第21話:ビリビリサボテン
暗黒街でのことに一段落がつき、俺とディア、テツヤで再び旅を再開した。そして当初の予定通り、王都から一番近い、クルトンという街へやってきた。なんと暗黒街から馬車で2時間程度の距離しかない。しかしそれでも景色はガラリと変わる。クルトンの周辺は荒野が広がっている。他の方角は森や草原があるらしいのだが、この地域は基本乾燥しているみたいだ。
来る途中、大きなサボテンをよく見かけた。不思議なサボテンでなんと鉄の鎧を纏っているかの如く、金属でコーティングされている。精霊の目で見ると、鉄と水、土、風、火と5属性の魔力が宿っているのが確認できた。こんなに複数の属性を元々持った存在は、このサボテン以外に見たことがない。俺視点ではかなり強いというか、かなり高度な生命体なんじゃないかと思ってしまう。
あまりに気になるので一度馬車を止めてもらい、観察してみた。そうなると予定外の時間が増え、乾燥地帯では馬に必要な水の量も増えてしまう。ディアは御者のおじさんに迷惑料として乗車料を上乗せした。サボテンは驚くことに針が毛のように沢山生えている場所から電気を発生させていた。御者のおじさんにサボテンの名前を聞いてみると、鎧雷サボテンというまんまなネーミングが返ってきた。俺はいくつかのサボテンを収穫し、転移ゲートを使って倉庫に保管した。
ま、そんな寄り道があったので2時間半でクルトンへとやってきた。乾燥した景色とは裏腹にクルトンは水が豊かだった。王都の地底異海から滲み出る地下水がクルトンのちょうど下のあたりの地盤から湧き出ているらしい。他にもいくつか地下水が出るスポットはあるのだが、他は濃い塩分を含んだ海水のような水がでるものだけで、水の量も少なく、使い物になるのはあまりないそうだ。
塩分を含んだ水のせいで普通の植物は育たず、耐性を持った植物しかこのあたりには生えない。あの鎧雷サボテンもその一つで、他にはヤシのような木や物凄いチビデブな木、別種のサボテンしか生えていない。
さらに困ったことに、塩分が結晶化して岩塩がとれる地区では、輝く岩塩を狙ってドラゴンがやってくることもあるらしく、中々に難儀な土地だった。だが、そんな場所に人がわざわざ住むにはやはり理由がある。クルトン周辺のこの荒野からは、雷電石という非常に高価な石が採取できる。
雷電石は変質した岩塩だ。岩塩に鎧雷サボテンから放たれる電撃が当たると、雷電石に変質する。あのサボテンが高級な石を生み出しているのか……やっぱあれ実は高度な生命体なんじゃ……? 今まで見かけたやつには知性があるやつを見かけなかったけど、上位の精霊化してるやつがいてもおかしくないんじゃないか?
「やっぱこのサボテンすごくね? 俺にはこのサボテンがヒト族よりも遥かに高度な生命体にしかみえねぇ……切り取って保管しちゃったけど、バチ当たらないかな?」
「はは! サボテンの祟りってか? 朝目覚めると~私はサボテンになっていましたぁ~なんてな! あっははは! うけるなそれ! お前がサボテンになったら僕がちゃんと王城に運んで世話してやるから、安心してサボテンになっていいぞ!」
「ひぃ! まさか世話ってお前……塩分含んだ水の方がいいんだよな? とか言ってションベンを水代わりにするんじゃねーぞ!? ちゃんと、高級な塩を水に混ぜたのをやれよ!?」
と、テツヤと馬鹿な会話をしていた、その時だった。
──バゴォオオオオオオオオン!!
