表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/42

第2話:真実のドレス



 朝、目覚めた俺はディアミスと共に王城前へと来ていた。途中、あれ? こいつ(ディアミス)錬金学校は大丈夫なのかと思って聞くと、今日は休みらしく特に問題はないようだった。


 道中、妹は沢山の人達から声を掛けられていた。妹もみんなも明るく良い表情で挨拶をしていた。それだけで、あぁこいつは知らない内にしっかりやってたんだなと思った。


 ま、俺が言うのもなんだけど、ディアミスは美少女だからな。俺よりも濃い栗色の髪をまとめ、緑の瞳をしたタレ目。ぱっとみ穏やかそうな印象を受ける。


 正直、昨日俺の髭を迷いなく剃って文句すら言わなかったのはこいつお人好し過ぎてヤバイんじゃないの? と思った。俺が言うのもアレだけど、ちょっと不安になった。


「あれ? ディアちゃん! こんなとこに来るなんて珍しいね。というかそのイケメン……誰? まさか彼氏!?」


「ディアちゃん……だと? ──お前いつもののウザ煩い兵士の野郎じゃねーか!」


「は!? その声はまさか! お前ムーダイルかよ!? イケメンのくせになんであんな汚いカッコしてたんだよ!! 俺がその顔面持ってたら毎日ちゃんと整えて女の子ナンパしまくりやりまくりだったわァッ!! 貴様許せん! いらないならその顔面は俺が貰い受ける!!死ねェッ!!」


「戯けがぁッ!! 俺だってホントはエッチなことしたいわぁッ!! 故あってできないだけで、今日も寝起きの俺の息子は超絶元気だったわ!!」


「あのさぁ?」


「「え?」」


 恐ろしく冷たい声が響く。空間からピシピシと音がなるかと錯覚するほどに圧がディアミスから発せられていた。俺とウザ煩い兵士は見つめ合い、言葉を交わさずも同調した。もう大人しくしていようと。



──────


 王城の門をくぐるとウザ煩い兵士に床に描かれた魔法陣の元へと案内される。そうして魔法陣の上に立つと俺たち3人は王のいる謁見の間へと瞬間移動する。


 謁見の間は昔とは大きく印象が変わっていた。昔は豪華絢爛といった感じだったけど今は品がありつつも気取らない、シンプルなものだった。


「やっと来たかムーダイルよ」


 ──ビクゥッ!! まだ距離がある段階でネルスタシアに声を掛けられたために覚悟ができていなかった俺の体は情けなく跳ねてしまう。ちょっと歩みを早めて一応膝をついて挨拶しようと──


「──あーそういうのはいいよ。わたしとお前の仲だろうに、そうビビったり他人行儀にされると傷つくのだけど?」


 ネルスタシアは玉座に座りながら無邪気な笑みを浮かべて俺にそう言った。こいつ俺よりも歳下のはずなんだけど貫禄と見た目が綺麗系なせいで俺よりもかなり歳上に見える。赤い髪の長髪で、大部分はストレートなのだが、一部跳ねるような癖毛がある。グレーの瞳は狼のようだ。胸もバインバインだしケツもでかいからよく見ると圧があって、強そうな印象だ。


 なんだけど……なんか今日はやたら可愛い系の、フリフリした全然似合ってないドレスを着ていた。実際若いんだけど、なぜか無理して若作りするババアみたいで俺はちょっとニヤついてしまった。


「うん……? ディアミスもよくこいつを連れてきてくれたな。礼を言うぞ」


「そんな、お礼なんて……むしろもっと強く言って、もっと早くに連れて来るべきでした。すみません」


 やめろぉ!! 若作りムチムチババア(実際は若いが)に対してそんな糞真面目な対応するとギャップで笑けてしまうだろうがァ!! っく、ふ、ふふふ、ククククク──


「──おい、むーちゃ、うおっほん! ムーダイルよ。お前、さっきからなにを笑っているんだ?」


「あややっ!?? なんでも!? なんでもないぞ!! 特に何も、そう! 意味はないんだ!!!」


 ヤバイぃぃっーーー!! 真実が露見したら殺されてしまうーーー!! こいつは遊び感覚でガキの頃から俺を酷い目に合わせてたんだ。もし大人になったこいつを激怒させたら本気で死ぬ!! ううう……汗がドバドバ出てしまう。


 昔コロシアムごっこと称して野犬の群れごと土魔法で生成したドームに閉じ込められた時はガチで死ぬかと思った。これの大人版、はい、間違いなく死にますね!


