表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/42

第5話:夢粉砕槌(漬け物石製)


 旅に出ろと王城で言われてその翌日、俺、ディアミス、テツヤの三人は王城前で国から支給される荷と目的地の説明などを受けて、馬車で王都から一番近い「クルトン」という町に行くことになった。今はその移動中なのだが──


「なぁこの汚い町って王都の一部なのか?」


 今までまるで外出しなかったから、王都? 王都の周辺を囲むようにある汚い町のような土地があることに気づかなかった。こんなの昔はなかったと思うんだけど……


「あぁ、それな、暗黒街って呼ばれてる地区だな。先王時代にできた地区でその時は王都に含まれない、違法な区域とされていたが、ネルスタシア様が王となってからこの暗黒街も王都の一部となったんだ」


「お兄ちゃんがドルガンタル鍛治学校でアステルギアにいない時にできた地区だから。お兄ちゃんがよく知らないのも無理はないよね。昔はなかったけどいわゆるスラムだと思ってもらえればいいかな。


 でもほとんどはの人は元々王都に住んでた人ばかりなんだよ? 先王が身勝手な理由で王都から追い出した人や理不尽に犯罪者扱いされて逃げてきた人、元々貧しい暮らしをしていた人達が景観を損ねるって理由で再開発のため土地を奪われてとかね。ほとんどって言ったけど、それは他の国から来た難民の人たちもいるからだね」


「先王の被害者ってことか、ふーん。それにしても汚いな。なんか地面がやたら黒いし見たこともない変な植物が大量に生えてやがる……なぁ、御者のおっちゃん! 馬車止めてくれるか? 暗黒街とやらを見て周りたいから降ろしてくれよ!」


「えっ!? お兄ちゃん予定と違うよ!? 隣街のクルトンに行く予定だし御者さんもそんなこと言われても困ると思うよ!?」


「そうだぞ、ムーダイル。御者さんも困るし、僕も予定外の労働はしたくない」


 俺の暗黒街を見たいという発言後、二人は間髪入れず否定に回る。ぬぬぬ、でもなんかスラムどうこうとは別に特殊な土地になってるから見て見たいんだよな。今までに見たこともない黒銀に光る謎の精が大量に浮いている。こいつらには精霊とかが見えないからか、いかにここが不思議ゾーンなのかまるでわかんねーみたいだ。


 ディアミスは俺に甘いし、俺が子犬のように頼めば賛同してくれるんじゃないか? そしたら多数決でテツヤの意見など押し込められる!


「くぅ~ん! くぅ~ん! ディアちゃん! ぼく暗黒街見たいよぉ……なんだか特別な土地になってるみたい。だからね? もしかしたら面白い精霊がいるかもしれないよ? ディアちゃん! ムーダイルわんちゃんを見捨てないでぇっ!」


「こいつキモッ!? 自分を可愛い子犬だと完全に思い込んでいる!!!! この男に恥の概念はないのか!? 僕がいうのはなんだけど! こんなんでディアちゃんが意見を変えるわけないだろ!!」


「う……ううう、でもこんなにお兄ちゃんが必死にお願いしてるのに見捨てるなんてできないよぉ……ほらほらわんちゃん、私は味方だからね?」


「──って!? あっさり籠絡されてるぅッ!?」


 妹にヨシヨシされながらテツヤをザマァみろと舌を出して犬のようにハフハフ音を出す。テツヤは子犬を見捨てる狭量なやつだとよくわかったところで、御者は話はまとまったのを察知したようで。苦笑いしながら馬車を止めた。


こうして俺たちは暗黒街を見て回ることになったのだった!



──────


「なぁ、お前らなんでこんな暗黒街が黒っぽいかわかるか? 近くてよく見ると別に家や地面は汚れてないんだよ。単なる汚れじゃない、見た目よりかなり清潔だと思う」


「んー調書だと確か石炭とか油、その(すす)じゃないかって書かれてたはずだが」


「私も錬金学校の地理で王都周辺には石炭が沢山あるって教えてもらったよ。油はさすがに違うんじゃない? だって明らかにギトギトはしてないし」


「そんなこと言われてんのか。どう見ても石炭や油だとか煤じゃないけどなぁ。見た感じ水も僅かに黒っぽくなってて煤が混じった水と似てるけど。絶対違うわ」


「お兄ちゃん分かるの?」


「そりゃ俺は精霊が見えるからな。意思を持つに至っていない小さなものでも集中すれば声が聞こえるし。この区域の油や石炭、煤の精は本当に明かりや火の周りにしかいない。だから違うのは分かる。でも黒くなる原因の物質、これの精は見たこともないやつなんだよな」


「おい、あそこの人黒い水普通に飲んでるぞ。こんなの飲んで問題ないのか? なぁムーダイル、お前から見てどうなんだ?」


 テツヤが騒ぎながら指差す先を見ると、女の子が井戸から黒い水を汲み出して飲んでいた。見た所特に異常はなさそう、それどころか元気そうだ。俺もこの謎精から人間に対する悪意だとかは感じないし完全に無害なんだろうか?


