表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/62

Another side ..

 次の日の朝、私は昨日の事を思い出していた。

 私は本当にどうしてしまったのか・・・。

 家族になったんだぞ?

 それなのに恋してしまったなんて・・・。


 いや、家族だからか?

 そもそも、昨日はあの景色で少しおかしくなっていただけかもしれない。

 私は朝ご飯を食べに階段を降りる。


「おはよう♪今日は休みなのにちゃんと朝いつも通りに起きるのね。偉い!」


 先に朝食を食べる麻衣がいた。

 昨日と同じ様に感情が(たかぶ)る。

 顔が少し熱をもっている気がする。


『勘違いではなかったようだ。』


 私はいつも通りの表情を取れているのだろうか?不安になる・・・。


「おはよう」


 私は素気ない感じで挨拶をする。


 これから一緒に暮らすのだ。

 こんな状態では身が持たない。

 どうしたものか・・・。


「おはよー朝ご飯なにー?」


 そこに芽衣が降りてきた。

 助かった!まだ感情の整理が全く出来ていない。

 二人きりではおかしくなりそうだ。


「トーストとサラダとヨーグルトを母さんが置いてってくれてるよー♪」


 麻衣が答える。両親は今日は仕事だ。

 静江母さんはちゃんと三人分の朝食を用意して出て行った。

 仕事も頑張っている。立派な人だ。離婚して正解だったのかも知れない。

 とても明るい表情をする様になった。

 父もそんな静江母さんに心を許している様だ。

 これは母さんの望んだ事なのかも知れない。

 残される大切な人の幸せを願ったのだろう。

 母さんは・・・。


「亜衣、麻衣お姉ちゃんは大丈夫だよ」


 芽衣は私だけに聴こえる様に溢した。

 その言葉が頭に響いた。

 私は暗い顔をしていたのだろうか?

 あぁ・・・私は本当にダメだなぁ・・・。


 一足先に食事を終え、食器を流しに入れに行っていた麻衣が戻り席に座る。

 そして、


「今日は私、暇なんだけど、あ!今日もだったわ♪

 二人は何か予定ある?」


 麻衣が質問する。

 

「別に予定はないよ。私も暇」


 出来れば頭の整理をしたいが・・・。 


 芽衣も同様だった。


「じゃあ、三人でデートに行きましょう♪」


 私は唖然(あぜん)とした。


 ・・・ほんとどうしよう。


◇◇◇


 三人でのデートはそれはもう楽しいものだった。


 デートと言ってもただのショッピングだが、

彼女といるだけで全てが鮮やかに見えた。

 私は、心の底から楽しんでいた。


 芽衣はと言うと・・・これは絶対、私の心情を看破しているな。

 ずっと一緒で、辛い事も楽しい事も共に歩んできた。


 私の他人とは違う部分も受け入れてくれている1番の理解者だ。

 煩わしく思った事はないのだろうか?

 迷惑かけていないだろうか?

 たまにそんな考えが巡る。


 そんな時、芽衣はこう言うのだ。


『大丈夫だよ』


 この子は本当に年下か?私が不甲斐なさすぎるのか?

 いや!絶対この子がおかしい。


 そして・・・麻衣もおかしい・・・。

 

 彼女の気遣い、言動の節々に私のそれについての配慮が見える。

 これは、一朝一夕で身につくものなのか?

 少なくとも、私が今まで接してきた中で家族以外に感じた事はなかった。


 しかし、そこに不快なものは何もなかった。


 ・・・


 私はデートの中で麻衣に思わず口にしてしまった言葉があった。

 

「麻衣は私がトランスジェンダーだって事を煩わしく思わないの?」


 自分を否定する言葉。私は怖いのだ。


 以前より考えていた事。

 私は仮に望む配偶者を得たとして、

二人で子供を作る事は出来ない。

 生物として間違っている。

 そんな恐ろしい言葉が(よぎ)った。

 私の存在は否定で満ちている。


 抜け出せなくなってから失うのが怖いのだ。

 しかし、麻衣はあっさり言う。


「なんで?亜衣はこんなに素敵なのに♪」


 そこには微塵も、嘘や取り繕いは感じられなかった。


「私達は私達で、私達の在り方で過ごしましょう♪」


 甘い夢の中にいる様だ・・・。

 そんな日々は存在するのだろうか・・・。


 そう言えば私は最初の日以来、麻衣をお姉ちゃんと呼ばなかった。

 姉と言うカテゴリーに入れる事を拒否していたのだ。


 私は自分が誰かにカテゴリー分けされるのが嫌いだ。

 私はマイノリティだ。

 私は特別と言う言葉が嫌いだ・・・大嫌いだ。


 どれほど彼女を想っても『家族だから』この関係が正当化してくれる。

 そんな便利な免罪符を私は狡猾に利用する。


 だって仕方ないじゃないか。

 私は手に入れてしまったのだ。幸福の片鱗を・・・。

 それは歪んだ愛なのかもしれない・・・。

 血の繋がらない家族。


 もう私はこれ無しでは自分を維持出来ないかも知れない。

 よくある様な、純愛なんかじゃ無くていい。

 ただ彼女がいればいい。他に何も要らない。


 依存・・・


 そんな言葉が突き刺さった。

 これを依存と呼ばずしてなんと呼ぶのか?

 自分の外に、生きる意味を見出すのは楽だ。

 自分を納得させるシンプルな方法だ。

  

 無償で与えられるものを受け入れる事も出来ず、

自分を捧げる覚悟もない。

 こんな私に誰かを愛する事など出来るはずが無いというのに・・・。


 あぁ・・・私はなんて醜悪なのだろうか・・・。

 それでも私は幸福を追求する。幸せを求め続ける。


 大丈夫。誰にも迷惑はかけないから・・・


 だからせめて・・・


・・・


 その日の夜。 

 

「お風呂沸いたって♪誰から入る?それとも一緒に入る?」


 麻衣が揶揄(からか)う様に言う。


「何言ってんの!私が最初に入るから二人は後ね!!」


 私は動揺しまくりだ。この人は全く何を考えているんだか。


「麻衣お姉ちゃん。さっきのはちょっとやりすぎ」


 芽衣の呆れる声を背中に微かに聞いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