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side 亜衣 塔矢Ⅳ

 塔矢は私に色々な事を教えてくれた。

 母を失ってから麻衣に会うまでの間、

私を支えてくれたのはこいつの言葉だったのだろう。


「こんな事を聞いていいものか分からんのだが、

 俺は君の事を男性として扱った方がいいか?

 それとも女性として扱った方がいいか?」


 こいつは、嫌な質問をしやがる。

 私自身分からないのだ。

 男性として扱われても私は素直にそれを受け止められるだろうか?

 そこに別の意図を感じて不快感を感じるのではないだろうか?

 かと言って女性として扱われれば自分を否定されたと感じ不快に思う。

 私はなんて面倒な存在なんだろう。自分で自分が嫌になる。

 

 私は私が嫌いだ・・・。私が私を否定する・・・。


「それとも君として扱った方がいいか?」


 意外な言葉が耳に入った。

 そんな事があり得るのか?

 男性か女性、それ以外の選択肢があるのか?


「それが良さそうだな。俺はそうしよう。

 俺は君を知っている。と言っても全てでは無いがな。

 下手に分かってると言われると腹が立つだろう?何故だろうな?」


 その通りだ。何故か?分かる訳がないからだ。

 理解していると言うのは嘘だ。だから腹が立つ。

 私も分からないのだ。他人が分かる訳がない。


「前情報もあるし、君との会話から色々感じている。

 君に近しい悩みを持つ者の情報もある。トランスジェンダーについての情報も。

 だが他の人はそうはいかないだろうな。君の家族を除けば」


 こいつの言葉は何故か聞いてしまう。

 本当に詐欺師に才能がありそうだ。


「その、他の人は君にとって重要か?」

 

 こいつは正しい事を言いながら、常にこいつ自身を否定している。

 だからこんなにも胡散臭いのだ。


「人は一人では生きていけない・・・」


 私は絞り出す様にどこかで聞いた言葉を言った。


「外と内、社会と自分の環境とを分けて考えてみてはどうだろう?」


 ん?それはどう言う事だ?


「一人で生きてはいけないから外向きの自分を作る。社会性というやつだ。

 そして内側、身内と言ってもいい。そことの間に壁を作る」


 他人と身内で分ける。


「内側の者にとって君は君だ。それが君のあるべき姿だ。

 そして外に対しては別の自分を作るといい。みんなやっている事だがな」


 確かに当たり前の事だが改めて言葉にされると妙に納得してしまう。


「そしてその中心にいるのが君だ。それは君にしか分からない」


 私しか知らない私自身は中心にいる。


「信じた者に裏切られるのはとても辛い事だ。慎重に吟味しなければならない。

 段階を経て真ん中に近づく。信用に足る人物かを時間をかけて判断する」


 利用出来るものは利用するべき。

 こいつの言葉だ。そんな私に近づく人はいるのだろうか?


「人は一人では生きていけない。君に近づこうとする人は現れる」


 それは私のセリフだろうが。このペテン師め。


「そうして吟味した結果、近くまで来た者は君の協力者だ。

 与えて貰ったものには君が出来る範囲で報酬を支払ってやればいい」


 何かを得て対価を払う。当たり前なのだろう、でも・・・


「私には払える報酬がない」


 学生の私自身が支払える報酬など・・・


「別によほど親しくなければ高価なものは貰わんだろう?

 それに不釣り合いなら断ればいいし、それでもくれるなら貰えばいい」


 確かに当たり前の事だ。


「そしてそれが言葉なら言葉で返せばいい。ありがとうとな。

 そしてそれに気持ちが込もっているなら気持ちを込めて返すといい」


 本当に当たり前の事だ・・・。

 私は・・・そんな事すら忘れていたのだ。


 こいつは沢山の言葉をくれた。


 ただそこに気持ちが込もっているかは分からなかった。


「ありがとう・・・」


 私は小さく呟く。


 塔矢は少し驚いた顔をした。

 こいつが初めて、一瞬だけ自分を出した気がした。

 そしてすぐに表情を戻しいつもの様に胡散臭く言う。


「どういたしまして」



 その言葉には少し・・・気持ちが込もっていたのかもしれない。 

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