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第6話:狂気の短剣


 小僧にガチ泣きされた後、ディアミスが必死に小僧を慰めていた。すると小僧はディアミスをかなり気に入ったのか暗黒街の案内を名乗り出たのだった。というわけで小僧に案内されながら俺たちは雑談をしていた。


「なぁ小僧。お前度々住民達に挨拶されてるけどお前実はここで偉いのか?」


「はぁ? んなわけネーだろ。オレがここらを守る自警団のリーダーだからお仕事お疲れ様的な挨拶してるだけだろ」


「それを偉いっていうんじゃないのか? みんなお前に一目置いてるってことだろ?」


「それで偉くなるわけネーだろバカか? いいか? 偉いっていうのはネルスタシア様みたいな高潔な精神を持ち、自分の心を律するための厳しさという、正しきプライドを持つ人を言うんだよ! 立場や偉そうにするだけのやつらはニセモンだァ!」


「なんか、妙に知恵がありそうというか、他の言ってた人の言葉を丸パクリしましたって感じのアレだな? お前のようなケダモノにその言葉を思いつく知能があるとは思えんし」


「お前クッソ失礼だなァ!!! 実際丸パクリだし、オレはバカだけどよォ。デリカシー?のないお前はもっと底辺のバカだぜ! ガハハ! それにいま行こうとしてンのがパクリ元のヤツの所だよ……事情知ってそうな頭いいヤツは、知り合いにあいつぐらいしかいないしナ……っと、だべってたらいつのまにかかついたな」


 小僧が両手で掘っ建て小屋の扉を指差すと入って行った。俺たちもそれに続く。小僧は「客だぜ!」とすでに小屋にいるらしい人物に話かける。


「お客さん? えっーと……今日はどういったご用件で? 私はクランゼルグ。そっちのドランゼルグと同じく自警団のメンバーだけど……」


「ドランゼルグ? その名前の響き……もしかして小僧、ドワーフ混ざってんのか? たしかに鍛治学校にいたダークドワーフに似てるかも……そっちのクランゼルグさんはまるでドワーフ要素ないけど」


「あん? 知らねーけどそうかもな。あんま背ぇ伸びねーし。まぁ親の顔知らねーから、わかんね」


 ダークドワーフはドワーフと同じく背が低くて手先の器用な人族でドワーフは毛深くて豪快な顔付きのやつが多い。ダークドワーフは色白で目付きが悪く体毛が薄い。ダークドワーフは昔、人間族と敵対したせいで勝手に邪悪認定されたが、時が経つと和解した。しかし、今も昔の名残でダークドワーフと呼ばれている。


 っとと、なんか妹に呆れのような、困惑の表情で見つめられてる……また話を脱線させてしまったもんなぁ。クランゼルグとやらにさっさと説明しよう。



──────



「なるほど、暗黒街が特殊な土地になってたから調査に来た訳ですね? ふむ、この状態の暗黒街は一見すると不気味ですし、景観も損ねる。それを正さねばといった所でしょうか?」


 クランゼルグに説明してやると、クランゼルグはピリピリと少しイラつきが見える表情でそう言った。なんでイラついてんだ? もしかして暗黒街を馬鹿にしてると思ったのかな? 全くそんなことはないんだけど……


「正す? いや謎精に悪意はないし、ここの住人を守ってるっぽいから問題ないんじゃね?まぁ、あえて言うなら黒を活かす感じの建築を発展させてくといいのかもな。変な黒い植物も建築と世界観を統一させてやれば、カッコよく見えるはずだぜ!」


「…………え?」


 ポカンと口を開けたクランゼルグに見つめられる。何故だ……


 小屋に入るまで気付かなかったけど、部屋の小窓越しに暗黒街の風景を見て気づいたことがある。黒い謎の柱のようなものが建物と寄り添うように立っているが、これ木だわ。黒すぎて木と認識してなかった。地面ばっか気にして目線が下に向いてばかりだったから気付かなかった。


