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龍の歌人  作者: 十六夜
第一章【前半】
9/13

006 お祭り

相変わらず不定期更新で申し訳ありませんm(*_ _)m

更新致しました!

「「「お祭り?」」」


 アシエリス、フィリッパ、ロワノルドの三人が作業する手を止め、揃って声を上げた。


 花茎を同じ長さに切って麻紐で結わえ、高い所から吊るしておき、一方で既にドライフラワーになっている物を下ろして紐を切り、小さめの飾りを作っていく作業をしていた所だった。


 今日で、研修旅行五日目である。

 三人も、花屋の仕事にかなり手慣れてきたようだ。


 花屋の老夫婦がニコニコと笑みを浮かべる。



「そう。だから、明日は一日お休みなの。あなた達も、お祭りを楽しんでいらっしゃいな」

「でも、店番は……」



 アシエリスが戸惑うようにした質問に、フィリッパとロワノルドもコクコクと首を縦に振った。


「あらあら! そんな事、気にしなくていいのよ」


 夫人は上品にふふふと微笑む。


「あなた達も、ゆっくり村を見て回ったことはまだ無いでしょう? 大きくはない村だけど、明日のお祭りはとっても賑やかで楽しいのよ。この町の良さを伝える良いチャンスだし。ね、あなた」

「そういう事だ。恐らく、お前さん達の担任の先生も、元より明日は休みにしておるはずじゃ。お友達と楽しんでおいで」


 老夫婦に勧められては、断るわけにはいかない。

 アシエリスは友人二人と顔を見合わせ、笑顔で頷いた。


「分かりました。そうします」

「おお、そうしなさい。それじゃあ、今日はこの飾り花に値札を付け終えたら、帰って大丈夫じゃよ。今日も手伝ってくれてありがとさん」

「いいえ!」



 そうして一日が終わり、夕食後。

 アシエリス達は、デルカン校の友人達との会話を楽しんでいた。その中にはルーカスもいる。



 アシエリスとルーカスの初めての邂逅(かいこう)後、そのままギクシャクするかと思われた二人だったが、(むし)ろ周囲が驚くほどの仲良しになった。

 音楽の趣味に始まり、建築や美術など芸術に対する好き嫌いから興味を持つ本の系統等、数多(あまた)にわたる分野で二人は意気投合した。


 互いの友人達は益々色恋の仲を疑った訳だが、当の本人達は全くと言って良い程、清いまでの友人関係止まりだった。

 惚れた貼ったという気配すら、微塵も感じさせない。

 これが、所謂マブダチというものなのだろうか。



 けれども、フィリッパを初めとしたミリー、カトリーヌ等の女性陣達は納得していなかった。(いま)(なお)、運命の恋人説を信じている。そして、二人をどうにかしてくっ付けようと狙っている。

 それは何故か。

 答えは簡単、面白いからだ。


 というよりも、ずばり、皆暇だった。

 暇で暇でしょうがなかった。


 初日見た景色の感動も、5日経てば同じ写真を見ているようで飽きてくる。


 毎日日の出と共に起きてだしては仕事……ボランティアに明け暮れる日々。

 キャンプファイヤーやカヌーの川下りを楽しめるサマーキャンプにでも行けば絶対に退屈なんか出来ないであろうが、今彼らがしているのはキャンプではない、代わり映えのない慈善活動だ。


