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Side 亜衣 総集編

前回のあらすじ

2020年9月25日

かんたんなゲームでゲーム大会を行った。

罰ゲームがメインの様になりつつある気もする。

負けたのは芽衣。ゲームは楽しく行われ、

3人は麻衣の提案で半年後と2年後の自分達へお互いに、

メッセージを送る事にした。

 話は塔矢が病室に現れたところまで戻る。


「君の状況は君のお父さんから大体、聞いている。

 君がこうしてまともに話出来ている事は奇跡に近い。

 君は本当に強いな」


 何時ぞやも、この言葉を貰ったな。

 私は強くない。私が正気でいられるのは麻衣の、芽衣の、そしてこいつのお陰だ。


「さて、今日は2点ほど話したい内容を持って来ている」


 珍しい、と言うか初めてだな。こいつは基本、自分からは何も話さない。


「コンコンッ」


 そこに病室のドアをノックする音が聞こえてくる。

 そしてドアが開く。


「亜衣。調子はどう?」


 そこには芽衣がいた。


「あれ?塔矢先生、来てたんだ!」


 芽衣は嬉しそうに言う。芽衣は何故かこいつに懐いている。

 こんな胡散臭い奴のどこが良いんだか・・・少し心配になる。


「丁度よかった。芽衣君も一緒に聞いて欲しい」


 ん?こんな事も初めてだった。


「芽衣君、君が危険だと感じたら俺を殴ってでも止めてくれ」


 どうゆう事だ?一体何を話すつもりなんだ?


「穏やかじゃ無いですね。メリケンサック用意した方がいいです?」


 芽衣が笑いながら無茶苦茶な事を言っている。


「そこはハリセンとかじゃないのか?言っておくが俺は弱いからな。

 普通に殴っただけでも軽く意識を失うぞ?」


 芽衣も塔矢には容赦ない。そして塔矢は芽衣を少し苦手そうにしている。


「一度少し話を整理しておこう。亜衣君、きみに起こった事を」


 仕切り直して塔矢が話し出す。

 こいつの事だ。何か意図があるのだろう。


「まず幼少期。君は既にトランスジェンダーとして自覚しつつも、

お母さんのおかげもあって大きな問題はなく過ごしていた」


 そこから話すのか・・・。まぁいい。その通りだ。


「自覚が強くなったのは小学校高学年。成長と共に違和感も増したのだろう。

それでもお母さんは素晴らしい理解者であった。

 お母さんは君を君として、そして問題を可能な限り最小にした」


 母は理解者ではなかった・・・。母は私の・・・証明者だった。


「そして亜衣君が中学1年の頃、お母さんが病気で亡くなった。

 この時からだな。俺が君のカウンセリングを始めたのは」


 この時、私は自分を証明出来なくなっていた。

 こいつの言葉があったから、私は辛うじて私でいられた。

 

「そして君が高校3年の頃、麻衣君が現れる。彼女は君の一つ年上。

 彼女は少し人とは違った考え方をする子だった。

 君にとって彼女は特別だった。目標であり、家族以上の存在だった」


「過去形にするな!麻衣は今も私にとっての特別だ!!」


 私は思わず叫んでいた。

 これはきっと八つ当たりだ・・・。


 自分に言い聞かせていたのだ・・・失いたくないのだと・・・。


・・・


 塔矢は芽衣の方を見る。芽衣は塔矢が話し始めてからずっと私を見ている。

 芽衣は私が正気でいられているかを見極めようとしているのだろう。

 何故、この子はここまでしっかりしているのか・・・。

 私は私が情けなくなる。強いと言うのはきっとこの子の事だ。


 芽衣は動かない。大丈夫だと判断したのだろう。

 ここまでして私の過去を振り返る意味はなんだ?


