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side 亜衣 塔矢

前回のあらすじ

2022年8月25日

なくなった事への苦しみから、

亜衣は微睡の中へ沈んでいく。

そこで一つの詩を詠う。

都合の良い物語を作り上げる。

そして、それを受け入れる・・・。

「よう。生きてるか?」


 私の病室に見覚えのある男が現れる。


「相変わらず胡散臭いな。お見舞いに来てくれたのか?」


 こいつは私の心理カウンセラーの塔矢だ。

 呼び捨てにしているのには色々と理由がある。

 こいつとの出会いは最悪な出会いであり、最高な出会いでもあった。


・・・・・


 あれは私が中学に上がってすぐ母を亡くした後、暫くたった頃だった。


 母を亡くし精神が不安定になっていた私に父は心理カウンセラーをつけた。

 しかし、全く効果は無く何人かのカウンセラーを巡る事となった。


 言う事は大体同じだった。

 きっと同じ事を学び、同じルールに沿って、同じ対応をしていたのだろう。


 人一人の人生を背負う責任が発生する様な発言など誰も出来はしない。

 その人にはその人の人生があるのだ。


 そんな事をする奴は法螺(ほら)吹きか異常者、

若しくは一生寄り添う決意のある者。


 前者ならそんな人の話を聞きはしない。

 後者はもっとあり得ないと思った。


 結局、私は私で折り合いをつけるしか無い。

 そんな事を思っている私が、人の話を聞いて救われる事など無いのだと思っていた。


 そんな時に現れたのが塔矢だった。


・・・・


「はじめまして、柏木塔矢だ」


 私は軽く会釈をする。どうせこの人も同じだと思った。


「さて、君は同じ悩みを持つコミュニティに所属した方がいい。

 君は特別でも病気でもない。

 君は特別で病気だ。

 自身を見つめ徐々に自分を受け入れていこう。

 受け入れてくれる人の存在を認識しよう。

 埋没を視野に入れる者も多いだろうな。

 あとはトランスジェンダーの知識をつらつらと語るか、

ひたすらに君の話を聞いて、悩みの本質の理解を目指すか、解消を目指すか。

 後はそれを何度も繰り返すと言った所かな。」


 今まで色々なカウンセラーに言われた事をざっくりいい加減に語る。


『あぁ・・・こいつは異常者だ。』


「どれか、お気に召したものはあったかな?」


 早く終わらせたいだけか?


「既に何人かのカウンセラーと話をしていると聞いたからな。

 あまり効果はなかったんだろう?」


 その通りだが腹が立つな。


「君はなかなかに面倒な存在のようだな」


 それは一番言ってはいけない言葉だろう!

 私は私で当然それについて調べている。

 否定的な対応はタブーだろう?

 やっぱりこいつは異常者だ。


「なかなかに理性的だな。それとも諦めているのか?」


 こいつは私を舐めているのか?

 いやわざと(あお)っているのか?


「そろそろ声が聞きたいな。喋れない訳ではないのだろう?」


 私は流石に限界だった。よくもまぁここまで上手に煽れるものだ。

 こいつは大した異常者だ。


「お前なんかに救って貰うつもりはない!」


 私は思わず叫んでいた。


「ん?君は救って貰う気でいたのか?私は医者ではない。

 出来るのは助言か指導。目指すのは君が勝手に救われる事だけだ」


 私は絶句した。

 一瞬の思考停止の後、理解する。

 こいつの言っている事は正論だ・・・。


 そうか・・・こいつは・・・


『話を聞きたくなる異常者だ。』

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