 なんと言っても、彼らはまだ子供だった。

 そんな彼らには少々刺激が足りなかった。

 よって、男性陣を巻き込んで、何やら画策するしかなかったのである。



「そうだ。私達、明日はボランティアは休みなの。お祭りなんですって」


 フィリッパがさり気なく目配せをし、ミリーがそれに気付いた。


「そうなんだ! 奇遇だね、私達も明日はお休みだよ!」


 ミリーが返した言葉にフィリッパが食らいつく。



「んまぁ、本当に? そうだ! 私達、一緒にお祭りを回らないかしら?」

「いい考えですわ! 皆さん、そうしませんこと?」

「イタッ……ぃ、良いんじゃないかな」

「グアッ……ぉ、おう」



 カトリーヌが援護し、それぞれフィリッパとミリーにテーブルの下で足を蹴っ飛ばされたロワノルドとペーターもなんとか頷いた。


 実に挙動不審であるが、事情を知らないアシエリスとルーカスは特に疑うことも無く頷く。


「いいね、楽しそう!」

「面白そうだね」


 女性陣はテーブルの下で小さく拳を握ってガッツポーズをした。

 カトリーヌが次なる計画へと移る。


「そうだわ。折角だから、二人一組で回りましょう。その方が面白そうではなくて?」

「確かにそうだわ。でも私達は奇数だから、数合わせに部長を呼んできましょう! 問題ないわね?」

「ええ、問題なくてよ」



 他のメンバーが何か言う前に、カトリーヌと頷き合ったフィリッパが素早く席を立ち、部長を呼びに行ってしまう。

 そして、またまたカトリーヌと目配せをしあったミリーが、ペアの組み合わせを提示した。



「それじゃあペアは、お兄ちゃんと私、ロワノルドくんとフィリッパ、カトリーヌとカーライルくん、アシエリスとルーカスくんね!」

「「分かりました……」」


 異議を唱えようとして女の子達の鋭い眼光にあえなく撃沈した男達は、揃って恭順の意を示した。

 また、フィリッパ達の驚くべき連携プレーに目を白黒させていたアシエリスとルーカスも、苦笑いをして互いを見やる。


「なんだかよく分からないけど、よろしくねルーカス」

「うん、よろしく」



 この中で誰が不憫かと言えば、間違いなく巻き込まれたカーライル部長である。が、それに気が付いている者は一人もいない。



 そんなこんなで翌日。

 町に繰り出した若者達は、その入口で足を止め、揃ってポカンとした顔で立っていた。

 普段の町の様子を見ていれば、祭りとは言ってもその規模は小ぢんまりしたものだろうという予想をしていたのだが。

 入口まで伝わってくる熱気と歓声の大きさ、町の大通りにひしめく人々の多さに圧倒された。


「えっ·····ええっ?! 何この熱気、いつもと違いすぎるでしょ! 人! 人が沢山!」


 誰が叫んだかも分からないが、皆その声に全力で同意した。

 あの、寂れて閑散とした雰囲気の町はどこへ行ったのだろうか?

 通りの奥まで人、人、人───。


「取り敢えず、見るものは沢山ありそうじゃない? ええっと、二人一組で見て回るんだっけ? それじゃあ、ルーカス。あっちに行ってみよう!」


 一足先にフリーズを解いたアシエリスが、隣にいたルーカスに声を掛けた。


「ああ、うん。そうだね、行ってみよう」


 まだ若干回っていない頭でなんとか、フィリッパ達に言われたペアの相手に呼びかけたわけなのだが、他のフリーズしたままのメンバーにまで気を回す余裕はなかったらしい。


 フィリッパやミリー、カトリーヌがハッと気がついた頃には、アシエリスとルーカスの姿は賑わう祭りの参加者達の中に消えて見えなくなってしまっていた。


「あっ! エリー達が居ないわ?! 大変、早く追いかけましょ!」

「うわっ!」

「そうね! 行きますわよカーライル様っ」

「あ、ああ·····っ!!」

「お兄ちゃん行くよっ!」

「待て待て落ち着け、はぐれるぞ!」


 遅れ馳せて、任務開始とばかりに慌てて女子3人が駆け出し、引き摺られるようにそれぞれペアの男子たちが続く。しかし、追いかければ追いかけるほど方向が分からなくなり、寧ろ分断されてしまう始末。

 祭りが終わるまでの間、彼らが再び会うことはなかったのである。



 ***


「そういえば、ルーカスは伯爵家だってペーターが言ってたね。お父さんが伯爵なの?」


 アシエリスが、売店で購入した動物を象った色とりどりの飴玉の内一つを取り、口に放り込んだ。市販のものよりも日持ちはしなさそうではあるが、味はとても美味しかった。

 その隣でルーカスが、ブドウの果汁の入った紙コップを啜りながら、首を横に振った。

 2人とも、人の波を器用に避けながら歩いている。


「ううん、母の一族が伯爵家なんだ。父とは大学で知り合ったんだよ」

「そうなんだ。私の両親も大学で知り合ったって聞いたなぁ。ルーカスも大学へ行くの?」

「うん。まだ方向性は決めてないけど、ゆくゆくはそうなるかな。音楽は趣味で続けていこうと思ってるんだけど·····」

「そうだね、音楽は趣味でやってた方が面白いよね。私も大学は行きたいけど、音楽とは関係のない所でいいと思うな」


 聞いたところによると、ルーカスは幼い頃からバイオリンを嗜んでいたらしい。


 アシエリスもピアノは3歳の頃から、その他の様々な弦楽器を4歳の頃から嗜んでいる。ピアノは母親の厳しい指導でかなり超絶技巧の域に近付いているものの、その他二胡、バンドゥーラ、琴、バイオリン等を趣味で細々と続けていた。


