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第20話:第一の宝剣



 クランゼルグが正気を取り戻してからすぐ、毒で倒れてた人々は元に戻った。元に戻ったどころか元から怪我をしてたのが治ったり、肩こりや腰痛が治っている人たちが大量にいた。でもデュランダル師匠の頭髪は治っていなかった。


「わたし達が倒れている間に一体何があったんだ? 事態が丸く治まったのは分かるが」


「ああ、俺とドランゼルグ、暗黒街のやつらでクランゼルグを正気に戻したんだよ」


 俺は詳しい話をネルスタシアやディアミス、テツヤに話してやった。


「なるほどな。ネズミ達がお前に実体化した場所があることを教えられたのは、ネズミ達もクランゼルグとつながりがあったからだろうな。だがおそらく、クランゼルグはお前に自分を殺させるために実体化した場所を教えたんじゃないか?」


「え? そうなのかクランゼルグ!?」


「えぇはい、肉とエネルギー体の境界があったでしょう? あれはおそらく皆さんがニオイ消しの対策の時に使った技術、不完全魔力と似たような状態だと思ったんです。なのであの境界を叩いて暴走させれば、あの体の崩壊を狙えると思ったんです。少なくともまともなカタチは保てなくなったはずです」


「まぁ不完全魔力っぽいなっていうか、実際そうだったのは見てたから分かるけどさ、もっといい方法思いついたからな。お前の光属性になってた部分、その境界部分にあった不完全魔力をまとわせて、闇属性で構成された体内を移動させながら通った場所を光属性に変換できるって気づいたんだ。だからクランゼルグもそれを期待してたのかなって」


「そんなこと分かるわけないでしょ!!! もう滅茶苦茶だ……でも、本当にありがとうございました。返しきれない恩が出来てしまいましたね」


「おうよ! ムーダイル、オメェこそが真の勇者だぜ! 誰がなんと言おうと世界最高の勇者だ!」


 クランゼルグはともかく、ドランゼルグに掌返しからのヨイショをされるとなんか変な感じだ。


「じゃあお兄ちゃんが大怪我してたけど治っちゃったのとか、色んな人の体の不調が治ったのってクランゼルグさんの影響だったりする? ようはお兄ちゃん、今までに恨みを持って死んで、悪霊と化した数え切れない規模のネズミ達の先祖霊をまるごと光属性に変換しちゃったんでしょ? これってつまり、存在的に言えば実体も持つ光の大精霊になったのと同じだし。それぐらいできても不思議はないかなって」


「はい、あれは私の影響ですね。まぁやったというよりは光の大精霊として再誕した時の光のエネルギーの爆発の余波ですね。ドランゼルグを昔治した時のことを思い出していた時だったから、回復系能力が働いたのかもしれません。


 ああ、そうそう、完全な解毒能力を手に入れていた状態だったので多分爆発の余波で暗黒街というか、この地域全体の毒を分解しちゃってると思います。武器の毒や一部クスリがダメになっちゃってると思います。その、申し訳ない」


「謝ることはない。むしろその程度の被害で後顧の憂いが絶たれたと思えば最高のサプライズとも言える。フルブラッドが言っていたトーリスとやらの目覚めも防がれたわけだからな。しかし色々と謎が残るな……わたし達がまるで知らない情報をフルブラッドは持っていた。おそらくだが、この策を考えたのはフルブラッドではないだろうな。やつに知恵を授けたものがいるはずだ。もちろん、奴が考えた部分もあるだろうが」


「ああ、それなら本人に聞けばいいんじゃないですか? 今の私はなんてったって光の大精霊ですからね。下級精霊程度の力しかない、吹けば飛ぶような存在、完全支配が可能でしょうから」


「おい、光の大精霊。それやってること闇だぞ?」


 クランゼルグにツッコミを入れるものの、実際に試してもらった。光とは時に無慈悲なものなんだ。


『タスラン共和国のゾール財務大将、彼が聖者の贄のリーダー……だと思いますねぇ。リーダーじゃなくても、かなり上位の存在であることは間違いないと思いますねぇ。ワタシは彼から知恵をもらいましたから。ちなみに彼は主神様を崇める司祭でもありますねぇ。ワタシもなぜあんなことが分かるのか謎ですが、なんとなく距離や時間を無視してるような印象を受けます。先回りして色々釘を刺されることが多くて正直苦手でしたねぇ』


「タスラン共和国……北方の軍事国家だったか。大昔に人同士の争いで貴族が皆殺しにあってできた国だな。その時に反貴族勢力を世界中から集めたせいで、やたら好戦的な人間が多いと聞く。行き過ぎた実力主義の結果自殺率が世界で一番高いとか、正直良くない話ばかり聞く国だ」


 ネルスタシアの説明の感じだと、タスラン共和国とやらは、正直あまり関わりたくない国っぽいな。んでゾール財務大将っていうのはあれか……その軍事国家での財務、金関係のトップってことかな?


