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第30話:牙折りの歪剣

三人称視点の過去編です。



 ガーディナスは魔王討伐に失敗し、アステルギアへと戻ってきていた。フルブラッドはガーディナスが魔王の討伐失敗の責任を追求したが、民衆はそれに同調することはなかった。結局、ガーディナスは魔王の討伐に失敗しても原種イノシシの牙を折ったという、偉業を成し遂げたからだ。


 文字通りの神話の化け物、魔王どころか高位の神すら一方的に殺戮する破壊の権化、その強さの象徴である牙を折ったのだから。さらにアステルギアにはダイモーン帝国からフルブラッドの責任を追求するための使者が送り込まれていた。ガーディナスが原種イノシシがやってきた原因はフルブラッドにあるとフラッチャに言ったからだ。


 魔王討伐の戦場に存在した約1万のダイモーンの戦士達は原種イノシシのせいで300人程度になってしまった。勿論ダイモーンには他にも数多くの戦士がいるため、国内に300しか戦士がいないということではないが、国力が大幅に下がってしまったのは間違いない。


 原種イノシシがフルブラッドに誘導されたという話にはもちろん証拠などない。だが、原種イノシシがフルブラッドにとって都合よく動いたのはアリスグエル死亡の件と合わせてこれで二回目だ。証拠はなくとも、警戒するには十分だ。ダイモーン帝国の皇帝はハイモーンであり、偉業を成し遂げたガーディナスの言葉を信じた。そしてアステルギアだけでなく周辺国家にアステルギアへの警戒を促す使者を送った。


 フルブラッドが魔王や原種イノシシを誘導できるとすれば、単にアステルギア国内が荒れ放題となるだけでは終わらない。国が滅びかねない、一部の国は戦争を仕掛けてでもフルブラッドを始末するべきと考えるものもあった。魔王との戦いが激化してから、人同士での戦争はご法度だったが、魔王を操れるのなら魔王の仲間も同じ、魔王の仲間を滅ぼすための戦争なら問題ないといった理屈だった。


 が、結局戦争が起こることはなかった。ほとんどの国は魔物から自国を守るので精一杯というのもあるが、短期間に何度も魔王の脅威に晒されたアステルギアを見て、今度は自国が魔王に攻められる可能性を考えた。よって、リスクの高い制裁は行われなかった。それぞれの国がアステルギアとの交易を規制、監視する程度に収まった。


 それによって元から悪かったアステルギア経済はどん底になった。しかし、レジスタンス達の資金面は潤沢だった。周辺国家は表向きは交易の監視や規制だけを行ったが、裏ではレジスタンスに物資や資金、武器や人員の提供を行ったためだ。そんなことがあれば後々他国に良いように利用されるのは目に見えているが、ネルスタシアはレジスタンス達をまとめる嵐の亡霊としての立場を使って、他国の人員の配置を慎重に行っていった。


 ズブズブの関係と言えるのは暗殺ギルド国家のフォースリアぐらいだ。ネルスタシアはフォースリアと共同で他国の人材やその背後関係を調査し、信用できる者と接触した。その人材を通じて、他国の要人とコネクションを作り、レジスタンスが活動しやすい環境を急速に整えていった。


 ガーディナスが生還してから二ヶ月、最早フルブラッドとハムドールを支持するものは誰一人として存在しなくなっていた。彼らに味方するのはフォスーラの腕輪で洗脳されて強制的に従わされている兵士達だけだ。そして兵士たちの戦力を民衆が超えた。ガーディナスやディレーナ、他国の戦闘系人材を使ってレジスタンスを訓練した結果だ。練度は高くないものの、数の力があれば通用する程度にはなっていた。装備も充実しており、あとはフルブラッドの居場所を特定するだけでいい、そんな状況になっていた。



「クソッ……!! なんなんですかぁ! この状況はぁ! あんなの、想定できるわけないでしょうかぁ! なんであのガキは原種イノシシを差し向けて死んでないんですか? 死なないにしても、再起不能になったりするのが普通でしょうが……大体、ワタシは言われた通りにやっているだけなのだから、ワタシは悪くない。悪いのは欠陥のある策を用意したゾール司祭が悪いんですよぉ……」