「もしかして、ここらに生えた黒い木を使ってるから建物も黒いのか?」


「へ? あ、いや……そういうのもあるけど、元は普通の建物だったのが黒く変色してったのがほとんどだと思うよ。その……さっきはすみません。ちょっと勘違いして突っかかってしまいました」


「勘違い? それって何と?」


「ネズミ狩りです。奴ら商人や旅人、流れの教会関係者と名乗っていたりと……一見なんの繋がりもないように見えるのですが、何故か共通してネズミ狩りを行っています……」


「ネズミ狩り? ほほう、つまりスパイ狩りですか! ここってそんなにスパイが潜りこむ場所なのかね? アステルギア王国の近衛兵である僕としては見過ごせない話だね!」


「いえ、スパイの事ではなく、文字通りネズミを狩る者達のことです。ま、ここで暮らす人でないとそう捉えるのは仕方のないことでしょう。この街では、人とネズミが共生しているんです」


 的外れなことをドヤ顔で言って赤くなる馬鹿(テツヤ)はさておき、ネズミと共生?一緒に暮らす仲間ってことか? ネズミと?


「あの、クランゼルグさん。ネズミと共生ってどういうことですか? 一緒に暮らしてるってことですよね? でもここにたどり着くまでネズミは見かけませんでしたよ?」


 そうだよ。ディアミスの言う通りネズミは全く見かけなかった。この街が特殊なのは見た目だけじゃなさそうだ。


「ネズミ達は基本的に夜動き出すんです。昼間は屋根裏や軒下、地下に潜んでいます。でも仲良くなれば昼でも、呼べは来てくれたりするんですよ? ほら、こんな感じで、ピム! プリム! ペルム!」


「「「チュチュチュ!!」」」


 クランゼルグが呼びかけるように声をあげると天井の隙間からネズミが三匹降ってきた。そいつらはその流れでドランゼルグの両肩と頭に着地、そのままリラックスするようにクランゼルグの体になだれかかる。


 ネズミ、確かにネズミだがデカイ……魔物であるジャイアントラットより少し小さい、子供の頭ぐらいの大きさ……つまりドランゼルグの頭と同じぐらいの大きさだ。色は黒で目は黄色だ。


「おめーら、重いんだけド……仕方ねぇ……おらヨシヨシ……そういや前頼んだやつはできたのか?」


「チュ!」


 は? ネズミがドランゼルグへ問いかけで床の穴へと潜る、そして戻って来た、戻ってきたネズミの手には編みかけの服があった。そう、編みかけ……ネズミは器用に手で糸を編み込み、服を作る動作を行う。「まだ作りかけだよ」とでも言うように。


 コレ(・・)に衝撃を受けたのは俺だけではないらしく、テツヤもディアミスも面食らっていた。これを見るに暗黒街のネズミ達は高い知性と情緒を持っている。これだけで最低でも人間族の子供以上の知性を持っていることが分かる。これではネズミというより……最早小人だ。


「な……凄いネズミ達だな……なんて種類のネズミなんだ? ジャイアントラットに似てるけど、ちょっと小柄で全体的に穏やかな印象っつーか……」


「種類はわかりませんがおそらくジャイアントラットの近縁種でしょうね。まぁこんな感じでこの街はネズミ達とうまくやってたんですが。先程話した通りネズミ狩りがやってきて、今この街はちょっとピリピリしてるんです。ネズミ狩り達の目的も分かりませんし。彼らが誰の命令でそれを行ってるのかも検討がつきません」


 クランゼルクは眉間に指を添わせてため息をつく。こいつらも調査が行き詰まってるってことか、ん? けど待てよ? 上、(アステルギア)には報告しなかったのか? それともしたけど対応してもらってないのか?