「サボテええええええええン!!!???」
生命の危機を感じるレベルの爆音が響く。俺はタイミング的にサボテンの復讐がついに始まったのかと思ったが、そうじゃなかった。それはもっとヤバイものだった。空に穴があき、そこから大地が降ってきた。クルトンからほんの少し離れたところに落ちたそれは街一つ分ぐらいの大きさだった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
今度はバカでかい唸り声? が響いた。声の衝撃波で風が巻き起こる。もう街のみんなはパニックだ。俺もテツヤもディアミスも事態が飲み込めない。唸り声は空から降ってきた大地の方から聞こえた。それは間違いない。異常事態が起きているのは間違いなく、この街の兵士達に対応できるとは思えなかった。俺達は転移ゲートを使って王城へ報告しに戻ったのだった。
謎の大地の調査、危険な調査になることが予想されたため、エリート兵を招集して調査隊が結成された。さらに戦える錬金術師代表としてディアミスも調査隊に参加することに。俺も興味があったのでついていく。まぁ俺は丈夫なので、そうそう死ぬことはないだろうし、他に戦力のあるやつが沢山いるなら大丈夫だろう。そうなると当然テツヤもついてくる。
俺達は転移ゲートを使えるので他の調査隊よりも先に様子見レベルで調査することになった。他の調査隊員達は馬車で来る予定なので合流は半日は後になるだろう。俺達はゲートでクルトンに戻り、市長に王都からの指令書を手渡した。住民を不用意に落下した大地に近づけないことや、調査隊がいくのでそのバックアップを頼むという命令だった。それから俺達は馬車を使って落下した謎の大地の麓? までやってきた。バカでかい山みたいだ。
この大地は魔力エネルギーの膜で覆われていて、遠くから見るだけじゃ分からなかったが、内部に高位の精霊がうじゃうじゃいるのが、俺のもう一つの視点を通して分かった。
「あ、ありえねぇ……こんな高位の精霊がうじゃうじゃいるなんて……まるで神話や伝説に出てくる精霊神界だな」
「精霊神界? でも空に穴があいて落ちて来て、私達にも見えるレベルの高濃度魔力の膜で覆われてることを考えると、もしかしたら本当にそうかもね」
「えぇ!? 精霊神界って常人が入ったら生きて帰ってこれないとか、気が狂ってしまうとか言われてなかった!? 僕、調査したくなくなってきたなぁ~って」
テツヤが尻込みする中、俺は高濃度魔力の膜を突き破って内側に入ってみた。
「うをおおおおおい!! 大丈夫なのかよ! ムーダイルぅ!」
大声をあげる。テツヤだが、俺は問題ない。だが、これはちょっとよくないかもな。俺は一度外に出て、ディアミス達に向き直る。
「これは……そのまま入ったら確かに普通の人は死んじゃうかもしれないわ。俺は大丈夫だけど、加護はしっかり剥がれたからな。魔法に対する加護の防御能力がほぼ0になるのは間違いない」
「じゃあやっぱ本当に精霊神界ぽいね。加護が消えたってことは、中にいる上位精霊のいたずらレベルの魔法で死ぬかもしれない。毒や呪いもそのまま受けるだろうから、それらを肉体的なタフさで耐えられるレベルじゃなきゃ話にならない。
おそらく後から来る調査隊メンバーは素の状態ではここに入れないね。ネルちゃんの割とガチめの攻撃を受けても生きていたテツヤさんと勇者である私、異常に丈夫なお兄ちゃんなら素の状態でも問題ないかもしれないけどね」
意外だな。テツヤが他の近衛兵やエリート兵より強いってことだろ? いつもヘタれてるイメージあるからな……意外だ。
「テツヤもいけるのか……フルブラッドの戦いの時、攻撃に参加してなかったから大したことないと思ってたわ」
「はぁ……これだから素人は困るよ。ディアちゃんやネルスタシア様が動いてるなら、下手に僕が動けば邪魔になって火力が下がるんだよ。この二人はマジで別格なの、だから僕はおとなしく市民達の盾になるような位置取りでいつでも防御できるように待機してたんだよ。お前にはただ突っ立ってるように見えたかもしれないけどな」
「え? そうなの?」
「そうだよ。逆にテツヤさんが市民をいつでもカバーできるようにしていたおかげで私とネルちゃんは思いっきり動けたの。それとお兄ちゃんはネルちゃんの攻撃力を甘く見てるよ。雰囲気で軽く考えてるかもしれないけど、王城で大臣達と一緒にお兄ちゃんとテツヤさんがネルちゃんにボコボコにされてた時あったでしょ?