 どれも、日本にいた頃のアニメや映画の影響で始めた楽器だったが、これが中々面白い。習い始めは大変なのだが、ある程度知っている曲が弾けるようになるとやる気が上がるのだ。


 芸術を極めるには、ある程度お金がかかる。指導してもらう費用に、楽器の手入れや修理にかかる費用。

 気付く者もいるかもしれないが、アシエリスの家の家計がカツカツなのは、こんな事も原因の一助となっている。

 というより、家族全員それぞれの趣味にまとまった金をつぎ込む性格なので、その他で質素倹約貯金生活を送るしかないのである。


 それでもアシエリスとその母親はビックリするくらい趣味嗜好が似通っているので、共有できるものが多くある。一方で父親の方向性は絶妙に被らない為に、一人だけいらない出費が多いように思われがちなのであった。



「うん。芸術方面は成功より失敗が多いからね。先祖の土地も税金を取られるばかりで、それを補えるだけの収入が必要になってくるし。今の当主は母方の祖父なんだけど、祖父はなるべく土地を売らないで済むようにしたいみたいなんだ」

「大変なのね」



 アシエリスのイメージする貴族はお金持ちだ。

 舞踏会や、煌びやかなパーティー。古くから続く伝統。

 しかし、小説などとは違って現代の貴族位を持つ者全てがそうとは限らない事を、デルカン校の生徒たちとの関わりの中で知った。

 どんなに古くからその血脈を守り続けて来た一族であろうとも、広過ぎる土地はやがて重荷となり、美しい城や湖水、山々を売り出すしかなくなるのである。

 そういった売り出されたもののうち、幾つかは世界遺産や重要文化財として国が保護するが、そのまま朽ちていくものもあるのだ。

 現実とはなんとも世知辛い。



「まぁね。でもいい事もあるよ。祖父がそういう方針だから、僕が積極的に社会貢献するのを応援してくれるんだ。将来社会で働く時に役立ちそうな事は何でもやれってね。アシエリス達に会えたのも、祖父のお陰かな」

「素敵なおじい様なんだね。私もルーカスと会えて良かったよ」



 2人で顔を見合せ、ニッコリと微笑む。

 そうして他愛もないことを話しながら時折出店も見て回っていると、街の中央の広場に出た。

 そこでは、なにやら催し物が行われている様子だ。


「なんだろうね?」

「分からないけど、音楽が聞こえてくるみたいだ。楽器の演奏会でもあるんじゃないかな」


 2人して首を傾げていると、通りかかったビラを配る町人に元気よく声をかけられた。


「よぅ、そこのお二人さん! 見ない顔だね。祭りは初めてかい!」

「こんにちは。そうなんです。あそこは今、何か催しているんですか? 楽器の音色が聞こえてくるから気になって·····」

「おっ! 興味を持ってくれたみたいで嬉しいね! 広場の中央では、毎年恒例の音楽大会が開催中だよ!」

「「音楽大会?」」


 その町人はニカッと白い歯を見せながら笑った。


「そうさ! 歌でも楽器演奏でも、音楽に関するものならなんでもオーケー! グループでも個人でもいいけど、見物客からの人気投票で1番表が多かった奴が優勝さっ! 優勝者には豪華な景品もあるよ! まだ飛び入り参加も受け付けてるけど、君達も挑戦してみるかい?」


