side 亜衣 塔矢Ⅱ
「さて、話を続けようか」
何も無かったかの様にまた話し始める。
こいつは一体何を考えているんだ?
「俺は心理カウンセラーとして依頼を受けてここにいる。
君の好きな様に利用してくれて構わない」
父が依頼しこいつはここにいる。
私は何を望んでいるのだろうか?
「君が何も喋るなと言えば俺は黙ろう」
こいつは仕事を放棄しているのか?
報酬を払っているのに何もしないなんて事が許されるのか?
「とはいえ俺も報酬を貰っている。出来る事はやりたい。
俺に出来る事は何かあるだろうか?」
それを考えるのがお前の仕事だろうが!
「それを考えるのがあんたの仕事だろ」
私は思ったままを伝えた。
私は怒る気も失せてつぶやく様に言う。
「そうなんだよなぁ。でも何が出来るんだろうな・・・。
とりあえず、君の置かれている状況は一通り聞いた。
君の妹にも協力して貰った。もちろん父親にもな」
ん?芽衣にも話聞いたのか?
何を言われたんだ?
と言うか父はよくこいつを私に会わせようと思ったな。
それでよくもまぁさっきの様な事を言えたな。
私は様々な思考を巡らせていた。
「何でさっきみたいな事を言ったんだ?」
面倒になってきた。私はそのまま質問する。
「最初のやつか?だって今までの奴はダメだったんだろ?
同じ事やっても同じ結果だろう。それこそ給料泥棒だ」
ん?こいつはアホなのか?
「わざと怒らせたのは何でだ?」
ただのアホなのか?
「いや、お前何も喋んないし。怒らせたら喋るかなぁと」
ただのアホだった。
「それで私が傷つくとは思わないのか?」
思慮が浅すぎる。
「そうなったら土下座でも何でもして謝るしかないな。
何だったら殴って貰ってもいい。内緒にしといてやるぞ?殴るか?」
こいつは笑いながら言った。
いっそ本当に殴ってやろうか?
「その件に関しては俺は当事者だ。取れる責任もあるだろう。
俺は俺の出来る事を全力でやる。俺の出来ない事は他の奴に任せるよ。
まずはコミュニケーションを取りたかった。すまない」
本当に口の上手い奴だ。
詐欺師の方が向いてるんじゃないか?
「しかし、怒る事の出来た君はすごいな。
それほどに君の置かれている状況は厳しい」
どこまで分かっていて言ってるんだ?
「私が怒らなかったらどうするつもりだったんだ?」
こいつのペースに流されている気がする。
「そうなると状況は更に厳しかったな。
時間を掛けて感情を取り戻していく必要がある。
長い付き合いになるだろうな。出来る事も少ないかもしれない。
寧ろそうなると思っていた。それほどの経験を君はした。君は強いな」
私は強くなんてない。
私は諦めたのだ。私は・・・弱い。
「私は強くなんてない」
私は思わず口にこぼす。
「そうなのか?強さとはなんだろうな?
弱さを認める強さなんてものもあるらしいしなぁ。
喧嘩や単純な力の強さなんてのもある。
ちなみに俺はその点においてはかなり弱いけどな」
こいつは笑いながら言う。
お前が言った言葉だろうが!
「どうゆう意味で言ったんだ?」
こいつはなんて答えるんだろう?
「心理的抵抗力があると言う意味だな」
ここで真面目に答えるのかよ!
この後も終始こんな感じだった。
本当に変な奴だった。
そして予定していた時間を終え奴は去っていった。
・・・・・
「彼はムカつく奴だっただろう?」
父は嬉しそうに言う。さては聞いていたな。
「彼は先に言っていたよ。
もし彼がお前に何か悪影響を与えたら彼は最大限の償いをするとな」
笑いながら言った。
「熱心だったよ彼は。今までのどのカウンセラーよりも熱心に我々から話を聞いていた。
異常と言ってもいいほどだ。恐らく彼にも何か事情があるのかも知れないな」
そうだったのか・・・。
「ちなみに彼が要求した報酬は他のどのカウンセラーより少なかった。
俺はいくら出してもお前の為になるなら惜しむ気は無いが。
本当に何を考えているんだろうな?」
いやそんな奴と会わせるなよ?
「私に分かる訳ないだろ」
分からない。が少し気になった。
「気づいてないのか?お前は昨日よりよく喋れているぞ?」
あいつのおかげなんて思いたくない。でもそうなんだろうな。
「どうする?もう二度と会わない様にも出来るし定期的に会う様にも出来る」
私は悩んだ。
このまま他のカウンセラーと話しても同じかもしれない。
奴に少し興味も湧いた。
私はもう一度、話を聞いてみようと思った。
ん?なんで私が話を聞く側なんだ!?
あいつは一体どうなっているんだ・・・