あの時、丈夫であるはずのお兄ちゃんもダメージを受けてた。普通の人間なら軽く何十人か死んでる威力だし、それと同程度の力でテツヤさんは殴られてた。お兄ちゃんよりテツヤさんの方がダメージを受けてたけど、それでもかなりの防御力だよ。他の大臣達はかなり加減されてたけどね」
「え? そんな殺す気でネルスタシア殴って来てたの?」
「殺す気なんてあるわけないでしょ? 相手の防御力に合わせて死なない程度に加減してる。戦闘力の高い人は、相手の大雑把な強さが分かるからね。その一環で相手の防御力がどの程度か分かる。
でも、実はお兄ちゃんの防御力は私でもよく分からないんだよね。私が感じてるお兄ちゃんの防御力よりも、実際はかなり硬いように見える。もしかしたら正確な防御力が分からないからテツヤさんを基準にやったのかもね。少なくともテツヤさんよりは硬いだろうから」
ほえ~、やっぱネルスタシアちょっと怖いね。それとも戦闘力高いやつらの感覚が狂ってるだけなのか? テツヤもディアミスも、まぁ当然だろみたいな雰囲気だ。こいつら武人の世界だと相手の戦闘力依存で制裁の力加減を変えるのは当然なのかな? 俺はかなり小さい頃に戦いの道を諦めて、まともにそういった修行をしたことがないから分からないのかもしれない。
「でも実際どうすんの? 僕とムーダイル、ディアちゃんだけで調査するのもそれはそれで危険じゃない? せめて戦闘しないでも、連絡要員や記録班ぐらいは調査隊メンバーにやってもらわないと、広範囲の探索なんて無理だと思うよ? こんな高濃度の魔力がある場所じゃ、探知魔法を使ったマッピングなんて無理だろうから、手描きでマッピングすることになると思う」
「じゃあ、とりあえず魔力を遮断する鎧か服を着込めばいいんじゃねーか? どのみちまともに魔法使えないんなら、デメリットもないだろ。魔断鉱を使えば魔力を遮断するのは簡単だ」
「確かにそれがよさそうだね。でもお兄ちゃん、魔断鉱の鎧を大量に用意するってできるの? 時間もかかるし、素材となる魔断鉱もどれだけ備蓄があるのか……」
「いや時間はかからねぇよ。それに俺がやるよりディアがやった方が早いぞ。魔断鉱は特殊な加工なしで機能するから。お前が音魔法と水魔法で魔断鉱を粉砕して粉末状に、ノリを塗った鎧なり服に満遍なくふりかければそれだけでいいはず。
量も表面に振りかけられる量があればいいだけだ。まぁ問題としては、鎧を密閉気味に改造しないと効果なくて、大きめの穴が空いたらさっさと脱出しないとダメなことだな。穴あいたらただの鎧になっちまう」
「それならいけそうだね! じゃあ報告しつつ魔断鉱の在庫を確認してこよっか」
それからゲートで城へ戻り、報告と魔断鉱の入手を完了した。ディアに魔断鉱を予め粉末状に加工してもらい、密閉性の高い袋につめた。あとはノリも調達し、現地ですぐに改造できるように準備を整えた。
しかしまだ合流に時間は掛かるので、俺はその時間を使って余った魔断鉱を使用した魔断鉱製の胸当てとガントレットを俺達三人用に作成した。他の調査隊メンバー用のとは違って、鉱石そのものを鍛えて作ったプレート製品だ。
元々耐えられる性能があるなら。限定的な部位を保護する魔断鉱防具を使った方がメリットがあるからだ。まず、その防具を使用しての魔法に対する防御が可能になる。さらに、魔断鉱を使った部位の近くでは高濃度魔力の魔力濃度が低下するため、その空間から魔法を使うこともできる。通常空間では逆に魔法が発動できなくなるだろうがな。
専用防具を作成し終わった頃、丁度合流可能時間になったので。ゲートでクルトンに戻った。調査隊メンバーに事情を説明し、その日のうちに20人のメンバーすべての鎧を加工しようと思ったのだが……ここで問題が発生した。
俺達は魔物に出くわさなかったが、クルトン周辺は普通に魔物が出る。普通の鎧もないと移動途中に魔物に襲われ時に危険だし、常にディアやテツヤが護衛をすることは不可能。なので調査隊のリーダーと対策を話し合った結果、10人の鎧を加工し、残りの10人は通常の鎧での移動時の護衛役とするということになった。
それだと人数が当初の予定よりも少なくなるので、補充要員を王都へ申請するそうだ。すでに日が暮れたのもあって、調査は翌日からということになった。
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