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第12話:古代の杖


「土属性魔力を持たせる。そんなことができるんですか? それはもちろん実用レベルの話ですよね? もの凄く時間や手間がかかったりとか、小規模にしか効果がないとか──」


「おいおい、あまり俺を舐めるなよクランゼルグ? 俺は一応、鍛冶のために属性魔力を装備にぶち込む方法を学んだり、実験したりしてたんだぜ? 俺は何も精霊的なものとの対話でしか属性付与をやってこなかったわけじゃない。その両方ができるから真の精霊鍛冶師なんだ。


 実を言うと土属性を土に持たせるなんて一番簡単だ。適当にあるそこらへんの貝殻を焼いて砕いて撒けばいい。農家のおっさんが土を肥えさせるためにやってたのを見て思いついたんだ。俺も実際試してやったことあるから間違いないぜ。


貝は相反する属性である水の中でも自身の土属性魔力を流出させず、保持し続ける力を持ってるから、その性質を利用するんだよ。つってもここらは海もないし川もないからドブや下水の貝、ぶっちゃけタニシとかになるかな。あとは王都のゴミ捨て場とか?」


「ねぇディアミスちゃん。こいつこんなこと言ってるけどそんなことで本当に土属性を持たせられると思う?」


 テツヤが訝しげな表情でディアミスに問う。


「ん~正直、専門外だからなんとも。錬金術は生成、合成に魔力を使ったものばかりだからこういうシンプルなものは……大昔に魔法を使ったアプローチに移行しちゃってるし……例えば現代の錬金術的な方法でいうなら貝を焼いて砕いて撒くとかじゃなくて、貝と土に水魔法を当てて貝の土属性を土に含ませる……とかになるのかな?


 錬金術は大体水魔法と音魔法ばっかり使うんだけど他の属性魔法は補助的に使うぐらいであんまし発展してないのが現実……他の属性では得意な分野の人が調べるだろうし、大体のことは音と水で調べられるからね」


「貝と土に水ぶっかけるのだって大概シンプルだろうがい! そうか、錬金術って水と音しか発展してないのか。じゃあ鉄と火、土の属性が発展してる鍛冶の世界とはあまり被らないんだな。ま、錬金術しか発展してないこの国じゃ、わからないのも無理はないか」


 俺的には役割分担できそうで良かったと思うけど、実際どうなんだろうな? 結局俺も錬金術にはまるで詳しくないから、雰囲気で言ってしまったが。


「いや、さっきの説明はあくまですごーくシンプルに、合わせて話しただけで、かなり高位の上級水魔法が必要になるんだよ? 実際にただの水をかけるだけじゃないんだからね!


 それに鍛冶が三属性に精通していたって、錬金術は連鎖術式という高度な技術がとても発達してるんで、あんまり調子に乗らないでください!」


「あれ? なんか怒ってる? 別に俺は鍛冶魔法のほうが得意属性が多くて凄いなんて一言もいってないぞ? 単に役割分担できそうでよかったなってだけで……」


 なんか妹が珍しく違和感のある感じでキレてる。いつもは俺がポカをやって怒られるパターンだけど今回はそこまでのことをしてない……と思う。


「あ! ご、ごめーんお兄ちゃん。その、学校でね、研究の関係で他国の鍛冶師と会ったりするんだけど。それがみーんな、尽く錬金術を馬鹿にするんだもん!


 ドルガンタルの石頭達は錬金術を実用性のないお遊びだとか、理想と心を失いし者とか酷いんだよ? そりゃ、錬金術師と鍛冶師は歴史上ずーーっといがみ合ってきたけど、ロクに知りもしないで馬鹿にするんだからホント嫌になっちゃう。


 それで……なんだかお兄ちゃんが鍛冶のことを語った後に、錬金術のこと言ったら、勝手に悪口言われてると思っちゃった……普段お兄ちゃんと鍛冶の話なんてしないから忘れてたけどお兄ちゃんも鍛冶師なんだよね。


