Side 亜衣 微睡、詩、言葉
前回のあらすじ
2020年6月13日
のんびりとしたある日、麻衣は思い付きで、
ゲーム大会を開く。ゲームは亜衣達の母との思い出が詰まったスゴロク。
3人は罰ゲームを決めてそのゲームを楽しんだ。
相変わらずフラッシュバックは消えてくれない。
麻衣への想いが消えないのだから、消えてくれるはずがない。
むしろ私は消えない事を望んでいる。
眠りは浅く、悪夢に魘され睡眠不足から精神はより不安定になる。
まして私は元々、精神を不安定にする要素を含んでいる。
・・・
それでも私は前を向こうとする。
麻衣の言葉を思い出し押し寄せる不安から必死で身を守る。
「今日は特に酷いな・・・」
私は気分転換に病室の窓を開ける。
外は強い雨が降っていた。
道理で酷いわけだ・・・。
激しいフラッシュバックに襲われる。
それは鮮明に・・・そして痛烈に・・・
私の意識を奪っていった・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
微睡む意識の中で一つの詩を聞いた。
・・・
・・
全てなくなってしまうなら
最後に記憶に残るものはなに?
姿なのか、声なのか、言葉なのか、温もりなのか・・・
どうか、かなしみにならない様に
いつか消えゆくのなら
最後は言葉がいい
言葉は意志を育てるから・・・
もし永遠なら
最後は声がいい
声はうたとなり、かなしみを風に溶かすから
・・・
不思議な詩だった。
永遠など存在しない。
永遠は『実現しない願い』だ。
ならこの問いの答えは・・・。
私はこんな詩を聞いた覚えはない。
私は心の中で麻衣を連想し想った。
『私は麻衣を忘れない!』
・・・
でもそれはいつまでだろう?
姿は移ろい朧げに消えていく。
声は風に乗りいつか聞こえなくなる。
言葉は意味を無くし文字の海に沈み、
温もりは体温に溶ける。
『いつか消えゆくなら最後は言葉がいい。』
私はスピリチュアルな事など信じない。
こんな私に都合のいい事を言うのは誰だ?
私もいつか麻衣を忘れる・・・それでも彼女の残した言葉は消えない。
でもその言葉もいつか消えるとその人は言う。
言葉は意味を表すもの。
意味の無い言葉は文字に消える。
麻衣はもういない・・・。
ならこの詩を詠ったのは誰?
そうかこれは麻衣では無く私だ。
でも私はこんな事を考えない。
私だけど私じゃ無い。
そうか。この詩を詠ったのは・・・
『記憶を失った時の私だ・・・』
私は消えていなかった。私は私と・・・
自問自答をしていたのだ。
不思議と不快感は無かった。
私はすんなりとそれを受け入れた。
だって彼女は、麻衣の感性に触れ想いを取り込んだ私だから・・・。
『私は便利な私を手に入れたものだ・・・。』
・・・・・
私は覚醒する。
「知ってる天井だ」
くだらない事を言ってみる。もう入院して結構になる。
いい加減この天井も見飽きてきた。
私はベッドに寝ている。と言う事は誰かが気付いて運んでくれたのか。
また、迷惑を掛けてしまったな。
不思議な夢だった。夢なのだろうか?
気分は悪く無かった。いつもの悪夢に比べれば段違いだ。
内容ははっきり覚えている。
私は・・・私を見つけた。
それはいい事なのだろうか、それとも悪い事なのだろうか?
それは、都合のいい話だと思った。
そして都合がいい事だとも思った・・・。
・・・・・・
そう言えば、小説投稿サイトはどうなっているだろう?
早くあいつにも麻衣のメッセージを届けないと行けないがそもそも病院から出れない。
芽衣にお願いしてもいいけど出来れば自分で行きたい。
二、三発蹴りでも入れてやりたい。
私はここでふと思った。
そう言えばあのアカウントは麻衣のものだ。
私のアカウントはどうなっているのだろう。
書かなくなってから3年以上は経っている。
暗い内容の小説だ。
こんな時に思い出すなんて私も馬鹿だなぁ。
でも、一度気になると見ずにはいられない。
私は投稿サイトを見る。
・・・
3年分のコメントがそこには溢れていた。
そのコメントは荒れていた。
それは批評、批判の数々だった。
私はその数々に次々と目を通していく。
『暗い内容だな。見ててしんどくなる。』
『読む人の事を考えていない。』
『この主人公は何でこんなに世界を否定しているのか分からん。笑』
まぁ、その通りだな。
とは言えここまで言われると流石に不快だ。
それでも読み進める。
『と言うかこの主人公が犠牲になればいいんじゃない?』
『何だかんだ言ってなかなか死なないんだな。笑』
ん?あれ?そうだったっけ?
『色々と不満を言ってるけど結局死にたくないんだろ。わかるけどな。』
『そりゃ、まぁ俺も死にたくないけどな。でも世界のせいにしてもなぁ。』
え・・・?
『この主人公、絶対生きたがってるよな。笑』
・・・
「ふ・・・ふっふ、ふふ」
とんだお笑い種だ。私は思わず鼻で笑ってしまった。
「なんだ。私は最初っから生きたがってるじゃないか・・・」
それは批評だった。
でも真実であり、私に有益な情報だった。
何だろうな。この気持ちは?
不思議と不快感が消える。
言葉が宙を舞う。
『「死にたい。」と「生きたくない。」は別物だと思います。
私は人は皆、生きたいと思っていると思っています。』
麻衣の言葉が重なる。
言葉が少し曖昧になる。
私はとっくの昔から知っていたのだ。
「私は生きたがっている。」
声に出してみる。
そしてまた言葉が重なる。
こうして特別なその言葉は、その役割を少しずつ終えていくのだろう。
言葉は意味を無くし文字の海に沈んでいく・・・
ただ優しさだけを残して・・・




