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第4話:復活する最強の武器



「納得したくはないが……お前がしばらく世継ぎを作れないのは分かった。では話を本題に戻すぞ」


「そ、そういえば本題から脱線してたんだった! 宝剣の話だったよな。もう脱線には気をつける……でもなんで宝剣なんだ? 魔王対策なら聖剣の方がいいんじゃないか? と言っても俺は聖剣作れないけどな」


 宝剣を任せられるのは嬉しいことだけど、俺的には少し違和感だった。この国の勇者はここ最近、6年の間に魔王討伐に失敗し続け、すでに五人が死んでいる。俺の家族、父と母、長男、長女、次男……


 今この国に存在する勇者は俺と妹のみ、さらに俺は勇者であるにも関わらず弱い、というか雑魚だ。一般兵に劣るどころか、ちょっと喧嘩の強いそこらのガキにすら劣る。


 今、この国には実質的に勇者がディアミス一人しかいないのだ。だから戦力増強は必須だし、魔王の脅威を嫌というほど知っているこの国ならば、作るべきは宝剣ではなく、対魔王に特化した聖剣を作るべきだと俺は思った。


 しかし、ネルスタシアは宝剣を作れと言った。俺が聖剣を作れないのは知らなかっただろうし、最初から宝剣を作らせるつもりだったってことだと思う。違和感、腑に落ちないんだよな。


「聖剣を作れないのか。まぁお前のジョブが見習い鍛治師だというならそうなのかもしれないな。一応聞くが宝剣は問題なく作れるんだな?」


「ああ、問題なく作れるぜ! それどころか宝剣作りは精霊鍛治師系である俺の得意分野だな!」


「ふむ、それは期待だな! お前の言う何故聖剣でなく宝剣なのか? という疑問についてだが、聖剣の素材となるアダマンタイトやヒヒイロカネ等の希少金属を手に入れる手段がないし、それらを買い取る金もないからというのが一つ。


 そしてもう一つ、この国の防衛を考えた時、わたしが想定しているのは魔王や魔族だけではないからだ。退魔の力を持つ聖剣が効果的に力を発揮するのは魔王や魔族、アンデッド等の闇属性の特性をもつ相手だけだからな。しかし宝剣なら人相手だろうと魔族だろうと有効だ」


「えっ? 人相手も想定してるのか? 魔王が暴れ回ってる状態で人同士での戦争なんてヤバイだろ……人同士で戦争を仕掛けた国が嫌われて他の国から経済的に潰されたとか、そういう話は俺ですら知ってるぐらいだし、そんな迂闊なやつらそんなポンポン出てくるか?」


 俺がそう言うとネルスタシアは眉間に指を這わせ、顔を渋そうにしていた。周りを見ると大臣達や、テツヤですら同様に渋い顔をしていた。


「無論それは理解しておるし、こちらから戦争を仕掛ける気もない。そもそも経済的に国同士の戦争をしただけでこの国は潰れかねない。先王のせいでこの国は復興途中だからな。詳細は言えぬが、人族にこの国を蹂躙される可能性があるのだ。それが国家か、無関係な謎の組織か、単なる個人か、それは分からんがわたしはほぼ確実にそう言った危機があると認識している。すでに人によって被害を受けた国家がいくつかあるからな」


「…………」


 俺は困惑から押し黙ってしまった。魔王という脅威がある中で人が人の国を襲う? 人なのに人類の滅亡を望んでいる奴、もしくは奴等がいるっていうのか?


 そりゃ俺には推し測れない国と国の利権だとか確執はあるんだろうが……自分達すら滅ぼうが構わないと言うような狂気を感じた。


 もちろんそいつらが自分達は大丈夫と思ってるだけの可能性もあるが、ネルスタシアやテツヤ達の表情を見るとそうは思えなかった。


「そしてわたしが先王を殺した時、わたしが黄金の宝剣『グランデューク』を壊してしまったからというのが最後の一つ、その理由だ。この国には今宝剣がない、そして個人的にも黄金の宝剣を手に入れる必要があるんだ」


「個人的な理由?」


「ああ、黄金の宝剣を依り代としていた地神霊『グラノウス』と約束したのだ。いずれまた再契約し、共に戦うとな。それに、黄金の宝剣はこのアステルギア国を建国に導いた初代国王の使っていたもの。そういう意味でも特別なんだ」


「そういうことだったのか……しかし、すげぇな……地神霊、神霊クラスの存在にまた再契約して力を貸したいなんて言われるとか……聖女だとか英雄だとか、本当にそういう……」


 色々理由を話してくれたネルスタシアだか、正直この神霊にものすごい気に入られ方をしているという話が一番衝撃的だった。こいつ、ガチで凄いんだな……


 本当に歴史に残る聖女や英雄、それも後の世の時代で誰もが知ってるレベルということになるからな。俺なんかとはまるで比べ物にならない、遥か高みにいる存在なんだと俺は思った。何故だか、少し胸が苦しくなった。