 私の方こそ鍛冶師というものに偏見を持っちゃてたのかも。まぁその偏見は持ちたくて持ったものじゃなくて、ドルガンタルの屑どものせいで持っちゃったんですけどね」


 ディアミスは一度は落ち着きを取り戻したものの、結局、ビキ、ビキキキと音が出そうなぐらい思い出しギレをしていた。まぁ妹も錬金術学校をマスターしたぐらいだから当然錬金術が好き、というかプライドを持ってるよな。相手がドルガンタルの鍛冶師なら余計にそれは刺激されてきたんだろう。


 俺の鍛冶を学んだ母校があり、鍛冶師がもっとも力を持つ国、それがドルガンタルだ。在学中、先生、生徒どころか街の人々にまで錬金術を馬鹿にするやつが多かった。俺も錬金術が発展していて、鍛冶関係がカスなアステルギアの出身だったもんだから、かなり馬鹿にされた。アステルギアの人間はロマンがなく面白みがない、陰険国家から来たダークゴブリンと言われたりもした。まぁ全て実力で跳ね返してやったが。


「そうそうお兄ちゃん、この国には川や海がなくて近くにはドブや下水しかないって言ってたけど。何も貝がとれるのはそれらの場所だけじゃないよ? このアステルギアは川も海もない、にも関わらず水の魔法が重要である錬金術が発展している。それがなんでか、忘れてるんじゃない? この国の一大産業区域、地底異界ちていいかいを」


「そうか! 地底異海ちていいかい! この国は地下に異界化した水の世界があるんだったな。水資源を得るためや、水の世界の探索のために錬金術による調査技術が発達した……」


 そういやそうだった。地底異海と普段全く関わらないからか、この国の根幹に関わる存在である地底異海の存在を忘れていた。なんだっけ? アステルギアは地底異海がないとやっていけないとか聞いたことある気がするけど……


 正直それを忘れてるって俺やばくね? あれ? でもこの知識を知ったの最近な気がするんだよな。靄がかかってるみたいによく思い出せないけど……


「その通り! 地底異海にはいろんな水の生物が大量に住んでる。もちろん貝だって沢山いる。しかも真水のエリアも海水のエリアもあるから種類だって選び放題。なんなら私は錬金学校で研究員をやってたから地底異海の探索許可証と入り口への形態式転移陣も持ってる。ただ今回は貝をわざわざ取りに行く必要もないけどね。普通の貝で良いならどこかしらで貰えばいいもん」


「ん? じゃあ、王城から旅立つ時にもらったアレを使えばいいんじゃないか? ほらネルスタシア様からもらった王城倉庫につながってる転移ゲート。多分予算おりるから倉庫で貝殻を受け取って加工、そのままこっちに戻ってばら撒けばいい」


 テツヤの言う転移ゲートはネルスタシアから、旅の報告や本格的な鍛冶場が必要になったら活用しろともらったものだ。なんでも最新の技術を使って古代の魔道具を修復したものらしく、普通の転移魔法とは仕組みが違うとか。


 起動に必要な魔力が極端に少なく、ゲート間の行き来を何度でも可能、転移を妨害する魔法すら無効化し、管理者が許可を出したものしか通行できないという安全機能まである。とんでもなく高性能、国宝レベルだ。


「そうだな、じゃあゲートを使うか。じゃあドランゼルグ、クランゼルグ! お前らも来いよ。そのほうが話がスムーズに進む」


 小僧とクランゼルグが「ええ! 自分たちが王城になんて行っていいんでやんすか?」というようなことを言ってるが。こちらを信用して身の上話までしてくれたんだ。それぐらいは当然、それに万が一何かあってもネルスタシアとディアミスは強いから問題ないだろう。


 俺はポーチから八角形の棒、転移ゲートを取り出す。俺が棒を捻ると棒の先端から光が発せられた。その光を小僧とクランゼルグに当てる。それで通行許可を与えられる。捻りを元に戻し、今度は棒で地面を叩くすると地面に穴が空く。


 この穴の下はノータイムで王城倉庫だ。まじで入ってすぐに出口だから誰でも簡単に入り込めそうなもんなのにできないってんだから不思議だ。ちなみに、許可をもらってないやつが通ろうとすると弾かれるらしい、正確に言うと入りたくなさすぎて体が勝手に避けるんだと。