 フルブラッドは旗色が悪い状況に荒れ、いつレジスタンスに殺されるか分からない恐怖に怯えていた。フルブラッドは変装魔法を駆使して配下と共に地底異海や暗黒街の地下道を転々としていた。しかし、暗黒街の地下道も最近は使いづらくなっていた。ここ数ヶ月の間にどこからかやってきたカオスラット達の住処となっている地下道は使えなくなってしまった。今フルブラッドがいる場所は、部下に調べさせた、また使える地下道だった。


「クソネズミ共が……あいつらがいなけりゃもっと楽に身を隠せるのに……近隣クソ国家共も難民を押し付けてきて、そのせいでわけのわからん奴らが住みつくし、もうホントさぁ……いい加減にしてくださいよぉ!」


 ここ数年、近隣国家でもカオス化した魔物の襲撃や飢饉によって難民が生まれていた。近隣国家は難民たちをアステルギアに押し付けた。フルブラッドを経済的に追い詰めるため、自国の工作員を紛れ込ませるため、あるいは難民の面倒を見たくないがために、難民をアステルギアに押し付けるのは正当性があるものとした。国内を荒らしたいフルブラッドだったが、難民によって国内が荒れるよりも、それに紛れ込む敵対者の存在があまりに不快だった。


「いい加減にしろだと? 命令も達成できない無能の分際で、被害者ぶるとはな」


 地下道で壁を背にうなだれていたフルブラッドの前にフードを被った少年がいた。


「──なっ! 何者ですかぁ!? ままま、あ……? レジスタンスではない……まさか……ゾール司祭? しかし、その体は……」


「俺の名を不用意に口にするな。次やれば殺す。この体は連絡用に操作しているだけだ。用が終わったら貴様が使え。随分と力を失っているようだからな」


「申し訳ありませんでしたぁ! あ、ありがたく使わせてもらいますぅ! しかし、なぜここへ? 神託があるのでしょうかぁ?」


「神託はない、そもそもこの場所はトーリスの影響か、見えぬことが多い。だがそうも言っていられん。この状況を打開するにはガーディナスを始末して、民衆の希望を失わせるほかない」


「な! そんなの無理ですよぉ! 原種イノシシでも殺せないやつをどうやって殺せって言うんですかぁ? しかも……ワタシは不断の誓いもしましたから、ガーディナスを直接攻撃することだって不可能です」


「そうだったな、貴様は神に呪われたのだったな。神に呪われている。その事実をよく考えることだ。それと、ガーディナスを力で斃す必要などない。奴は化け物だが、全知全能ではないのだからな。主神の叡智は俺が何を言えば、貴様がどう考えるのかすらも見通してくださる。お前は単純でブレがない、よって、お前が何をすべきかも簡単に伝わる」


「不断の誓いはテミス神の呪い……そうか、そうか……分かってきましたよぉ。ワタシはもっと視野を広く持つべきだったのですねぇ。司祭、ありがとうございます」


「礼はいらん。貴様はもっと己の立場を自覚すべきだ。貴様は後戻りなどできないのだからな。それをするにはあまりに罪を重ねすぎた。貴様を救う存在があるとすれば、それは主神だけだ。必要な情報が得られればまた伝える。用は済んだ、俺は帰る」


 フルブラッドにゾールと呼ばれた少年はその言葉を最後に、どさりと地下道の地面に倒れ込んだ。フルブラッドは少年の体を仰向けにしフードを取り、顔を覗き込んだ。


「いやぁ、司祭も気がききますねぇ。ワタシがどんな考えを持って、どんな反応を示すか分かってるんですから。これってぇ……やっぱそういうことですよねぇ?」


 フルブラッドは少年の顔を見つめながら、下品に舌なめずりをした。




──────



「ダイモーンから使者が来てるって聞いたけど、フラッチャ、お前だったのか!」


「お久しぶりじゃのう、ハイモーン・ガーディナス。あの戦いの後、しばらくは臆病風に吹かれておったけんど、やっぱフルブラッドを許せんくてなぁ。あの戦いを生き残った他のもんも一部はフルブラッドと戦うために動いとる。それ以外のやつらは腑抜けて抜け殻みたいになっちまったけんどな」


