Another side .…
今日は一ヶ月ぶりに麻衣が帰ってくる日だ。
理由は言わなかったが麻衣と静江母さんは一ヶ月程、
家を開ける事となった。
会えない時間は、私の想いを強くした。
彼女のいない生活が想像出来なくなっていた。
芽衣がいるから寂しくはないが、
私は気付かないうちに芽衣に麻衣の話ばかりしていた。
芽衣はそれを笑いながら呆れる様に聞いてくれていた。
麻衣と家族になってからもう、約1年の月日が流れていた。
桜はまた咲き誇り、私は社会人として働き始めていた。
正直、社会人としての生活は苦行だ。
私のそれは些細なワンシーンでも強烈な不快感を残す。
それでも、私には明確な幸福があった。
大切なものがある。
それだけでも生きていける。
今日はあのメールを送った日から、ちょうど半年だった。
あの時のメッセージが届くのも今日の楽しみであり怖くもあった。
このタイミングは狙ってやってるんじゃないだろうな?
私は色々な期待と不安を抱きながらも、
メッセージと麻衣の帰りを待っていた。
今日は麻衣が帰ってくる・・・。
◇◇◇
先に麻衣からのメールが届いた。
それは結構な長文だった。
その内容は・・・
『実は私は亜衣に3つ秘密を持っています。
まず一つ目。私は実は亜衣の事をずっ以前から知っていました。』
ん?どう言う事だ?
『小学校4年の頃、私が男子二人に絡まれていた時に、
突然、颯爽と現れてその男子に飛び蹴りを食らわした女の子がいました。
デニムにトラの刺繍がされた服を着たその女の子は、まるでヒーローでした。』
・・・思い出した!男二人で女の子一人と喧嘩するダサい奴を懲らしめた記憶。
確か加勢したけど、その女の子は超強くて私より叩きのめしていなかったか?
あれが麻衣だったなんて・・・。
それは麻衣がドロップキックを食らわせた、あの公園での出来事だった。
なんだよ・・・立場が逆転してるじゃないか。格好悪いなぁ・・・私は。
『その子はお母さんに亜衣と呼ばれていたので私は直ぐに気付きました。
亜衣は全然気づいていなかったみたいだけどね!』
あの後、母に公園でこっ酷く叱られたんだったなぁ・・・。
麻衣はそれを覚えていたのか。
『そして再会したのはカウンセリングの待合室。
その子は少し暗い顔をした、とても綺麗な顔つきの女の子になっていました。』
私が、初めて会ったと思っていたあの時か・・・。
『私はその後、亜衣の抱えてる悩みをこっそり母から聞きました。これが二つ目です。
ヒーローは大切な人を失い、そして深い悩みを抱えていました。』
と言う事は、神社で夕陽を見た時には、
私がトランスジェンダーだと知ってたのか!?
『そして三つ目の秘密。夕陽の神社での事。
私はあなた達のお姉さんだからと言ったあの言葉、あれは嘘です。
私は貴方の特別になりたいと思ったの。』
特別・・・、それは私の大嫌いな言葉だった。
でも・・・彼女なら、麻衣なら・・・。
『私と貴方だけの関係性を見つけていかない?
それはきっと対話と想像と失敗の繰り返し。
トライアンドエラーの先に新しい素敵な何かがあると思うの。
それを想像すると私は楽しみで仕方ない。
楽しい失敗があるのだとしたら、それはきっと無敵です♪
何も恐れる事はなく何にだって向かっていける。
そんな関係を二人で作っていきませんか?
返事もまた、対話と失敗の後でも構いません。
これからも一緒に私と失敗して下さい!
以上!!私から未来の貴方へのメッセージでした♪』
・・・
なんだよこれ・・・。そんな関係あり得るのか?
そしてこれは、もうプロポーズじゃないか。
あぁ・・・私は格好悪い。全くもって格好悪いなぁ・・・。
私は何をしていたんだ。何を悩んでいたのか。
これじゃあ、まるでお姫様だ。
お城で閉じこもる私を、彼女は攫いにきたのだ。
そこで、凄い勢いでドアが開く。
「ありがとう、の一言だけとかどう言うことよ!
私の熱烈ラブレターに対してこの対価は不当だわ。
追加請求を要求します!」
ラブレターって言っちゃったよこの人・・・。
しかし言う通りだ・・・。これじゃあ全く釣り合わない。
この気持ちはもうどうしようもない。
ありがとうなんて言葉では足りるはずがない。
怒り、嫌悪、敬愛、恐怖、光悦、警戒、悲嘆、驚嘆。
それはその全ての感情であり・・・その外にあった・・・。
私は観念した。そして、この感情に最も適した言葉を送る。
「私は麻衣を愛しています」
とてもシンプルな・・・不明瞭な・・・純粋な想いを込めて。
麻衣の表情が一気に明るくなる。
「きっちり徴収させて頂きました♪これからも宜しくね!」
もう、私は麻衣しか考えられない。いや、違うか。
「いちゃつくんなら外でやってよね!全部きこえてんのよ!」
カーテン越しの隣の部屋から芽衣の怒鳴り声が聞こえる。
その声は何故か何処か嬉しそうだった。
そうだな。私はこの二人の事が大好きだ。
この二人のためなら何だって出来る気がする。
きっと私のこの物語は、他の人達の恋愛とは少しだけ違う
『Another side ....』だ。