 俺、ディアミス、テツヤ、小僧、クランゼルグは転移ゲートの穴に入ってノータイムで王城へと到着した。俺は転移ゲートの棒を三回振る。こうするとゲートの穴は表向き閉じたように見えるがこれは待機状態と言えるようなもので、ゲートの出入り口の場所を維持できる。もう一度同じ要領で棒を振ると待機が解除される仕組みだ。


「あームーダイル、内扉の鍵を解除しないとだからお前が音魔法陣起動しろよ。その方が早いからな」


「その方が早い? まぁいいや。分かった俺がやっとく」


 テツヤに頼まれた音魔法陣の起動。これはこの王城倉庫が二重の鍵で施錠してあるため、移動するためにはその解錠を城の門番にやってもらう必要があるからだ。一応内側からも開けることは可能だが、予め渡された魔法の暗号を鍵に入れるというもので、一度使用すると鍵ごと取っ替える必要がある。そのため、緊急時以外は面倒でも音魔法陣で城内の連絡係を通さなきゃいけない。俺は倉庫の扉の横にある魔法陣の上に移動し──


「──えっと、魔力流すだけでいいんだっけか……お! つながったか? こちらはムーダイルだ。ディアミス、テツヤと共に一時的に帰還した。暗黒街の協力者二人も連れてる。城内を通りたいから鍵を開けて欲しい」


『了解しました。少々お待ちを、上に確認を取りますので……』


 係の者が確認するので待てと言うが、どれぐらい待てばいいんだろう。とか思っているとすぐに返事が来た。


『お、思ったよりも随分早い帰還だな。むーちゃ……うおっほん! ムーダイル。まさか旅立って数時間で帰って来るとは思ってなかった。協力者がいるという話だが詳細を教えてくれんか? お前達だけならすぐに通せたが、万が一もあるからな』


 なぜかネルスタシアが返事をしてきた。


「あれ? お前、こんなことの対応なんてして大丈夫なのか? 王としての仕事が忙しいんじゃ?」


『し、心配してくれてるのか!? ま、まぁ別にちょっと徹夜すればいいから問題あるまい。わたしのワガママの結果を部下に押し付けることはない。それにわたしが対応した方が早いし、元々暗黒街のことは最近警戒してたからな。嫌な予感もするし、素早く対応しておきたかったのさ。まぁ、わたしのことはいいから早く詳細を話してくれるか?』


 徹夜をすればいいって……普通に心配だな? 明らかに徹夜に慣れてる雰囲気だし……もしかして今まで俺がビビってたせいで徹夜が増えてたりしたんだろうか? だとしたら悪いことしちまったな……と思いながら、俺は暗黒街でのこと、敵を見つけるために大量の貝殻が必要なことをネルスタシアに話した。


『ふむ、では貝殻は用意させよう。解錠するから諸々の準備が整うまでの間、暗黒街についての対策会議をしようか。とりあえず会議室に協力と一緒に来てくれ』


 通信が終わり、貝殻や会議のことをみんなに伝えると、しばらくして倉庫の鍵は解錠された。



──────


 俺たちが会議室に到着するとそこにはデュランダル師匠とネルスタシアの二人がいた。他に人はおらず、警備の兵士も会議室の扉前までだ。


「来たかムーダイル。お前たちが暗黒街の自警団の者だな? わたしがネルスタシア、アステルギア王国の国王だ。先に言っておくが、そうかしこまる必要はない。人払いもしているから目くじらを立てる人間もいない。さ、会議を始めるぞ」


「わ、わかりましタッ! おい、クランゼルグ! 本物のネルスタシア様だぞ……スゲー」


「こちらはドランゼルグ、そして私はクランゼルグという者です。今日はよろしくお願いします!」


 みな会議室の席に座る。バカでかい会議室のテーブルはこの人数ではかなり席が余る。人払いをしたってことはやっぱりネズミ関連のことも深く取り扱うつもりってことか?