 ダイモーン帝国からアステルギアへと来ていた使者の一人はガーディナスと共に魔王と戦い、原種イノシシの脅威から生き残ったフラッチャだった。フラッチャはただ使者としてアステルギアにやってきただけでなく、フルブラッドを殺すためにレジスタンス達と接触していた。その情報を得たネルスタシアが信用に足る協力者として認め、フラッチャを嵐の亡霊の拠点の一つに招待し、情報交換を行うこととなった。


 この拠点は王都にあるサボテンギルドの地下室で、寡黙で屈強な男達が数多く存在するギルドなため、ほとんどの人々はそれを恐れて近寄ってこない。ガーディナスはフラッチャと再会すると、一瞬だけ嬉しそうにしたが、その表情は次第に思いつめたものに変わっていった。


「あの戦いは……俺がしっかりお前達の共闘を断るべきだったんだ。あんなことが起こるとは俺も思っちゃいなかったが、嫌な予感自体はしてたんだからな」


「そんなのハイモーン殿が気に病むことじゃねーのよ。ダイモーン帝国の戦士達は自分で決めたもんを誰かのせいになんかしないからの、ワシらは結局戦いを穢したフルブラッドが許せんだけよ。さて……それじゃここにいる皆さんにワシらが集めた情報を伝えるぞい」


 フラッチャはそう言うと地下室にいる者達の顔を見渡した。ガーディナスとネルスタシアとディアミス、それと一人の青年がいた。


「ああ、少し待ってくれませんか? 実は私もこういった場は初めてで、自己紹介をしたいのと、私はハイモーンでの戦いを知らないのでその情報を教えてもらいたいのです」


「お、おう。それは構わねぇけんど、あんたはアステルギア人じゃねぇな? アステルギア人にしちゃあ体が四角っぽいしのう」


「はは、四角っぽいですか。面白い感想ですが確かにそうですね。アステルギアの人々は逆三角形型の上体を持っていますからね。私はコマルン・ザン・ダイザーという者です。一応これでもダイザー国の王子ですが、国内での立場は低いですし、私もあまりかしこまった関係というのは好きではありませんから、楽な感じで構いません。まぁでも、王子……ですからねぇ。わたしがそれを許しても周りの者がどう思うかまでは保証できかねますが……」


「おいコマルン。そう思うなら王子であることを言う必要はなかったのではないか? 人が困るのを見る趣味はほどほどにしろ」


 コマルン王子に対して釘を差したのはネルスタシアだった。コマルン王子は17、ネルスタシアよりも6も年上だったが、まるでネルスタシアのほうが年上かのようだった。ネルスタシアが他国から来た人材を伝手に獲得した要人のコネというのがコマルンだった。元々はダイザー王国にいたのだが、ネルスタシアと手紙でやり取りをするうちに時代の変遷をこの目で見たいという欲望を抑えられず、野次馬根性的にアステルギアへとやってきた。


 コマルンはネルスタシアから届いた手紙を初めて目にした瞬間から、ネルスタシアが後の歴史の転換点の中心にあるだろうということを確信したと言う。若さと能力の高さ、そしてなによりも強い憎しみと愛の執念を評価してのものだった。能力の高さとそれを動かす巨大な動力にコマルンは未来の英雄を見た。


 コマルンはただの王子ではなく、次代のダイザー王国の王となる王太子だ。本人は自国での立場は低いと言っているが、それはコマルンが普段から傍若無人な振る舞いから周囲を困らせてばかりいたからで、コマルンのアステルギアへ行くという要望も父である王に反対された。しかし、コマルンは揺るがなかった。


 コマルンは王に賭けを持ちかけた。自分がこのまま自国にいてもまともな王になることはないし、アステルギアで自分が死んでもまともな他の王子が自然な流れで王になれるから問題はない。だがしかし、もし混迷を極めるアステルギアで自分が生き残ったとしたら、それはダイザー王となる資格を真に持ち合わせる者となった証明になる。