「続けよう。そしてあの災害が起こった。

 君は麻衣君を失った。そして数日後、記憶を失った」


 少し頭痛がする・・・がフラッシュバックまではいかない。

 数日前、あの微睡(まどろみ)を見て以来、随分とマシになっていた。


「ふむ。ここまで話してもフラッシュバックはない。

 いや、頭痛はしているか?それでも体験した事や経緯を考えれば異常だ。

 一体、君に何があったんだ?」


 まさかこいつに異常と言われる日が来るとはな・・・。

 私は災害後の出来事を塔矢に話した。


 災害直後の事はよく覚えていない。その辺りは芽衣の方が詳しいだろう。

 そして記憶を失ってから、麻衣の小説を自分のものだと思って書いていた事。

 記憶が戻ったきっかけ。そして麻衣が残してくれた小説についても話した。

 そこに込められた想いも・・・。

 私は思いつく限り話した。あの微睡の内容や過去の小説の事、

そして私の中の都合のいいもう一人の私についてまでも・・・。


 話した。話せた。麻衣の事を。麻衣の言葉を。

 言葉にした。言葉にしてしまった。

 永遠は消え、有限な意志に変わる。


 いや、永遠はそもそも存在しない。

 私が望んだのだ。

 進む事を・・・。


 そしてずっと黙って話しを聞いていた塔矢が口を開いた。


「君の過去を話し、記憶に不具合がないかを試した。記憶を失っていたらしいからな。

 そして、それに対しての反応も見ていた。ちゃんと思い出しながら思考していた。

 更に、君の口から失ったものについての話までも聞けた」


 やっぱり意味があったのか。


「こうも都合良く君を導く彼女の想いには、

何かスピリチュアルなものを感じてしまうな」


「随分と似合わないセリフだな」


 こいつがスピリチュアルとか言い出すといよいよもって教祖様だ。


「俺だってそう言ったものに(すが)りたくなる事もあるさ。

 例えば、『神は乗り越えられる試練しか与えない』とかな。 

 出来ないと思った時点で、出来る可能性は極端に下がる。

 どうせ避けられない事なら、出来ると言う認識は重要だ」


 それのどこがスピリチュアルなんだ?


「お前らしいな」


 私は呆れる様に言った。


・・・


「それで話したい内容の一つなんだが、それは俺の過去だ」


 塔矢は自分の過去について話した。

 それは壮絶なものだった。


 私には父も芽衣もいる。母と麻衣の想いもある。

 

 しかしこいつには何も残されていなかった。

 それでも強く生き続けた。

 ただ、その中で自分の幸せを願う事を忘れていたのだ。

 そして人の幸せを願う事でそれを補填する。


「俺は失ったものに固執し、囚われ、後悔をした。

今の君にとって、俺はいい反面教師になるのではないかと思い話した。

 君には必要なかったかもしれないがな」


 塔矢は少し笑いながら言った。


 こいつは自分を反面教師と言う。


 お前みたいな教師がいてたまるか。

 まだ教祖の方が似合っている。


「お前の物語(はなし)はまだ終わっていないだろ?」


 こいつは詐欺師だ・・・奪った悲しみで、

 そうして作った幸せでこいつは自分を取り戻す。 


「俺の過去についての話は以上だぞ?」


 こいつは他人の事は良く分かる癖に自分の事は全然だな。


「過去はな。でも未来がある。見本をみせやがれ」


 私はしてやったりの顔で塔矢を見る。


「反面教師ではなくてお手本の方が分かりやすそうだしね♪」


 芽衣も嬉しそうに言う。


・・・


「・・・立つ瀬がないな。君達の言う通りなんだろう」


 塔矢はばつが悪そうにしている。こいつのこんな姿を見るのも初めてだな。

 何とも気分がいいものだ。


「所で塔矢先生って何歳なんです?」


 突然、芽衣は塔矢に聞く。そう言えば私達はこいつの年齢すら知らなかったのだ。

 私も少し興味が湧いた。


「今、33歳だな」


「「はぁ!?」」


 私達は声を揃えて驚きの声を上げていた。

 今33歳という事は、私と初めて会った時は・・・26歳!?


「まだまだこれからじゃないか!てっきり30歳後半以上だと思ってたぞ」


 会った時からあまり見た目に変化のない奴だった。

 若づくりしてるのかと思ってたが、単純に若かったのだ。


「15歳離れかぁ。無くはないわね」


 芽衣は私にだけ聞こえる声でボソリと呟いた。

 おい・・・いや・・・こいつだぞ?いや悪い奴ではないが・・・。


 暗い雰囲気はいつの間にかどこかに消えていた。

 不思議なものだ。

 幸せがいつまでも続かない様に、

悲しみもまた永遠に続く事はないのかもしれない。


 そうであって欲しいと思った。そうでなければ不公平だ。


 あいつと同じ様に、私の幸せも過去のあの日々にあった。

 そして、それは失われた。

 あいつの言う通り、同じ様になってはいけないのだろう。


 それを伝えたかったのだろう。


 なんと言うか、こいつは・・・お人好しだなぁ・・・。

 

・・・


 少し間を置いて、芽衣が話し始めた。


「気になってたんだけど、塔矢先生はなんで麻衣お姉ちゃんの事を知っているの?

 さっき明らかに知ってる風に話したよね?」


 そうだったか?私は気づいていなかった。

 芽衣は本当にこう言った会話の機微(きび)に聡い。



「俺が話したい内容のもう一つ。それは麻衣君の過去だ」

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