「まず最初に、わたしはクランゼルグが本当はネズミであること、そしてクランゼルグの与えた加護によって暗黒街の人間が生きながらえたということをムーダイルから聞いている。それについてのわたしの考えを述べておく。


 実を言うとクランゼルグが普通の人間ではないことは最初からわかっていたんだ。先王が暗黒街に撒いた殺鼠剤の毒が未だに消えていないこと、消えていないにも関わらず住民に健康被害がないこと、それらを踏まえて暗黒街を守護している何者かがいると予測していた。


 調査はそこのデュランダルが行った。まぁ調べれば変わった存在がいることぐらいはすぐわかる。ネズミたちの行動経路を記録し続ければ、最終的にどこに辿り着くかでな。


 それでデュランダルの神眼を、あー神眼というのは大魔法使いが使える能力でな、見た存在が善い存在か悪しき存在か分かるというものだ。それで神眼ではクランゼルグは善なる者、しかし悪しきにも変じるということだったから。とりあえず様子見としたんだ。


 暗黒街の人間を私に代わって守ってくれているわけだし、邪悪でもない、しかし信用しきるのも危険、最低限の監視を置き調査も続けるという判断を下した。そのスタンスは今も変わっていない。しかし、ネズミ狩り……正確に言えばネズミ狩りを行う者の背後にいる組織、その対策は早急に行わねばならんと思っている。だから本格的な協力を頼みたい」


 ネルスタシアはどうやら大雑把にだが最初から結構深くまで把握していたらしい。テツヤは知らされていないことに少しショックを受けているようだった。でもやっぱりデュランダル師匠は凄いな。大魔法使いでないと使えない神眼……国政に関わるような判断の材料にできる力。もしかして各国にもそれぞれ大魔法使いがいたりするのかな? だとすれば童貞を50まで守れば大出世できる可能性が……


「ああ、ムーダイルくん。神眼はただ大魔法使いになるだけでは使えないよ。己の技を磨き、さらには大魔道霊様に哀れだと思われて初めて使えるようになるものでね。この力もわたくしの頭髪がまだ一握りほどはあった頃、事故でとある薬品を頭からかぶってしまったことがありまして。


 ……頭髪が全滅、さらには後遺症で絶対に髪が生えなくなったと診断された夜の帰り道、ショックから足を踏み外しドブ川に落ち泣いていたところ、大魔道霊様がお前は流石に可哀想だし、今まで真面目に頑張ったからこれで元気を出せと頂いたものです。ですので天運、巡り合わせ次第、確実にもらえると思っては痛い目を見るかもしれません」


 俺の心を読み、助言をしてくれたデュランダル師匠。優しい方だ……!


「なんと! 神眼の習得にはそんな条件が……でもやっぱり師匠は流石ですね。俺が俗な考えを抱けば、すぐにそれを見抜かれたのだから。そして、そんな俺に魔法使いとなるためには真面目に生きることが大切であるということまで教えてくれた……──あれ? 師匠、少し思いついたことが……その、神眼を使えば敵が誰か見極められるのではないですか?」


「ふむ、確かに一見すると神眼でどうにかできるように見える。ですがそれは不可能です。ネズミ狩り達はなんらかの方法で洗脳もしくは直接肉体を操作されているからです。洗脳ならばそもそも自分が邪悪なことをしようという意思もなければ自覚もない。肉体の操作も同じこと、本人の心は関係ありませんから。


 さらに言えば、正気だったとしても本心から正義のために邪悪な手段を行うのだと思っていれば、邪悪であるとは言い切れないからです。この力の正邪の判定は人を思う心があるかどうか? それによって判断しています。


 自分のことしか考えていない者は悪、人のために、人に尽くそうという考えは善というようになっている。正義に酔いしれるために悪行を行うのなら、それは悪だと判定されるでしょう。ですが本心から、これが人のためであると思っていればそうはならないんです。


 神眼には正邪を見極めるというだけでなくその者が持つ憎しみの大きさも見ることができますが、やはり憎しみというものもそれだけで正邪を決める要素にはならないんです。その憎しみが正義感故か、自尊心のためかはその人次第ですから」


「なるほど、つまり神眼は心そのものを見る。しかしその解釈をするのは人であり、現実との絡み合い方によっては違った意味を持つこともあるということですね! 師匠!」


 とそんな感じで俺が少し脱線しかかったところでネルスタシアが口を開いた。


「ふむ、お前たちの考えた敵を見つける方法だが、それをより確実にする方法を思いついたかもしれん」


 ネルスタシアは眉を上げ、ニヤリと笑いながらそう言った。

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