「クックック、陛下! 不肖ながらこのテツヤめに考えがございます! 真実の指輪をムーダイル殿に使い疑念を晴らすべきかと。ゼーッたいこのものは不遜な考えを持っているに違いありません!!」


「テツヤァあああ!!!! 貴様ァ!!! 余計なことを言うんじゃねぇ!!」


 したり顔で俺を陥れようと笑うテツヤ、というかこのウザ煩いゴミカス野郎はテツヤって名前だったのか。もう二ヶ月ぐらい毎日玄関の扉越しに会っていたというのにまるで知らなかったぞ……素顔も初めて見た。普段はヘルメットしてるからな。くせっけのある黒髪のフツメン、イケメンである俺とは確かに格差があるが、いうほどコンプレックスを募らせるほどの醜い顔ではない気がする。


「ほらほら! こんなに必死に隠そうとするなんて絶対なんかありますよォ!! ふうっふうぅ~!! くキッキッキッ!!」


 こいつは殺さないとダメだぁあああああ!!! え!? ちょ、ネルスタシアちゃん!?なに「それもそうである」みたいな表情で頷いてるの!? あわ、あわわわわ、や、やめ──ネルスタシアが指輪をはめた手を俺に向けるとその指輪に力を込めた。


「王の力にて命ずる。真実を話せ、ムーダイルよ。お前何を笑っていたのだ? 何か面白い遊びでも思いついたのか?」


 は? 面白い遊び? これから面白い遊びでお前を亡き者にしてやんよ的な死刑宣告かな?


「違います。ネルスタシアは体もムチムチしてるし顔もなんていうか綺麗系、そう、セクシーな女教師的な、年増感のある顔付き、それでいて王としての貫禄もあって、綺麗なババアのような印象なんですね? 本当は俺よりも歳下なのに不思議だよな。


 だけど今日はなんかフリフリの可愛い、全然似合ってないドレスを着ていたものだから、なんだか若作りしてるババアみたいだなぁって思わずおかしく思ってしまったんです。


 それだけならまだ耐えられたんだけど、その状態でディアミスが糞真面目な対応をするもんだからシュール過ぎて笑いを堪えることが出来ませんでした! 誠に申し訳ございませんでしたぁっ!!」


 あ、あああああ!? 本当のこと言っちゃってるぅーー?? 王の力とか真実の指輪とかガチの話だったの!?


「──言い過ぎィぃ! そこまで詳細に話す奴があるかァっ!! こんなん進言した僕まで殺されちまうじゃねぇかムーダイルぅ!!! 貴様許さん! 僕を巻き込みやがってぇ! おい! 気配を消して存在しないのを装っている大臣供! お前らも同罪だからなあ!見たぞ、お前らもムーダイルの真実を聞いて笑みを浮かべたのを!!」


 あっガチだ、気づかなかったけど謁見の間の両脇に大臣達おるし涙目で笑ってるわ……ん?


 なんか、地面、いや空間そのものが揺れてね? 俺は恐る恐る顔を上げネルスタシアを見る。何も見えない。なんなんだこれは、闇のオーラで覆い尽くされてなんも見えない!あ、やっぱ俺は死んじゃうんだ……


「ごろすっぅっうっっ!!」


 そう言ってネルスタシアは玉座から動き出したのだった。



──────


「お前ら最低だぞ!! 誰だよムーダイルは可愛い系の服装が好きなことは調査済みですとか言ってた大臣は、お前か? それともお前なのか!? ったく、国政に影響がでなければぶっ殺せたものを!!」


 謁見の間は顔面ボコボコの男達で散らかっていた。俺もボコボコに殴られたが、大したダメージはない。頑丈なことだけが俺の勇者として唯一の取り柄だ。ちなみに最もボコボコにされているのはテツヤだ。おそらく最悪死んでも問題のない重要度の低い存在なのだろう……というかこいつ謁見の間に入れるってことは結構いい役職なのか?


「あのー、ネルスタシア様? なんで実際に不遜な考えを持っていたムーダイルよりも俺の方がボコボコなんですかぁ?」


「ムーダイルはわたしのことを一応綺麗と褒めていた。これによりかなり減刑がなされた」


 そう言って血まみれの両手で顔を包み嬉しそうな笑みを浮かべるネルスタシア、10人以上の人間の顔面を血まみれのボコボコにしながら嬉しそうな笑みを浮かべるなど正気の沙汰ではない。こいつは暴力による快楽を貪る悪魔だ。


「さて、くだらない話は終わりだ。本題に入るぞ?」


「そう言えば本題に入ってなかった……」


 あまりに生命力を削られた俺はすでに大事な話し合いが終わったあとのような気がしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