「なぁ人同士での戦争なんて長らく起こってないのに軍事国家なんて成立するのか?」


「別に軍事力は対魔物、対魔王で有効だからな。あの国は他の軍事力の低い国の用心棒をしたり、傭兵として兵を送り込んで金を稼いでいるんだよ。なるほどな、対魔物での戦闘能力の高い兵士の需要は世界中で高いし、実際活用されているからな。聖者の贄の行動範囲が広く、資金力があるのも合点がいった。


 だが、それなら資金面はともかくとして、戦闘力の高い兵士を使えるはず……だがこの国に来た戦闘力の高いものはフルブラッドだけだった。もしや、聖者の贄はタスラン国内で認められているわけではないということか?


 ルートや伝手、自由にできる資金だけを活用しているとしたらどうだ? 軍事関係の大将じゃないから、兵隊に関する権限はほとんどないのかもしれんな。ま、ここで予測に予測を重ねても仕方がない。今回得た情報をフォースリアと情報共有しつつ、タスラン共和国のことを探ってもらうか」



──────



 夜、クランゼルグの光の影響で肉体的な疲れはほとんどないが、精神的に疲れたこともあって、今日は自宅で休むことにした。今日は色々と思うことがあった。毒の触手にやられて全身痛かったもそうだけど、よくよく考えると、あの触手が肉がないものでよかったなと。もし物理的な攻撃だったら攻撃を耐えられたとしても、ふっ飛ばされてまともに歩くことができなかった。痛かったが、物理的な攻撃じゃないからこそどうにかできたんだ。


 大怪我して、死ぬかもしれないと思った。滅茶苦茶怖かった。でも、それよりも怖いことがあったんだ。ディアやネルスタシアが死ぬことだ。それだけは絶対に認められなくて、前に突き進むしかなかった。大怪我で不安になって、俺はディアを頼ろうとした。いつも俺が不安になっても助けてくれたから、自然と頼ろうとしてしまった。あの時、ディアはあの場所にいなくて、頼ることだってできないのに……


 なんだか、妹ってよりはお母さんみたいな感じだな。そんなことを思う時点でどうかしてると自分でも思うけど……生きてて、生きててよかった……また会えてよかった……


「お、お兄ちゃん? 泣いてるの?」


 俺は無意識のうちに妹の寝室に来てしまっていた。


「生きててよかったって思って……会えなくなっちゃったら嫌だったから」


「お兄ちゃん……じゃあ、久しぶりに一緒に寝よっか?」


「うん」


 俺はディアのベッドに潜り込み、横になる。


 いやいやいや「うん」じゃねーだろ俺!! 別に兄妹だしやらしいことをするわけでもないから、一緒に隣で寝ること自体は大した問題じゃない。もしかしたら大した問題かもしれないが……問題はそこじゃなくて、あまりにガキっぽいところだ。


 ディアが俺を抱き寄せる。そうされるとさっきまで不安でいっぱいだった俺の心は、安心で満たされ、すぐに眠ってしまった。



──────



 翌日、街に出ると。クランゼルグとネズミ狩り事件のことが正式に公表されていた。その発表ではクランゼルグには罪がないこと、原因は先王とフルブラッドにあることが強調されていた。そして光の大精霊クランゼルグとアステルギアは共に歩んでいくという未来が示されていた。


 それから俺は暗黒街、ドラクラゼルグのアジトへと向かった。


「なぁクランゼルグ。お前は力をもった光の大精霊になったわけだ。んでドランゼルグ、暗黒街に騎士団が出来て、お前はそこの副団長になるんだってな? そいつを記念つーか、なんつーか、暗黒騎士団の副団長にはその立場に相応しい武器が必要だと思ってな」


「相応しい武器? マジ!? 武器くれんのカ!?」


「ただの武器じゃない! クランゼルグとの絆を象徴する魔法の武器、宝剣を作る! 宝剣の作製は元々ネルスタシアにお願いされてたことでもあるしな! 俺と契約の宝剣を作るのが嫌とは言わないよな? クランゼルグ」


「ええ、もちろんです! あなたには返しきれない恩があるんですから!」


「よし! んじゃまずはこいつを……この依り代の核に契約の印を結べ」


 俺は宝剣の依代の核として使う聖黒銀を渡す。聖黒銀は光属性が大量に宿った黒銀だ。黒銀は弱い毒を浄化する能力を持つ銀で、聖黒銀ともなると、強めの毒や呪いの解呪も可能になる。色もネズミっぽいしこいつらには丁度いいだろ。


 聖黒銀を受け取ったクランゼルグはなぜか女モードに変形していた。そしてその姿のまま、聖黒銀に口づけをし、魔法の印を刻み込んだ。しかもなんかちょっと、エッチな感じでちゅっとしてるし……謎。