「なぁそのことは、お上に報告はしたのか? 俺が思うにネルスタシアが大粛清を行ったから国の人間がこの街に嫌がらせをしてるって線はまずないだろ? そうなるとほぼ外患確定じゃね? 今は暗黒街も正式な国の一部だって言うなら、アステルギアが動かないってのはありえないと思うけど。そうでもないのか?」


「国への報告はもちろんしています。実際調査には協力してもらってますし。ああ、でもネズミ達との共生の話は外ではあまり触れ回らないでくれというお達しはありました。ネズミとの共生は今の所問題もないし許可はするけれど、まだ全く問題がないと断定できる状態ではない、様子見をするべきとのことで。そうなると当然、直接協力してくれている人員以外、ほとんどの人たちはこの街の現状を知らないんです」


「なるほど。そういう事情で近衛兵である僕にすら情報が来なかったわけか。ん~一応聞くが、ネズミ狩りを行った者を捕らえたんだよな? それで分かった情報は?」


「まぁその、捕らえはしましたがお察しの通り、彼らは何も情報を吐きませんでした。毒薬を使って自決までする徹底ぶりでした。なのでムーダイルさんが言っていた通り外患、しかも組織だった本格的なものでしょうね」


「毒を使ってまで自害するとは……訓練した人間をポイポイ使い捨てできるレベルの組織力、もしくは従順な人材を量産できる技術力があるのか……どちらにせよ厄介だねぇ。まぁ僕が思うに単に調査する人材を増やしてもうまくいかないだろうね。違った方面からのアプローチがないと進展しない。とすると、僕らがここに来たのは正解だったのかも。今回はムーダイルの気まぐれがいい方向に働いたね」


「ん? テツヤ、お前何か特殊な調査スキルでも持ってるのか?」


 ドヤ顔でヤレヤレと肩を揺らすテツヤに訊く。


「え? 僕にはそんな調査スキルないよ? もちろん、ディアちゃんとムーダイルのことだよ。ディアちゃんはまだ学生だけど、すでにこの国でトップクラスの錬金術師だし、ムーダイルは精霊とかの存在を認識できる特殊能力がある。少なくとも錬金術方面と精霊方面からの調査が可能ってことだよね? それに特殊な能力がない僕だってよく発想が突飛と言われるぐらいには特殊な角度から物事を見ることができるんだ!」


 ドヤ顔で言うもんだから。テツヤが何か特殊なスキルでも持ってるのかと思ったら俺とディアを当てにしてるだけだった。だけど実際テツヤの言う通り俺たちが調査した方が事が進展しそうだと思う。俺は鍛冶関係にしかほとんどこの精霊と対話する能力を使ってこなかったが、事件の調査に力を使うことだってできるだろう。


「あのさ、ディアミスってそんな凄い錬金術師だったの? いや元々賢い子だとは思ってたけど、アステルギアって一応錬金術で生きてる国だろ? それなのにこの国でトップクラスの錬金術師ってマジ!? 俺、全然知らなかった。普通に……ただの錬金学校に通う学生だと思ってた」


 普段、ディアミスと学校や錬金術の話なんてしないもんだから、まるで知らなかった。正直ビックリだ……


「へへ、実はそうなんだ。錬金学校も錬金術関連は全部マスターしたからほとんど研究員として過ごしてるの。だから生徒としては道徳や倫理の授業を受けてるだけ。これは学力や試験でパスできるものじゃないから。特例で特別教授にならないかって話もあったんだけど、いつかお兄ちゃんと旅をするかもしれないから断ってたの」


 正直、ドン引きした。俺よりも3つ下、まだ15歳の妹だが、立場的には俺の遥か上を行っていた。さっきも言ったがアステルギア国は鍛冶職人のレベルが低く、錬金術の盛んな国だ。いってしまえば俺は鍛冶技術レベルの低い国で格下無双をしていた存在だが、妹は世界的に見ても錬金技術の上澄みであるこの国でガチバトルしてもなお無双してしまうような存在ってことになる。


 そしてそんな妹がいつか俺と一緒に旅をするかもしれないからという、確定してもいない未来のために特別教授への打診を蹴ったということ。その事実に異常さを感じた。面倒見が異常にいいとか、優しく賢い、兄思いな妹というレベルを超えてしまっている気がする。重さというか、圧を、狂気を感じる。俺に……執着している……

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