 しかし今の所意思を持った黒銀の謎精は見かけない、あたり一面に漂っているから普通は希薄ながらも意思を持ったのがいてもおかしくないのにだ。


 となるとこいつらには本体があり、強い自我を持っている可能性が高いかもしれない。それが精神生命体か動物か魔物かはまるでわからないけども。


 黒銀の謎精の動きからして、やはり地下から漂う、物質的には地下から染み出ているっぽい。俺はそう思い地面を手で掘っていく。すると──


「おい!? テメェ! 何してやがる! 素手でそこら掘るんじねぇ! 汚染されんぞ!」


 なんか怒鳴られた。声のする方を見ると14歳くらいに見える小柄な小僧が俺を睨みつけていた。やたら色白で、白髪のギザギザ歯の獣じみた小僧。


「んー? お前人か?」


「人じゃボケェ!! テメェ喧嘩売ってんのかァ?」


 また怒られた。なんかこいつは他の暗黒街の住人と比べてあの謎精達に纏わり付かれてるというか、好かれてるように見えるんだよな。だからもしかして謎精出してる生命体かもと思ったんだけどな。


「あ、ごめんね? お兄ちゃん、ここが色々黒っぽくなってる原因を探してて、多分君をその出どころと勘違いしたみたい。えっとさっき汚染されるって言ってたけど、どういうこと?」


 なんと、俺が言うまでもなくディアミスは俺の考えを察してしまった。俺ってそんなに考えてること分かりやすいかな?


「ん? まぁお前らどう見てもよそもんだもんなァ……だから注意したんだけどよ。汚染は先王がこの暗黒街にぶち込んだジャイアントラット用の殺鼠剤だよ。それも大昔に禁止されてたヤベーやつだ」


「そうか! それは僕も聞いたことがある! 王城にジャイアントラットが出たもんだから先王が暗黒街のせいだと決めつけて昔禁止されたはずの薬品をばら撒いたって話。禁止されるってことは効き目が凄いんだろとか滅茶苦茶な理由だったはず」


「は? 滅茶苦茶だろ。頭おかしいんじゃねーの?」


 小僧とテツヤの説明に衝撃を受ける。禁止されるようなもんをぶち込みまくったなら沢山死人が出たはずだ、さらに言えば今になってもなんらかの障害が出ておかしくないんじゃ?


「実際狂ってたんだよお兄ちゃん。先王は正気じゃなかっから……あの……今はその薬品の影響でなんらかの障害になったりとかあるんですか? 見た所暗黒街の皆さんは元気な人が多いように見えるんですけど」


「今はほぼそういうのネェな。オレも前に調子崩してたんだけど……多分この黒いなんかのおかげで治ったんだ。今もここらは汚染されたままだけどよォ。この黒いのを同時に摂取すれば問題ないんじゃネェかってみんな言ってんな」


「つまり薬品を無害化もしくは、摂取者に耐性を授ける……ふむ、見た感じ耐性の付与だな。そういや、レギオンていう悪霊の集合体みたいなやつにも時折、退魔、光属性に耐性を持ったやつがいたな。そいつら似てる……自分の一部を与えて、加護を与えている感じだ」


「れ、レギオン!? お兄ちゃんなんでそんなことに詳しいの!?」


「鍛治学校時代にな、呪われ過ぎて立ち入り禁止になった墓所に伝説の呪いの装備があるから見に行こうぜっていうことがあってな。


 俺は止めたんだけど、放っておくのもあれだから渋々な。そこで耐性持ちレギオンを見たんだよ。ヤバイことに耐性持ちレギオンは、分け身の霊魂をほかのアンデッド系の魔物に与えて、そいつらに退魔耐性を持たせやがったんだよ」


「お兄ちゃんよく生き残れたね……同行者に強い人がいたの?」


「いや、退魔耐性を持つとより物質的な存在に近づくようだったから、耐性をどんどん強化させて物理で倒した、他の奴らがな。他の魔物に分身を与えまくって耐性を待たせるためにレギオンがトラウマになってる退魔魔法を特定するまでが大変だったって記憶がある」


「なぁお前の精霊が見えるってやつ、もう見えるとかそういう次元じゃないのでは? 戦闘でお前が役に立たないもんだと思ってたけど、これならある意味お前超強いよ?」


「お!? お前なんかに褒められても別に嬉しくなんかないんだからね!」


 テツヤがナチュラルに、俺の隙をつくように褒めてきたため、思わず俺のツンデレとしての一面が発露してしまう。戦闘のプロなだけあって戦闘関連には真摯に向き合うってことか? ようは戦闘の職人と言えるわけだし。


「なんだオメェら? 腑に落ちねえ奴らだな? 悪意の臭いはしねぇから信用してやるけどよ、ナニモンだ?」


「えっと、勇者と鍛治勇者と近衛兵の三人でこれから世界を旅するの……ん? そう! ダンジョンに潜って、王様にお宝を献上するのよ!」


 小僧は明らかにディアミスの言葉を信用しておらず、物凄い薄眼で俺たちを見つめていた。というかディアのヤツさらっと嘘ついてるし。なんで?


「まぁ、勇者がオンナで近衛兵がアホ面の鎧男だろ? でももう一人いるっていう勇者はどこだよ……まさかこの……この、漬け物石ぐらいの戦闘力しかないやつが勇者って言うんじないだろうなァ?」


「誰が漬け物石じゃーー!! 多分リアルにそれぐらいの戦闘力だけど俺がもう一人の勇者じゃい!!!」


「は???!!!! …………嘘だろ!? こんなゴミが! こんな漬け物石レベルが勇者なんて……いくらなんでも弱すぎ!! オレはッ! オレは認めねえぞォッ……!! こんなんじゃ! 簡単に死んじまうッ!! 世界は終わるッ……!!」


 何故かガチ泣きをし始める小僧、どうやら夢を壊してしまったらしい。勇者の称号なんていらないと思ってたのに、いざこうも否定されるとなんだか悔しさが残るのだった。


少しでも「良かった」と思うところがあれば、高評価、ブクマお願いします! 励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