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奴隷少女は帰国したい  作者: 雀夜
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第十話

 真昼。昇る太陽は垂直あたりで、多くのものはその影を消すこともある。真夏日であれば大変迷惑だが、それはそれ。

 ギンコの故郷では、太陽は実に有り難いものであり、その階位は最高という言葉さえも超越してるという。

 宗教観における最高神とは、もっとも民に重要視されなくてはいけない概念を司る存在であるというが、果たしてこの世界の主神は如何なる概念を司るのだろうか。


 と、いうのはさておき。


「……冒険者志望の者です」


 メインの収入が酒場での稼ぎである以上、夜間と比べて昼間はそこまで忙しくはない。そんな、少しばかり平和で静かだった真昼の酒場に、一人の少女が現れた。

 風貌は黒。黒一色。黒のローブを身に纏っており、その格好の殆どが露出しておらず、ぱっと見ただけではわからない。少なくとも少しだけ見える前髪から髪色が黒があることはわかったが、その両眼の色は影に隠れてよく見えない。

 世間的に、不審者に間違われてもおかしくはないが、そんなことを気にする者はいなかった。


「キター! 来ました来ました来ました来ましたー!!!

 来ましたよギルマス! これで私もダンジョンに行ってもいいんですよね? なんたって依頼しに来た人ではなく、冒険者として志望してる人なんですから!!!」

「まてまて、とりあえず向こうさんの話しを聞くところからだ。

 こんにちは、お嬢さん。俺は冒険者ギルドのギルドマスターだ。詳しい話しを聞きたいから、奥の部屋に来てもらえるかな?」

「わかった」

「こっちだ。ギンコ、今はまだお客さんだ。茶でも入れてろ」

「承りました、マイマスター!」


 それはもう、ぱたぱたいそいそと元気そうに、奴隷少女ギンコは厨房の中に入っていった。

 その様子を見て、ギルマスは「やれやれ……」とでも言いたげな様子だったが、他でもないそのギルマスの顔も少し、いやそれなり、いやかなり嬉しそうだったので、何の説得力もなかった。


「……大丈夫かな。でも、もう後がない」

「ん、何か言ったか?」

「いえ、何でも」


 いつものギルマスならば、聞き逃すことのないように注意を払っている筈だった。しかし、ギンコとは異なり自らの意志でこの場に来たリラに対して、ギルマス既にそれなりの信頼をしていた。……そんな風だから、奴隷商に一杯食わされたりするのだが。

 どうにも、今はそれなりに都合の良い耳をしていたらしい。


「……ふーむ?」


 睡眠拉致奴隷契約事件の以降、なんだかんだで他人に対して警戒心がマシマシになったギンコの耳は、その小さな言葉を聞き逃すことはなかった。

 ……が、いかんせん今は自分にとっても都合が良いもので、大した問題だと発覚してからでいいか、と放置した。


「それじゃあ、すまんがギンコ、暫く店番頼んだぞ」

「なんか仕事が増えてますが、了解しました!」


 ……。


「さて、改めてはじめましてだ。俺がこのギルドのギルドマスターだ。

 それで、冒険者志望って言っていたことについて、もう少し詳しく聞いてもいいかな?」

「それについては理解しましたが、何を話せばいいんですか?」

「ふむ」


(なんだかんだまともな面接は初だな。さて、こういうときは何を聞けばよかったか……)


「まず、何故冒険者に? 冒険者は、例え最低ランクのクエストでも命の危険がある。稼ぎを増やそうと思うのであれば尚更だからな。なんだかんだで、そんなに夢のある仕事じゃないぞ?」

「……昨今は、就職活動も楽じゃない。私は力仕事ができないし、幼い頃から他人と接するのが苦手だから。……芸術関係の仕事につける気もしない。

 なら、命の危険があっても、冒険者の道を選んだほうが無難。……と、思ったからです」

「ふむ、なるほどな」


(まぁ、普通か?)


「次に、得意なスキルを教えてくれ。白兵か、弓か、魔法か、それとも他の技能か。自分の売りを教えてくれ」

「私は呪術師。敵対する人間や魔物に弱体を付与するのが得意。多少なら攻撃魔法も使える」

「呪術師。……魔術使いか、それは貴重だな」

「……? 魔術使いが貴重?」

「少なくとも、この辺りだとな。この辺りだと、魔術を使う奴の殆どが冒険者とは無縁の場所で働くがことが多いんだ。だから、冒険者だと貴重。中流や上流だと、これまた話しが変わるんだがな」

「……貴重なら、私を入れてくれる?」


(……特に、断る理由とかないよな?)


 自問自答。せめてこれがギルド設立当初ならば、男にも多少の警戒心と、他人を疑う心があった。

 しかし今は、目的とは反対にギルドではなく酒場としての稼ぎがメインとなっている他、意を決して購入した迷宮奴隷が使い物にならない始末。

 故に、そして要するに男は功を焦ったのだ。用心深くいるべきであっただが、それができなかった。


 その結果、ここで生まれた問題の種が、今から少し後に芽吹くことになるのだが……今の男に、それを知る術はない。


「そうだな、それじゃあ……ああ、いや。すまん、大事なことを聞くのを忘れていた」

「なにを?」

「お前の名前を教えてくれ。組合にも登録が必要だからな」

「……リラ。私の名はリラ・リック。よろしく」

「ああ、リラ。これからよろしく」


(……しかし、呪術師か。何かを忘れてる気がするな。……いや、考え過ぎか)




「ところでマスター」

「なんだ?」

「私、可愛いですよね?」

「そうだな」

「なのに、なんでマスターは私に対して普通に接することができるんですか?」

「……ああ、お前はあれか。その美貌に散々振り回された口か。やけに大人びてると思ったが……それなりに、人生経験豊富なのかな?」

「なんか言い方はきもいですけど、まぁ色々とあったことは否定しません。で、どうなんです?」

「んー……まぁ、いいか。俺はな、そういう可愛い見た目とか、可愛い振る舞いとか、そういうのに慣れてるんだよ。勿論、お前が悪い訳じゃないんだが……不思議と、魅力的な女って生き物とは何度か顔を会わせたことがあってな。

 だからまぁ、単に慣れだよ」

「……なんかこう、世の男性が聞いたらぶち切れそうな案件ですね」

「しょうがないだろ。俺だって好きでこうなってる訳じゃないからな」

「またもや殴られそうなことを」


「……お前の住んでた世界、もしかして物騒じゃないか?」

「わざわざ異世界から人間拉致して奴隷にしてる国に比べれば、それなりにまともにも見えますよ」

「……ああー、はいはい。この話しはこれで終いだ」

「了解です」

「そうだ、ギンコ」

「何ですか?」

「ステータスについて、もう少し詳しく説明しようと思ってたんだ」

「やったー! お願いします!」

「まぁ、今日は遅いからまた今度だな」

「そんなー!」


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