Another side.
ここまで遺書ラノベを読んで頂き誠にありがとうございます。
ここからの4話『Another side .…』は別の投稿サイトにて短編で投稿した作品です。
Another side ....のみを読まれた方の中ではきっとこれはハッピーエンドです。
そんな可能性を残したかった。
ただ、冒頭のたった一文字の読点にのみ潜ませました。
『奪い去っていく』のではなく『奪い、去っていく』。
私は悲しい物語を読む時、それを備えとして解釈します。
いつか訪れるかも知れない悲しい未来に耐えられる備えとして・・・。
それは心を強くすると同義だと考えるのです。
このお話は続きます。
ですが一時、この「Another side ....」をお楽しみ頂けたらと思います。
彼女が私の家族になったのは、桜が咲き誇る春だった。
彼女の名前は麻衣。
麻衣は私の心をうばい、さっていく・・・。
そう思っていた、私はその様に想っていた。
しかし・・・
麻衣は私の心を強く・・・確かなものにしていったのだ・・・。
彼女は私にとって・・・。
◇◇◇
私が高校3年になってすぐの頃、
麻衣は父の再婚相手である静江さんの連れ子としてやってきた。
彼女は私の一つ年上だった。
私はもう子供ではない。
今更キョウダイが増えたと言われても正直、家族と言うより他人と言う認識だ。
母は中学1年の頃に病気で亡くなった。
亡くなる直前、母は父に再婚する様にと言った。
再婚する前から、麻衣の事は知っていた。
と言ってもそれほど多くを話した訳ではない。
・・・
「再婚に反対?ちなみに母さんはまだ離婚した訳じゃないから絶賛不倫中な訳だけど」
麻衣が笑いながら言った。
あれは母が亡くなってから2年程経った頃。再婚の三年程前の事だった。
父が静江さんとデートする際に一緒になったのだ。
デートと言ってもカウンセリングに来たついでなのだが、
お互い時間を合わせているのだからデートなのだろう。
父は私の付き添いだ。
静江さんは旦那と上手くいっておらず鬱傾向になり診断を受けていた。
旦那はあまり家庭を顧みない人らしく苦労していた様だ。
「私には反対する権利も理由もないよ。好きにすればいい」
母がそうしろと言ったのだ。私に止める理由などない。
「私も似た様なものね♪母さんの今の状態を思うと応援したいくらいだけど」
鬱になる程らしいし、そう言う考えにもなるのか?
麻衣は随分と楽観視している様だった。
不倫という事で、少し心配していたが杞憂なのかもしれない。
そんな事を思っていると・・・
「再婚したら私達は姉妹になるのよね?仲良くしましょうね♪」
どうやら彼女は私の事情を知らない様だ。
そんな相手に不快感を持っても仕方ない。私は適当に会釈する。
私は理解されたい訳じゃない。納得したいだけなのだ。
理由があればそれでよかった。
その点で、彼女は私の中ではむしろ好感が持てた。
「付き添いで来たんだけど暇でね♪良かったら話し相手になってほしくて」
彼女はいつも理由を明確にした。
人によっては言い訳と取られるかも知れない。
しかし、彼女はそれを当たり前の様にする。
そして深くを追求しない。それが心地よかった。
そんなやり取りはその後も何度かあった。
だから、いざ再婚となった時もあまり違和感はなかった。
◇◇◇
父が再婚して数日経った頃。
学校の帰り道で芽衣と出会い一緒に帰っていた。
芽衣は私の妹で、同じ高校の学年違いだった。
「亜衣は麻衣お姉ちゃんと何か話した?」
芽衣が言う。
私達はまだ麻衣と上手く打ち解けていなかった。
麻衣は社会人で、土日以外は5時まで仕事をしている。
給料は少ないので実家暮らしだ。
節約家で家にもお金を入れているらしい。
彼氏とか結婚とかは全く興味がない様だ。
これは静江母さんと麻衣が食事の時に話していた内容だった。
私達は下校時にいつも通る公園に寄ってたわいない話をしていた。
すると同級生の男子3人組が現れ、話しかけて来た。
「あれ?こんな所で会うなんて奇遇だな」
まぁ学校近くの公園だし、同級生に会う事もあるだろう。
「お前、別クラスの子に告白して振られたらしいな。
トランスジェンダーって噂は本当だったのか?」
デリカシーのない奴だ。
恐らく同級生の女子が嫌がらせで流した噂だろう。
私が誰かに告白などするはずがない・・・
私には、恋愛は分からない。
そんな余裕が無い。自分を守るのに精一杯だ。
それすらもまともに出来やしない。
私は私が嫌いだ。
「あなたに何か関係ある?」
こう言った奴らには辟易していた。
敵対しようと関わってくる奴は何がしたいのだろうか?
「いや・・・、関係は無くは無いと言うか・・・何というか・・・」
歯切れの悪い奴だ。
「じゃあ私達行くから」
そう言ってその場を立ち去ろうとすると、
「ちょっと待てよ!」
男子は鞄を掴む。
私は少しよろめく。
その瞬間どこかから声が聞こえた。
「うちの妹になにしてんのよおおおお!」
物凄い勢いで走ってくる女性がいた。
麻衣だ・・・。
しかも麻衣はそのままの勢いで・・・
それはもう鮮やかなドロップキックを男子に放った。
何故ドロップキック?
男子は2mは吹っ飛んだんじゃないだろうか・・・。
完全な勘違いである。確かにデリカシーの無い言動ではあったが、
2mも吹っ飛ばされる謂れはないはずだ。
余りにも鮮やかだったそれは、受けた相手を哀れに思うほどだった。
私はこの光景を未だに鮮明に覚えている。
それは、私のつまらない悩みを簡単に吹き飛ばした。
その姿はまるで・・・ヒーローだった。
「亜衣!大丈夫だった!?」
姉は心配してくれているようだが、心配する相手が違うんじゃないか?
