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Side 亜衣 追憶

 母は私が中学に上がる頃、亡くなった。

 大病を患い、発覚から1年足らずで帰らぬ人となった。

 私はこの頃の事をはっきりとは覚えていない。


 私達は母を中心で生きていた。

 本当の私を肯定してくれたのはいつも母だった。

 私が私でいられたのは母がいたからだ。


『きっとこの時、私は一度死んだのだ・・・。』


 私は私の姿を受け入れた。

 いや、受け入れたと言うのは間違いだ。

 受け入れられるものではない。

 それは屈辱であり敗北だった。


 それでも女性の格好をし、女性の振る舞いをする。

 それはまるで・・・着ぐるみだ。

 着ぐるみであれば脱げば済む。しかしこれは私自身だ。

 鏡の中の私が問いかける。


『私は一体誰なんだ?』


・・・


 私は当時、小説を書いていた。

 何かから逃げる様にそれに没頭した。


 その内容は後悔と憎しみで溢れていた。

 主人公の男は世界を憎み、辟易し、嘆き、そして世界の為に死んでいく。


 ただただ悲しみを綴っていた。


『こんなもの誰が読みたいと思う?』


 私は私に問いかける。


 しかしコアなファンはいた。

 それは共感からなのか、はたまた興味からか・・・それとも・・・。

 作品は必ずしも正の感情によるものだけではない。

 負の感情もまた人の心を強く動かすのだろう。


 優れた作品は良くも悪くも人の心を動かす。

 だから美術品ではなく芸術品と呼ばれるのではないだろうか・・・。


 芽衣は私を受け入れてくれた。

 あの子は知った上で普通に接してくれる。

 下手に気を遣われるとかえってまいる。


『ただ理解は出来ないだろう。それで良いのだ。』


 それも分かってくれているのだろう。

 我が妹ながらよく出来た子だ。

 少なくとも私なんかよりずっと・・・。


 高校3年になる頃、麻衣が家にやって来た。


 彼女は女性だが格好良かった。

 そこに性別は関係無かった。

 考え方が、生き方が、行動が筋が通っている様に思えた。

 間違っている事もあるのだろう。完璧な人などいない。

 でもそれすらも受け入れる。


 麻衣もまたそれなりに問題を抱えていた様に思う。

 彼女には友人と呼べる人がほとんどいなかった。


 その代わりと言っては何だが、これだと決めた人は徹底的に寄り添った。

 ただそういった人も、自分が必要無くなったと思うと躊躇無く見送った。


 不思議な人だった。


 麻衣は私のヒーローだった。

 来てすぐの頃のドロップキックは衝撃だった。


 彼女は特別だった。

 初めて女性に対してこの人の様になりたいと思った。

 彼女の姿が母と重なった。顔も性格も全然違うのに・・・。

 それが何故なのか、私には分からなかった。


 麻衣との生活は私に力を与えた。

 明確な目標と言うのは進む事に勇気をくれる。

 色を失った世界は、少し色づき始める。

 そして、死んだはずの私が顔を出す。


『彼女は私の事を本当の意味で受け入れてはくれない。』


 そう、分かっているさ。


 でも彼女は姉だ。これからもずっとそばにいる。

 少なくともこの繋がりは途切れない。

 それが間違った依存であったとしても私にとっては救いだった。


 そして麻衣が家に来てから2年半後、


 麻衣はあの災害で帰らぬ人となった。


 私は再び、今度は僅かに残された『諦めた自分』すら殺される事となる。


『世界はいつも私を否定する。』


 私の欲しいものは全てその手をすり抜けていく。


 私は記憶を失い、私は完全に私で無くなる。

 それはある意味救済だったのかもしれない。

 記憶を失った私は幸せだったのかもしれない。


『でも私はそんな事は認めない!!』


 今なら分かる。それは私ではない!

 死ぬ事で救われるものなどありはしない!


 私の世界は私の中にのみ存在する。

 何故私が犠牲にならなければならない。

 私はそんな事認めない。


 麻衣が教えてくれた事はそんな事じゃない。


 そう、麻衣が教えてくれたのは・・・



『自分勝手に生きる意志だ!!』

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