Another side ..
次の日の朝、私は昨日の事を思い出していた。
私は本当にどうしてしまったのか・・・。
家族になったんだぞ?
それなのに恋してしまったなんて・・・。
いや、家族だからか?
そもそも、昨日はあの景色で少しおかしくなっていただけかもしれない。
私は朝ご飯を食べに階段を降りる。
「おはよう♪今日は休みなのにちゃんと朝いつも通りに起きるのね。偉い!」
先に朝食を食べる麻衣がいた。
昨日と同じ様に感情が昂る。
顔が少し熱をもっている気がする。
『勘違いではなかったようだ。』
私はいつも通りの表情を取れているのだろうか?不安になる・・・。
「おはよう」
私は素気ない感じで挨拶をする。
これから一緒に暮らすのだ。
こんな状態では身が持たない。
どうしたものか・・・。
「おはよー朝ご飯なにー?」
そこに芽衣が降りてきた。
助かった!まだ感情の整理が全く出来ていない。
二人きりではおかしくなりそうだ。
「トーストとサラダとヨーグルトを母さんが置いてってくれてるよー♪」
麻衣が答える。両親は今日は仕事だ。
静江母さんはちゃんと三人分の朝食を用意して出て行った。
仕事も頑張っている。立派な人だ。離婚して正解だったのかも知れない。
とても明るい表情をする様になった。
父もそんな静江母さんに心を許している様だ。
これは母さんの望んだ事なのかも知れない。
残される大切な人の幸せを願ったのだろう。
母さんは・・・。
「亜衣、麻衣お姉ちゃんは大丈夫だよ」
芽衣は私だけに聴こえる様に溢した。
その言葉が頭に響いた。
私は暗い顔をしていたのだろうか?
あぁ・・・私は本当にダメだなぁ・・・。
一足先に食事を終え、食器を流しに入れに行っていた麻衣が戻り席に座る。
そして、
「今日は私、暇なんだけど、あ!今日もだったわ♪
二人は何か予定ある?」
麻衣が質問する。
「別に予定はないよ。私も暇」
出来れば頭の整理をしたいが・・・。
芽衣も同様だった。
「じゃあ、三人でデートに行きましょう♪」
私は唖然とした。
・・・ほんとどうしよう。
◇◇◇
三人でのデートはそれはもう楽しいものだった。
デートと言ってもただのショッピングだが、
彼女といるだけで全てが鮮やかに見えた。
私は、心の底から楽しんでいた。
芽衣はと言うと・・・これは絶対、私の心情を看破しているな。
ずっと一緒で、辛い事も楽しい事も共に歩んできた。
私の他人とは違う部分も受け入れてくれている1番の理解者だ。
煩わしく思った事はないのだろうか?
迷惑かけていないだろうか?
たまにそんな考えが巡る。
そんな時、芽衣はこう言うのだ。
『大丈夫だよ』
この子は本当に年下か?私が不甲斐なさすぎるのか?
いや!絶対この子がおかしい。
そして・・・麻衣もおかしい・・・。
彼女の気遣い、言動の節々に私のそれについての配慮が見える。
これは、一朝一夕で身につくものなのか?
少なくとも、私が今まで接してきた中で家族以外に感じた事はなかった。
しかし、そこに不快なものは何もなかった。
・・・
私はデートの中で麻衣に思わず口にしてしまった言葉があった。
「麻衣は私がトランスジェンダーだって事を煩わしく思わないの?」
自分を否定する言葉。私は怖いのだ。
以前より考えていた事。
私は仮に望む配偶者を得たとして、
二人で子供を作る事は出来ない。
生物として間違っている。
そんな恐ろしい言葉が過った。
私の存在は否定で満ちている。
抜け出せなくなってから失うのが怖いのだ。
しかし、麻衣はあっさり言う。
「なんで?亜衣はこんなに素敵なのに♪」
そこには微塵も、嘘や取り繕いは感じられなかった。
「私達は私達で、私達の在り方で過ごしましょう♪」
甘い夢の中にいる様だ・・・。
そんな日々は存在するのだろうか・・・。
そう言えば私は最初の日以来、麻衣をお姉ちゃんと呼ばなかった。
姉と言うカテゴリーに入れる事を拒否していたのだ。
私は自分が誰かにカテゴリー分けされるのが嫌いだ。
私はマイノリティだ。
私は特別と言う言葉が嫌いだ・・・大嫌いだ。
どれほど彼女を想っても『家族だから』この関係が正当化してくれる。
そんな便利な免罪符を私は狡猾に利用する。
だって仕方ないじゃないか。
私は手に入れてしまったのだ。幸福の片鱗を・・・。
それは歪んだ愛なのかもしれない・・・。
血の繋がらない家族。
もう私はこれ無しでは自分を維持出来ないかも知れない。
よくある様な、純愛なんかじゃ無くていい。
ただ彼女がいればいい。他に何も要らない。
依存・・・
そんな言葉が突き刺さった。
これを依存と呼ばずしてなんと呼ぶのか?
自分の外に、生きる意味を見出すのは楽だ。
自分を納得させるシンプルな方法だ。
無償で与えられるものを受け入れる事も出来ず、
自分を捧げる覚悟もない。
こんな私に誰かを愛する事など出来るはずが無いというのに・・・。
あぁ・・・私はなんて醜悪なのだろうか・・・。
それでも私は幸福を追求する。幸せを求め続ける。
大丈夫。誰にも迷惑はかけないから・・・
だからせめて・・・
・・・
その日の夜。
「お風呂沸いたって♪誰から入る?それとも一緒に入る?」
麻衣が揶揄う様に言う。
「何言ってんの!私が最初に入るから二人は後ね!!」
私は動揺しまくりだ。この人は全く何を考えているんだか。
「麻衣お姉ちゃん。さっきのはちょっとやりすぎ」
芽衣の呆れる声を背中に微かに聞いた。