「なぁ? その、何? どういうノリ?」


「いや実は、ムーダイルさんが私の魔力を変換する時に行ったのは闇属性を光属性にすることだけじゃないんですよ」


「は?」


「実は本体がオスからメスになってて……しかも、ヒト族のような年中発情期になる機能まで追加されて、しかも、魂に……あなたに反応する因子を刻み込まれてしまったんです」


「はぁあああああああああ!?????? いやいやなんでなんでなんで!?」


「おそらく、あなたが私を鍛える時に見た理想に、普段我慢している性欲が入り込んでしまったんでしょう。なので、自分の意志とは関係なく、本能があなたを求めてしまうんです。元オスなんで、自分でも気持ち悪さがあるんですが。魂に刻み込まれた衝動に抗うことは難しく……まぁ混乱を避けるために普段はオスの姿でいようと思ってます」


「……あ、ああ……なんちゅー業の深いことをしちまったんだ俺は……」


「ほんとナ……オメェ、やっぱ世界最高の勇者でもヤベーわ……」


 俺は無意識に年中俺に対して発情してしまう、元オスのネズミの精神生命体を生み出してしまったらしい。契約後の聖黒銀を受け取り、俺は現実逃避をするようにアジトを出て、王城倉庫へと向かおうとする。


 と、したところでクランゼルグはわざとらしく倒れかかってきた。もちろん女の姿で。


「あう……」


 もたれ掛かった状態で上目遣いで俺を見つめるクランゼルグ。パイで俺の腕が挟まれている。なななななななな!?


「俺を誘惑するんじゃねええええええ!!」


 俺はキレた。


「私だって好きでこうしてるわけじゃないんですけどおおおお!?」


 クランゼルグもキレた。



──────


 こうしてなんやかんやあって、宝剣作成の旅、その一本目の宝剣が完成した。なんと最初の街を出ることもなく一本目が完成した。【宝剣ドランストラ】安直な名前だが、まぁいいだろ。文句を言われても元ネタは昔話の方だからって言えばいい。


 宝剣ドランストラの武器として形状は棒だ。能力はもちろんクランゼルグの能力に準規する。光の大精霊になったことによって回復系能力に特化しているが、クランゼルグの元の能力は耐性の付与、自身の能力を他者へ分け与えること。それにより、回復効果や強化効果、耐性効果を他者へ付与できるものとなった。


 傷がすぐ回復して毒や呪いに耐性を持つマッチョマンを大量生産することができる宝剣。強くね? 特に呪いや毒に対する耐性を与えつつ、さらに解呪や解毒が可能なのが有用だ。つまり毒や呪いを得意とする相手に対してほぼ無敵と言える。


 宝剣は本来、単純な武器としての丈夫さや攻撃能力は要求されないが、ドランゼルグがどうせ普通の武器みたいにぶんまわしまくるだろうということで、丈夫に、単純な武器としても強いようにした。


 完成したことをネルスタシアに報告すると、すぐにドランゼルグに渡してもいいということで、早速、アジトへと渡しに来た。


「どうよ。お前が乱暴にぶん回しまくっても多分メンテなしても10年ぐらいは持つぜ。ちゃんとメンテすれば数百年は持つだろうな」


 俺はドランゼルグに宝剣ドランストラを渡す。


「す、す……すげーーーって言いたかったんだけどよォ。ぶっちゃけただの棒じゃね?」


「実際ぶん回してみろよ」


 ドランゼルグが棒をぶん回す。するとおー、おーと馬鹿にしてたわりに感触に驚き、結構長い間振り回していた。ドランゼルグが振りますのに飽きたころに魔法の能力部分を説明してやった。ドランゼルグはあまり理解できないようだったが、実際宝剣を発動してみると、宝剣の力による能力上昇、知力の上昇によって理解することができたようだ。そしてブーストされている間に能力の全容を脳に叩き込んだ。


「ま、宝剣としての出来は申し分はねぇ。それでクランゼルグ、使用できる者の制限や条件はどの程度だ?」


「そうですね。やっぱりまず邪悪でないこと、仲間思いであること、弱いものを見捨てないこと。ここらへんが条件ですかね。条件としては緩いですが、勝手な理由で使われることは許しません。条件を満たしていても筋が通らないことはダメです」


「性格の分類としてはどうなるんだ? 一応ネルスタシアには7種類の性格分用意しろって言われたけど……う~ん、まぁ適当に【慈愛】ってことでいいか!」


 クランゼルグの求める条件をまとめると、この宝剣は国防のためだったら割と常時使えそうな感じだな。防衛に滅茶苦茶向いてるうえに性能ヤバイから。これ一本でかなりこの国の防衛力が上がったな。一本作ったところで、次に作る宝剣はどんなのを作ろうかとか、こういう精霊と契約できたら、どんな宝剣を作ろうとか、そんなワクワクと妄想をしながら帰路に着くのだった。


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