだ」
自分を良く見せる為にとった行動。
「私が彼女に伝えた言葉にこんな言葉がある。
最大値を目標にし、最小値を全力で回避する。
そしてそのために最善を選び残すのだと」
コイツは麻衣にも、そんな胡散臭い事を言っていたのか・・・。
「彼女にとって、死は強烈な恐怖だったんだよ。それと対峙する為に送った言葉だ。
最高の結果と最悪の結末を並べさせ、当たり前の有り様を認識させた」
最悪の中でも最善を残そうとした。
塔矢の言葉で、どうしようもない自分をなんとか維持していたのだ。
彼女と私は、全然違うのにそっくりだ。
「麻衣君は君と出会った。まるで運命の様なものを感じてしまうな」
まるでパズルのピースが組み上がっていく様に、
彼女の正しい姿が見えてくる。
麻衣が何も残さなかったのは・・・なぜなのか・・・。
様々な事実と言葉を拾い集めて、私は答えに近づく。
まだピースが足りない。
「残される者と残すもの。その姿もまた人それぞれだ。
だが亜衣君は一度、君の父親の話を聞くのもいいかもしれない」
ん?父?なぜだ?
「君のお父さんは、今の君と似た経験をしているだろう?」
そうか・・・母さんはなぜ父さんの再婚を勧めたのか?
そして父はなぜそれを受け入れたのか・・・。
私はそれが知りたくなった。