「そしてムーダイル、お前には黄金の宝剣と、それとは別にあと7つの宝剣を作製して欲しい。宝剣は希少金属が不必要だし、依り代となる核さえあれば成立するものだ。普通ならいくら核を用意できようと神や精霊との契約は困難を極める。


 しかし、お前は精霊鍛治師なんだろう? わたしも昔からお前と過ごすことによって、わたしには見えない精霊達とお前が通じ合っているのを見てきたからな。鍛治関連は詳しくないが、そんなお前ならできると思っている」


 そうか、ネルスタシアは元から俺の精霊との親和性、その才能を見て俺に頼んだってことか。実際、ネルスタシアの言う通り宝剣は核さえあれば簡単に作れる。武器部分に頑強さや攻撃力は必要ない、何故なら宝剣とは依り代と契約した精霊の力を借りて魔法を発動することだけを目的としているからだ。


 そのため、見た目も剣であるどころか武器である必要もないのだ。しかも核とする素材も対象の精霊と相性がよければいいだけ、精霊によってはマジでそこらに落ちてる石ころでも核として成立しかねないレベルだ。


 本当、極論、その辺の石ころを核に泥団子で固めても精霊なり神なりが宿れば宝剣になってしまう。まぁそんなの流石に弱いけどな。色々と性能を高めるには技術が必要なんだけど、色々ゆるい武器種なんだよな。


 宝具って呼んだ方がいいんじゃね? と言われたこともあったらしいが、魔道具っぽいから絶対嫌と世界中の鍛治師が反対したそうだ。逆に非精霊系で強力な魔法を発動できる魔道具を宝具と呼ぶようになった。


「ああ! やってやるぜ! けどなんで7つも?」


「わたしは黄金の宝剣を発動できたが、実はアステルギアが建国から1500年という長い歴史の中で、黄金の宝剣を使えたのは|わたしと初代国王、二人だけ《・・・・・・・・・・》なのだ。


 お前も知っているだろうが宝剣は契約した精霊と使用者の相性が良くなければ使えない。つまり、代替わりした時、いかに強力な宝剣があろうとも次代の王やその家臣に使用できない可能性があるということだ」


 初代国王が黄金の宝剣を使ってたのは俺も知っていたけど、1000年の間、ネルスタシア以外の歴代の王も家臣も誰一人として黄金の宝剣を使えなかっただと? こうなるとネルスタシアヤバイだろという話だけでなく、契約してる地神霊グラノウスとやらも絶対めんどくさい性格してるやんけ……と、少し気が重くなった。


「だから人の性格を7種に大別しそれぞれの性格と相性のよい精霊7体と契約した宝剣を7つ、製作して欲しい。そうすればアステルギアはこれからどの世代でも安定して宝剣の力を使えるだろう。


 そういった目的のものだから、この7つの宝剣と契約する精霊は強力でも、ある程度寛容というか、我儘でないもので頼む。黄金の宝剣のようなものは扱いに困るし、性格だけでどうにかなる感じでもなさそうだからな」


「ほう、これには俺も超納得な理由だな。こんな沢山の精霊、しかも性格の異なるやつらと契約しまくってこいとか、他の国は思いついても不可能だからな。まさしく俺という人材、アドバンテージをフル活用するコスパ最強の国家プロジェクトだな!」


「その通りだ。勇者としては弱くとも! お前には計り知れない価値と才能があるんだ! だから、自信を持て、職人としてだけでなく、人としてな……という訳だから、お前にはこれから精霊達と契約し宝剣を作るための旅に出てもらう。準備はこっちですでにしてあるから、明日にでもすぐに行けるぞ!」


 は? た、旅? え、魔王倒せって訳じゃないけ世界を旅しろってこと? 普通にクソめんどいんだが……でも冷静に考えれば俺が精霊のいる現地に赴いて契約しなきゃいけないんだから当然か……


「では、勇者ディアミス、近衛騎士予備テツヤ! お前達も鍛治勇者ムーダイルに同行し支えるのだ!」


「鍛治勇者護衛の任務、承りました! 勇者ディアミス、この命に代えても兄を守り抜くことを誓います!」


「えぇ!! ぼ、僕もぉっ!? あっ! ははぁ! このテツヤ、全身全霊、全力でやり遂げることを誓いますぅっ!」


 テツヤよりもディアミスの方が騎士っぽいこと言ってるやんけ……ちょっと鬼気迫る感じで妹が命をかけて俺を守るって、なんだか心配になるな……マジで命をかけかねないように見える……俺を思ってくれるのは嬉しいけど怖い……


 つーかテツヤ近衛騎士だったの!? こんなクソ適当なやつが……しかも予備とか言われてなかった? いや予備って何? 近衛騎士だし強いのは間違いなさそうだけど……




 こうして俺、ディアミス、テツヤは宝剣を作るために世界を旅することになったのだった。止まっていた時が動き出すような、そんな感じがした。これからどうすればいいか分からず、停滞していることに慣れていた俺は──


 ──意外にもこれから始まる冒険に、心臓が高鳴っていた。ワクワクと、前向きなそれは、俺の体を自然と動かしていった。

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