side亜衣 誤解
「先に言っておく、これは彼女の死に対して何かの補足になるものではない。
彼女をより知るだけだ。それが亜衣君にとって良い事なのかは分からない」
知る事で、もしかしたらより哀しむ事になるかもしれない。
塔矢はそれを危惧しているのだろう。
麻衣が私の前に現れる事はもう二度とない。
彼女の死は変わらない・・・。
「それでも聞きたいと思うかい?」
麻衣の事は、どんな事でも知りたいと思った。
彼女の特別でありたいと、
私は誰よりも彼女を知っている存在でありたいと願っていた。
聞かないと言う選択肢は私にはなかった。
「聞きたい。聞かないと前に進めない」
私は強い意思表示をした。
「彼女は難病を抱えていた。
彼女は中学1年の頃に、一度かなり危険な状態にまで陥っている。
一命は取り留め、その後は症状は安定していた」
麻衣が中学1年と言う事は、カウンセリング室で出会う3年前。
そして母さんが亡くなる1年前・・・
彼女は死に直面していた?
「彼女の病気はとても珍しいものでね。完治は難しい。
完治には骨髄移植が必要だがドナーも必要だ」
そんな素振りは一度としてなかった・・・。
「薬の副作用はあるが、合併症や感染症に注意していれば通常通り生活が出来ていた。
君達より長生きする可能性も大いにあった」
死の補足ではないと言ったのはこのためか。
あの災害がなければ麻衣は今も生きていた・・・。
「彼女は2週間に1回、血液検査の為の通院と、
1日2回の抗生物質の服用が余儀なくされていた」
麻衣から感じた生きる事への執着は、
もしかすると他人よりも死を近いものに感じていたからなのかもしれない。
「話した方がいいかは悩んだ。
しかし君と麻衣君の事を聞き、話してもいいと思った。話すべきだと思った。
君達はお互いにとって特別だったのだろう。
そこに理由が付くのは君にとって、気持ちの良いものではないかも知れないが・・・」
どうゆう事だ?私はその真意に気づけずにいた。
「彼女にとって出産は、通常よりもとても高いリスクがあった。
医者は無理とは言わんがね。
とは言え一般の人が出産を諦める程度には病気について説明を受けた様だ。
若い女性にとって、それは絶望的な事実だったかも知れない」
そう言う事か・・・
「彼女は子供を作らない事を視野に入れていた。
特定の相手を作るのも極力避けていた様だ」
麻衣が私に惹かれたのは、私がトランスジェンダーだから・・・
子供が作れない後ろめたさがない私だから惹かれた。
私は、麻衣の私に対する気持ちが、
特別な事情によるものだった事にショックを受けていた。
そしてその秘密を打ち明けてくれなかった事にも・・・。
「そして麻衣君は私の所にカウンセリングに来た」
なぜ病気の事を私に話してくれなかったんだ?
私はまるで麻衣を責める様に思考を巡らせる。
「麻衣はなぜ、話してくれなかったんだ・・・?」
思わず口に出す。塔矢に聞いても仕方がないと言うのに・・・。
「君は大きな誤解をしている。君は彼女を美化しすぎだ」
思わぬ言葉が返ってきた。
麻衣は私にとっての特別だ。
しかし、その言葉で私はハッと気付いた。
彼女はヒーローなんかではない。
そんな当たり前の事から・・・私は目を逸らしていた。
彼女は・・・どこにでもいる普通の女性だった・・・。
私は、自分が誰にも理解されない事を知っている。
なのに・・・私は彼女を理解したいと思ってしまっていたのだ・・・。
それは・・・エゴだ。
・・・
私は今更ながらに大きな事実に気づく。
彼女が残したものは・・・少ない。
麻衣からプレゼントの類を貰った事はなかった・・・。
そして、あまり写真を撮りたがらなかった。
あのパンダメイクの写真しか、私達3人が写った写真はなかったのだ。
精一杯、生きる事を望み、他人に生きる素晴らしさを全力で伝える・・・。
彼女は何を想い・・・何を残そうとしたのだろうか・・・。
彼女は言葉以外のものを・・・私に残していかなかった。
まるで、自分がいなくなる事を分かっていたかの様に・・・。
まるで消えたがっていたかの様に・・・
いや!それはあり得ない。それは彼女が最も嫌う事だ!!
・・・更に絶望的な事実に気づいてしまう。
「麻衣は、私を愛しているとは言っていない・・・。
好きだとすら、言って貰っていない・・・」