 アシエリスはそれを聞いて目を輝かせた。

 楽器は今手元にないが、歌ならば自信がある。


「素敵! ルーカス、一緒に参加しない?!」

「うーん。僕はバイオリンなら出来るけど、歌はあまり得意じゃないからな·····」

「バイオリンなら、貸出もやってるぜ!」

「ルーカス、お願いお願い! 一緒にやろう!」


 アシエリスは必死にルーカスの説得にかかった。

 意図せず目は潤み、頬はうっすらと薄紅色に染まる。

 身長差からどうしても上目遣いになるので、必死の説得はまるで告白でもしているかのように傍からは見えていた。

 元々顔の造りは良いアシエリスである。

 黙っていれば天使と評されることもあるアシエリスは、こんな時ばかりその真価を発揮していた。



 そんなアシエリスの様子に早々ノックアウトされたのはルーカスではなく、周りにいた野次馬である。


「ようよう、話は聞かせてもらったぜ! おい、坊主よ、嬢ちゃんの頼みじゃねぇか。協力してやんな!」

「そうだよ。こんな可愛い子の頼みなんだ。一緒に出ておやりっ」

「おんなの子の頼みは聞いてあげなくっちゃ、おとこがスタル(男が廃る)って、ボクのおにいちゃんも言ってた!」

「おにいちゃんのエンソウ、ワタシも聞いてみたいな!」

「楽器なら、私の貸してあげる! バイオリンって言ったわね? 大丈夫、そこそこ物はいいから!」



 わらわらと2人の周りに押し寄せる町人にポカンとしていたアシエリスだったが、楽器まで貸して貰えると聞いて期待の籠った目をルーカスに向けた。


 ルーカスも初めは驚いていたようだったが、やがて苦笑いをしながら差し出されたバイオリンを受け取った。そして、仕方の無いという顔をしてアシエリスを見た。


「仕方ない·····。こうもお膳立てされたら、やるしかないよ。やるからには、とことんやる。アシエリスも、覚悟は出来てるの?」


 アシエリスはニヤリと笑って頷いた。


「勿論よ。私、歌なら誰にも負けないわ」


 覚悟を決めたルーカスと頷き合うアシエリスの周りで盛り上がる町人にお礼を言い、激励の言葉を受けながらエントリーを行った。

 2人の順番はお昼の鐘の後10番目。

 大会が終わるのは午後の最初の鐘が鳴るまでだ。

 今までの参加者達は二曲から三曲を平均15分の間で演奏し、交代している。それから考えると、大体最後から2番目か3番目くらいではないだろうか?


 結構ギリギリでのエントリーだったようである。



 2人とも音楽の経験者とはいえ、協奏するのは初めでである。流石に、ぶっつけ本番という訳には行かない。とんでもない!



「さっきお昼の鐘が鳴ったから、残りは3時間弱くらいしかないけど、練習はした方がいいよね? どうしようか。そのバイオリン、練習にも貸して貰えると思う?」

「分からないけど、取り敢えず聞いてみるしかないだろうね」


 どうか貸して貰えますように、という2人の願いが通じたのか、バイオリンの持ち主の若い女性は快く承諾してくれた。どうやら彼女は元々この町の出身で、今は別の場所にバイオリン工房を営んでいるのだそうだ。祭りの時、観光客の飛び入りで楽器の経験者などに楽器の貸し出しをしているらしい。

 それでも普通は演奏の直前に貸して、終わったら返却して貰うのだそうで、今回は特別だとの事。



「全然いいわよ! 存分に練習しなさい! それ、私が昔使ってた物なのよ。こういう祭りだと、どうしても人混みがすごいでしょ? 勿論良い音は出るけど、あんまり高くないやつを使う事にしてるの。それに、貴方達は楽器を盗んだり、態と壊したりしないわ。そうでしょ? だから、いいのよ。その代わり、優勝したら私が貸したって宣伝でもしてちょうだい。工房の良い宣伝になるわ!」

「「ありがとうございます!」」



 バイオリン工房の女性と別れた2人は宿に戻り、超特急で練習をすることにした。

 帰ってきた二人を見て、宿屋の受付にいた女性が目を丸くする。


「あれ、早かったわね? もう帰ってきたの? 祭りはもう回り終わったのかしら」

「いいえ。祭りの音楽大会に出場することにしたので、急いで特訓しなくちゃいけないんです。部屋で練習したらご迷惑でしょうか?」

「あら、そうなのね。うーん、今日は祭りだし、今は皆出払ってるから良いんじゃないかしら? 一応、音漏れが酷かったら言いに行くから、それまでは練習してていいわよ。頑張ってね!」

「分かりました、ありがとうございます!」



 笑顔で手を振る受付の女性にお礼を言い、アシエリスとルーカスは階段をのぼった。






読んで下さり、ありがとうございます!

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