 破天荒な提案だったが王はコマルンのアステルギア行きを認めた。それはコマルンの言う理屈に納得したからではなく、コマルンが生まれて初めて己の成長のために動いたからだった。実際の所、コマルンが野次馬根性を働かせているのがほとんどということを王は理解していたが、命を賭けて苦難を乗り越えるというコマルンの誓いには、嘘がないように見えた。


「いやぁ、ネルスタシア様には敵いませんねぇ。でもこうやって困る人の反応を見て、その人がどんな人かを見定めるのが私のやり方なんです。でもフラッチャさんの困り方はいい感じでした。できるだけ私の要望に応えようと思ったものの、どうすべきか迷っていた。私には誠実な人のように見えました。ダイモーンの人ですし、ちょっと雑な人かと思ったのですが、我が国のバカボンボン王子共よりよっぽど繊細です」


「フラッチャ、いつもどおり話してくれ。なにかあってもわたしが責任を取るし、そもそもお前もガイモーン族の族長、はっきり言ってこの性悪王子よりも格が上だ。気にすることはない」


「そういうことなら、まぁ楽にいかせてもらうぞい。それじゃハイモーン殿との出会いから──」


 フラッチャはガーディナスとの出会いから魔王との戦い、原種イノシシのことをコマルン王子に説明した。それをコマルン王子は興味深そうに聞いた。


「やっぱり、実体験の話と人伝の話では全然違いますね。ああ、すみません。大雑把な概要は元から聞いていたのですが、あまりに現実味のない話であまり納得がいっていなかったのです。試すようなことをして申し訳ない。雑な情報で知った気になって痛い目を見たくなかったんです。それでフラッチャさん達が集めた情報というのは?」


 フラッチャはコマルンの不躾な物言いに少し苦笑いをしつつも、咳払いをして話し始めた。


「あれから原種イノシシの通ったルートを調査したのよ。いろんな部族の協力を得てな。それで分かったのが……原種イノシシの通ったルートにはダイモーン人でない、他国の者と思われる死体が大量に、何箇所にもあったのよ。ありゃあ間違いなく人を使って原種イノシシを誘導した証拠じゃろう。原種イノシシは殺意の塊、目の前に人がおれば殺しに行く、人の塊で原種イノシシの通り道を作ったんじゃ」


「……なるほどな、そういうからくりか。だが疑問点は多い、誘導するにしても、フルブラッドはどこに原種イノシシがいるのかを知っていたことになるし、どうやってそんな……生贄のような人々を大量に用意したんだ」


「ああ、それも少しはヒントになりそうなことがあってのう。死体はそのほとんどが貧相な体つきで死の恐怖から筋を強張らせておった。やつら生きようとしとった。自分らが死ぬなんて知らんようだった。恐怖を感じ取るということは、操られてなかったんじゃないかとワシは思ってのう。だからあれは、ほうぼうから来た難民だとワシは思う。


 そんでな、体を硬くして死んだものがほとんどだったけんど、例外のやつが、それぞれのポイントで絶対一人はおったんじゃ。そいつは恐怖を感じとらん、体があまり硬くなかったからのう。それでその変な死体を調べたのよ。柔い死体は大体、集団を先導する位置取りにおって、体が動くはずなんじゃが、動いておらんようだった。


 死者達は常人で、一集団自体はそれほど大規模でなかったから死体の状態を確認することができたとワシは考えとる。皆恐怖で動くこともないから原種イノシシはゆっくり近づいて頭だけを噛み千切って殺したんじゃ。大量の頭部の塊が死体の横にあってな、おそらく吐き出したもんじゃろう。一集団がもっと大規模ならワシらが経験したように大地を落とされて確認は無理だったろうな」


「つまり、ダイモーンの周辺国家の難民の大移動が同時に起こり、それが……ガーディナスと魔王のいる戦場への原種イノシシの道を作っていた。フルブラッドは難民を扇動する存在を送り込み、生贄を用意したということか? 確かにフラッチャの言う通りなら筋は通る。どうやっているかはわからんが、フルブラッドには原種イノシシの居場所が特定できる。そしておそらく、魔王の居場所も」


