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第17話 魔女裁判

 玄女というのは美しい女だと聞いていたが、実際に見れば、ただの田舎娘だった。

 大蛇にも、小さな蛇にも化ける。

 妙な術を使う。

 髪は黒く、おそろしく頑丈。

 たしかに玄女なのだろう。

 気にくわないのは、この玄女はすでに、あの男のものだったということ。

 ……兄と呼ぶのも気持ち悪い、あの人外が、私より多くのものを持っているという事実が、我慢ならない。


   ◇ ◇ ◇


「まったく、知らぬ存ぜぬと」

 焼きごてを火鉢に放り込み、レイチャードは溜息をついた。

 暑さに、襟をゆるめかけて、やめる。他人の目のある場所で、肌をさらす趣味はない。

 かわりに壁の拘束具につないだ黒髪の娘を見た。

 最初は、黄金のような光を目に宿していたが、今ではくすんだ硫黄色。その唇から、あ、あ、あ、と意味のないつぶやき。

 レイチャードは汲み置いていた水を一口、含んだ。残った水は、桶ごと、玄女の顔めがけて投げつける。

 ひたいにあたって、眉間が裂けた。骨と肉がのぞき、ぷしゅりと血を噴く。

 玄女の血は、物質を変化させる性質があるという。そのうち、この桶や、拷問器具も霊宝武具に変わる日がくるだろうか。

「あまり痛めつけても、話せなくなります」

 そばに控えていた片眼鏡の男が、口を開く。

「伝説の玄女さまなんだろう? これくらいでは死なん。普通の女なら、もう三回は死んでいるだろうな」

「もとより、頭の悪い娘です。これ以上、頭が悪くなっても、」

「ユーグ。玄女を連れ帰ったからと言って、調子にのるなよ」

 この玉なし宦官めが、と。レイチャードは挑発したが、鉄面皮の男は、ただ無表情だ。

「――私は、霊宮づき神官の他、医官としても任官されておりました。蛇女の心身については、詳しいつもりです」

「そうして、我が父の嫉妬で、去勢されたというわけか」

「つづけて霊宮と、そのご子息にお仕えする代価を支払っただけです」

 ユーグの言動に、レイチャードのほうが顔をゆがめた。

「何か問題でも?」

体躯や、体術に恵まれているようには見えないが、レイチャードの本能は、これを敵に回してはならない、と告げている。

「……私は少し、休む。その間に手当でもなんでもしろ。だが、その足輪だけは絶対にはずすなよ。また大蛇に化けられても、かなわん」

「はい」

「治ったら、私の寝室に、それを運べ。魔女裁判はそこで継続する」

 ユーグが深々頭を下げる。

「蛇は、祟ると恐ろしいといいます。お気をつけ下さい」



 ――レイチャードが立ち去ってから、ユーグは滑車の装置を動かして、ティファレトを下ろした。

「三回どころか、十回は死んでますね。これ」

 ひたいの治療を始めると、ティファレトが目を開いた。

「レイチャ、ド。もう、いった?」

「はい」

「今日はもう、これで終わり……かな」

 ティファレトの問いに、ユーグは沈黙した。

 このあとも拷問は続くと、知っている。

 生殖機能をうしなっているユーグには深く理解できないが、次は、レイシアが怒り狂う種類の拷問になることは予想できた。

「じつは、ダアトさまから、上帝の卵でなくても、玄女を殺す方法をうかがっている。必要ですか?」

「へーき。いらない」

 だって、銀髪さんにもう一度会いたいから、と彼女は笑った。

「あと、何日、がまん、すればいいかな?」

「首都までの強行軍は、最短七日。予想以上に、クロイツの国土が拡大していました」

「じゃあ、七日。がんばる。手当さえしてもらえれば、治る傷だもん。感覚がそのままなのが、痛いんだけど」

「くちなわ族は、毒物に対して、ある程度の耐性を持っている。麻酔がほとんど効きませんから」

 ユーグは、傷を縫い合わせ、ふと手を止めた。

「僕たちは、クロイツに入国するのが、早すぎたのかも知れません」

「そんなこと、ない。だって、レイチャード、他の子もう殺してないんでしょう?」

「ええ。裁判待ちの女性は、全員解放されました」

「じゃあ、それでいいんだよ。ユーグだって、ほんとは、そう……思って、」

 かくんと首を揺らして、ティファレトは目を閉じた。


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