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第8話:鼠の衣



「でっっか!?」


 巨大なネズミ、クランゼルグが変身というか変身を解いた姿。でかいし、ネズミだしで色々驚きだ。けど変身が解けたことによって、俺の精霊を見る視点にも変化があった。クランゼルグは精神体も偽装していたからだ。クランゼルグの精神体からは黒い謎精が生み出されていた。


「そうか、お前が黒い謎精を生み出してた……本体だったのか。じゃあ本当はあの黒い物質がなんなのかもわかるってことか?」


「ええ、もちろんです。この黒いのは私が持つ殺鼠剤に対抗する力が物質化したものですよ。先王によって暗黒街に殺鼠剤が撒かれ、大地を汚染した毒によって暗黒街の人々はみんな死にかけていました。この殺鼠剤は今は禁止されていますが使われなくなった理由は単に危険だからという理由だけではありません。


 魔物であるジャイアントラット対策として開発されたものでしたが、そのジャイアントラットはこの殺鼠剤への耐性を獲得し、全くの無意味なものになっていたのです。我々カオスラット族は、ジャイアントラットから変異したものなので、元々その耐性も引き継いでいたんです。


 しかし、見た目が違いますから。先王にはジャイアントラットとは認識されなかったみたいですね。カオスラットの上位種である私は少々異なりますが、一般的なカオスラットはジャイアントラットより小柄ですし、色も違う。ジャイアントラットは赤茶色、我々は黒です」


「変異した魔物? それにカオス? どっかで聞いたことあるような」


「ああ、カオス系って呼ばれる新種の魔物や魔族が今世界中で増えてるらしいんだよ。結構噂話になってたからそれでお前も知ってたんだろ。僕は一応カオス系の魔物と戦闘したこともある。


 けど妙だな。カオス系って制御不能って感じで暴れまわるのが普通なんだけど。クランゼルグ達はそんな感じしないし。さらに言えば、なんで人間なんか助けることにしたのかも謎だよ。だって人はネズミを殺しまくってたんだぜ? 恨んで人を殺しに行くなら分かるけど、助けるって……」


 ふーん、今そんなことになってんのか。カオス系ねぇ?


「……まぁ、実際我々は暴れてましたからね。主に食料を荒らしたり、攻撃してきた人を殺したりもした。といっても暗黒街は食料自体がまるでなかったので荒らしてたのは主に王都ですがね。警備が少なく入り組んだここが隠れる場所に適していたので、王都を荒らしては暗黒街へ逃げて潜伏というのを繰り返していました。まさしく人の言う害獣そのものでした。我々は他のネズミ族より賢かったので人間の使う罠や戦略も看破出来ましたし、強引な手段でなければ追い払うことなど不可能だったでしょうね」


「……なぁ、聞いてて思ったんだけどそれかなりヤバイ状況だったんじゃないのか? なんか小国だったらそれだけで国が滅びそうな勢いだぜ?」


「まぁ実際、やろうと思えばあの当時のアステルギアなら滅ぼせたかもしれません。ですが、滅ぼしてしまったら楽な食料調達ができなくなるので加減をしていました。他のカオスラットのグループでも過激だったやつらは実際に小国を滅ぼしたみたいですし。と言っても今のアステルギアは我々が本気を出しても滅ぼすことは不可能でしょうね。そんな気はさらさらないですが」


「えぇ……ネズミに手加減されることによって国が持っていたのか……ん? なぁネズミが将来的にも楽に餌を手に入れるために目の前にある餌を我慢するなんて、例え賢かったとしても無理なんじゃないのか? ディアが言ってたことが本当なら火の属性魔力を生み出せないカオスラットは本能への対抗ができないはずだろ?」


「そこですよ。だから私も違うのではないか? と思ったんです。けれどそれは我々がカオス系で例外だったからかもですし、断言は出来なかったんです。我々もカオス系について調べたんですが、色々特殊な魔物のようで、分かってないことが多いんです。ただ一つ言えるのは異常な行動、例外的な行動を取ることが多いということです。その異常行動が新たな本能が芽生えた結果なのか、それとも本能に抗った結果なのかはわかりませんが」


「ああー、そういうことだったんですねぇ。ですがカオス系、未知の領域、いや、開拓域があるのはワクワクしますね! はっきり言って今のクランゼルグさん達は特殊過ぎますし。大いに興味があります!」


 妹が目を輝かせている。大丈夫だよね? あらゆる探求者にはヤバイやつが多かったりするけど……大丈夫だよな?


「カオス系が特殊なのはわかったけど、結局なんでクランゼルグさんは人を助けようなんて思ったんだ? 当時は別に仲がいいわけでもなく、人に対して嫌悪感だってあったんだろ?」


「そうですね。恨みはありました。今思えば先祖達の恨み、のようなものを背負っていたような気もします。それに、カオスラットになって強い力を手に入れて、人なんて大したこと無いって見下してたところもあったと思います。実際、手玉に取って遊ぶようなこともしましたし……その、人を助けることにした理由ですが……」


「なんか言いづらいことなのか?」


「ええ少し、言いづらいですね……先王によって禁止された殺鼠剤を撒かれて暗黒街の人々はあっけなく死んでいきました。すぐに死ななかった者は死にかけに……あっけなく、強い力を持つ者に、人々は殺されていった。強者の身勝手な理由で追いやられたものが、身勝手な理由で殺されていた。人なんて死ねばいいと思ってたけど、何故か嫌な気分になったんです。それは我々がかつて同じ目にあってきたからでした。


 それを見ていて分かったんです。人は、同じ形をしていても沢山の別種がいるんだってことを。そして昔の私達と同じような種族が、人の中にもいるってことに。そう思うと、暗黒街の人々への敵意は、私から消えました。けれど、敵意が消えただけ、それでも人を助けようとは思わなかった。ただ、哀れんでいた」


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