「ネルスタシア様、フルブラッドが分かっているのはおそらく居場所だけではないでしょう。それぞれの集団の行進の早さと誘導するのにベストなタイミングまで分かっている。とても人の仕業とは思えないですね。神々の力を借りたならば納得はできますが、まず間違いなくフルブラッドの背後には何らかの巨大な組織が存在するでしょう。神々の力を使っているかどうかは別にして、それは間違いありません」


「ワシもコマルン殿に同意じゃの。神々も組織もあると思うわ。まぁそんなことする神なんて聞いたこともないけんどな」


「もしフルブラッドが神々の力を借りているとしたら、私達も神々の力を借りないと負けるかもしれないね」


 それまで沈黙を貫いていたディアミスが口を開いた。


「フェルト兄さんが古代遺跡から古代の魔道具を盗んできた時に、神々と繋がった遺跡をいくつか見つけたって言ってた。その遺跡を利用すれば、神々と接触して力を借りることも可能かもしれない。私はフェルト兄さんと一緒に遺跡の調査をするね。あと錬金学校の書庫でも遺跡と神々のことを調べる。政治のことはよく分からないから、ネルちゃんに任せるけど、気をつけてね。最近は私達のほうが優勢だけど、敵だって何かしてるはずだから」


 ディアミスは話し終わると地下室から出ていった。それをガーディナスは寂しそうに見つめていた。


「なんていうか、宴で話には聞いてたけんど……ハイモーン殿の妹は強い子じゃな? ハイモーン殿よりしっかりしてるように見えるわい」


「ははは、そうだな。あいつは俺よりよっぽど強いし賢い。自分で考えて行動するってのが俺には難しい。戦いには自信はあんだが、それ以外じゃ、自分の行動の正しさに確信を持てねぇ。いや、正しくなくとも突き進む勇気がないのかもな」


「ガーディナスさんも大変ですね。見た感じあなたの周囲には少々クセの強い人が多い。私と言うまともな知り合いが増えてよかったですね。はは、まぁ私がまともというのは冗談ですよ。ダイザージョークです。でもあなた今、私が自分でまともでないと言って笑いましたよね? 冗談だし、自分で認めていることですが、人に笑われるといい気はしないですね」


「なっ……」


 コマルンの七面倒臭い絡みに流石のガーディナスも言葉を失うが、その顔を見てコマルンは楽しそうに笑っていた。


「いやぁ失敬失敬。でも実は本当にこの国をどうにかしたいと最近は思ってるんですよ。正直その事実に私自身が一番驚きましたよ。別にこの国の無辜の民を思ってのことではありません、しかし、共にこの国で活動した人たちに愛着が沸いたんです。私に友達はいませんでしたが、初めてそういった存在ができるかも? と思ったりしました。まぁ、こんなのでは誰も友になりたがらないでしょうがね。でも、彼らが死んだら私が嫌な気分になるから、その対策は全力でするんです。


 という訳で、今回知り得た情報を元に父と交渉を行い、ネルスタシア様と正式に協定を結びます。公式な発表はしばらくしないと思いますが、ダイザー国が認めるアステルギアの正当な王はハムドールではなくネルスタシア様とします。とりあえず、私はそのための文書を作製しますから、後日ネルスタシア様に確認してもらいます。私は自分の拠点に戻ります。それでは」


 コマルンは早口で話し終わると走って地下室を出ていった。態度は悪いが、急ぎ走る足取りが、目的のために真摯であることを見せていた。


「コマルン王子もはしゃいじゃってまぁ。何かあったんかのう?」


「ああ、どうやらギルドレジスタンスの者たちと仲良くなったらしくてな。そこでとあるギルド長の娘に熱い視線を送っていたとかなんとか。あんな複雑怪奇な妖怪でもそういったことはシンプルなもののようだ」


「はぁ~それはちょっと、流石に俺でも気になるな。あのコマルンが好きになる女っていうのはどんな子なんだろうな」


 しばしの雑談を終えて、報告会は終わった。ガーディナスが生還したことで変わった風向きは、人々を勇気づけ、希望を素直に受け入れる心の余裕を生み出した。



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