本当に鮮やかだった。少し鬱陶しかった同級生が宙に舞う姿が思い出される。
私は思わず笑いを堪えきれなくなっていた。
「・・・ぷっ!あっはっはっはは。お腹がよじれる・・・」
私はお腹を抱えて涙を流すほど大爆笑をしていた。
これほど笑ったのはいつぶりだろうか。
本当にこの人は滅茶苦茶だ。滅茶苦茶に・・・格好良かった。
芽衣は慌てて状況を説明する。主に麻衣に・・・。
「え!?勘違い?じゃあそこに転がってるのは?」
その言い方は流石に酷いな。
「私の同級生。ふ、ふ・・ふふ」
私は堪えきれず、思わずまた笑いを漏らしながら説明した。
・・・
「ほんっとうにすいませんでした!」
麻衣は深々と被害者に頭を下げていた。
そりゃそうだ。
「いや・・・。もう、いいです」
幸い大きな怪我も無かった様で、相手もやばい人だと思ったのだろう。
その場は穏便に収まった。
そして男子達はその場を去って行った。哀れだ・・・。
「亜衣もごめん!迷惑かけちゃった!?」
一応、無茶苦茶だった自覚はある様だ。
「いや・・・。むしろグッジョブ。最高!」
私は親指を立てて麻衣を讃えた。
思わずまた笑いが込み上げてくる。
この人が、私の姉になったのか・・・。
私は自分が喜んでいる事に気付いた。
この時すでに、私の心の鎧は綻び始めていたのだろう。
・・・
それから何でこんな所にいたのか聞くと、
どうやら仕事を早めに切り上げて来たらしい。
「いやー、まだ私あなた達と打ち解けられていないでしょ?
だから晩御飯でも作ってきっかけを作ろうと思ったんだけど」
色々と気を遣ってくれていた様だ。
「良かったら一緒に買出しして帰らない?」
麻衣は買出しに行く途中だったらしい。
私達は3人で買出しに行った。その姿は仲のいい3姉妹そのものだった。
買出しを終え、日も傾く頃。麻衣が言い出した。
「実はこの近くにとっておきの場所があるんだ♪」
・・・
それは小高い山の斜面にある近くの神社だった。
なかなかきつい階段を買出しの荷物を持って上がるのは結構な労力だった。
息を切らしながら三人並んで階段を上がりきった。
そして、振り返ると・・・
そこには海に沈む真っ赤な夕陽があった。
太陽は見た事もないほどに大きく、
雲一つない空を燃えるように赤く染め上げる。
海面に映ったそれは縦に伸び、波に反射し煌めいていた。
身近な場所での幻想的な風景。
現実が揺らぎ感情が溢れる。
心が景色に引っ張られ・・・模倣する。
何かが燃えるように熱を帯びる感覚を覚えた。
そして嘘で固めた自分が溶け出し、隠していた根源が姿を表す。
「なにこれ?凄くない!?」
不意の声に慌てて現実に戻ろうとする。
連れてきた張本人である麻衣が驚いている。
「これが見せたかったんじゃないの?」
私は笑いながら言った。
「景色がいいのは知ってたんだけどまさかこんな光景が見れるなんて・・・」
麻衣は感動して目を輝かせながらその景色を見ていた。
夕陽に染まるその横顔を見た時、私は確信してしまった・・・。
あぁ・・・私は・・・
この時、私の心の鎧は砕け散った。
この鎧がなければ私は怖くて何も出来ないというのに・・・。
・・・
一瞬の静寂が場を包む。
「麻衣お姉ちゃんはトランスジェンダーってどう思う?」
私は溢す様に、普通では絶対に言わない言葉を口にしていた。
私はトランスジェンダーのトランスセクシャル。
身体は女性だが・・・。
この事を家族以外に隠してきた。
いや、意図して言わなかったと言うべきか。
何故こんな事を聞いたのか?どんな答えを期待したというのか・・・
諦めたかったのかもしれない。
否定されるか、同情されるか・・・
困惑されるか、それとも・・・
「ちょっと珍しい個性だよね。亜衣はそうなの?」
麻衣はあっさりと言った。
それは予想したどれでもなかった。
「うん」
私は思わず一言、答えた。
口に出してしまった。認めてしまったのだ。
何を?それはきっと・・・押し殺し続けた自分自身を・・・。
「そっか。色々大変だね。もし何かあったら私に言いなさい。
私はあなた達のお姉さんだからね♪
おかしな事言う奴がいたらドロップキック食らわしてあげる」
麻衣は真面目な顔で言う。
私はどんな顔をしていたのだろうか?
それすらも分からなかった。
「それは・・・、最高だね♪」
私は精一杯、冗談めかして笑いながら言う。
嬉しさ、不安、焦燥、感情はもうぐちゃぐちゃだ。
あぁ、もうダメだ。もう逃げきれない。
『私はきっと、この人に・・・恋をしてしまったのだ・・・。』
どうしてここまで私は無防備になっしまったのか?
思えば初めて会った時から彼女は特別だったのかもしれない。
私は笑いながら少し涙を浮かべていた。
そして、それを夕陽が眩しかったからなのだと自分に言い訳をした。
ふと芽衣の方に視線を移す。
芽衣は私達とは裏腹に、神社の方を向き足元の影を見つめていた。
そこにはどこまでも伸びる3人の影が赤とグレーの縞模様を作っていた。
そして空を見上げる。釣られて私も空を見る。
そこには美しい月が浮かんでいた。




