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龍の歌人  作者: 十六夜
第一章【前半】
8/13

005 運命の出会い

6分遅刻はノーカンしてくださいお願いしますm(*_ _)m

「「こんにちはー、注文の花をお届けに参りましたー!」」



 午後の陽射しを浴び、美しく純白の煌めきを放つここダーケンマルク神殿の入口で、門番に呼びかけるうら若き二人の美少女がいた。



 一人はスラリと伸びた手足を引き立たせるTシャツとジーンズの出で立ちに、ハッと目を引くような容姿と異国の血を思わせる黒目黒髪。

 もう一人は素朴なワンピースとロングブーツを身につけ、思わず触りたくなるようなふわふわの赤毛に宝石のような翡翠色の瞳。



 そう。アシエリスとフィリッパである。


 ロワノルドは何処にいるのだろうか? という問いは、今は置いておこう。



 沢山の花を抱えながら笑う彼女達の可憐さに、神殿の門の前で厳しい(いかめしい)顔つきをしていた門番達でさえ、思わず頬を緩めてしまう。



「ああ、町の花屋の配達かな? 今日はあのご夫婦では無いようだが……」



 緩みまくる頬を何とか引き締めつつ、見かけない少女達に一方の門番が問いただす。


 そんな相方を避難するような目で見るのは、もう一人の門番だ。こちらは、早々に二人の魅力にノックアウトされている。



「はい! 私達、学校のボランティアでお手伝いをしているんです」

「なので、今日から暫くお世話になります!」



 礼儀正しくも純粋な笑顔でそう返され、確実に矢が心臓にクリーンヒットした門番は「うぐっ…」と呻きながらよろめく。


 首を傾げる少女達に、相方の門番が慌てて駆け寄り誤魔化した。



「あ! こいつは何でもないから、気にしなくていいよ! それより、花の配達だったね。ご苦労様、ここで終わりで大丈夫…」

「ええ!? そんな、駄目です! 仕事ですもの、きちんと中まで運びますから! 門番さんたちは、門で見張ってないとでしょ?」

「そうです! 御心配なさらないでください、こう見えて、私達力持ちなんですよ?」

「くっ……! そ、そうか……それじゃあ、中まで頼んでもいいだろうか」

「「はいっ! 任せて下さいね!」」



 普段通り、入口まででいいと告げようとした門番だったが、「仕事は最後までやらねば!!」と張り切って力こぶ(門番から見ればとても愛らしいサイズだ)を作る愛らしい少女達の手前、何も言えなくなってしまう。


 門番からしてみれば、私有地だからという理由で村の人達すら見張らねばならないという規則が付き纏い、排他的な神官(それも何を祀っているのかよく分からない)と禁欲的な生活の側で、朝から晩まで門の前で厳しい顔を維持して直立不動の毎日なのだ。


 偶に可愛い少女達を眺めてホワンとした気持ちになったとしても、バチは当たらないだろうという心境なのである。ただし彼らの名誉に誓って、彼らはノーマルだ新しい扉は開いてはいない……はずだ。



 そんなこんなで、誰にも不利益のない形であっさり、神殿への侵入に成功したアシエリス達。ほくそ笑んでいるからか、その笑顔の眩しさは倍増されている。



 しかしながら、その仕事ぶりはきちんとしたものだった。


 テキパキと門番の言いつけ通りに花桶を運び、門と神殿の入口とを何往復かしながらコマネズミのように動き回る。


 門番達も、そんな二人を感心した様子で眺めていた。



 暫くして、偶然通りかかった神官が二人に気がつくまでに、アシエリス達は全ての花桶を神殿内に運び入れていた。


 仕事が終わって、しげしげと神殿内の様子を眺めるアシエリス達を不審に思ったのか、その神官が近寄ってくる。



「あなたたち、そこで何をしているんですか? ここは私有地ですよ、部外者は立ち入り禁止です。門番がいたはずですが…」

「「あ、こんにちは! お花の配達に来ました!」」

「は、花……?」



 怪しい少女達を問い詰めようと近付いたその神官は、少女達の落ち着いた態度と、口から出た想像だにしない言葉の為、ポカンとしてしまう。


「はい。わたしたち、今日から数日間、麓の町の花屋のお手伝いをしているんです。この花は、こちらに運ぶように、門番さんに伺いました」



 アシエリスは、いつも母親が電話で話す時の口調を心掛け、丁寧に話してみた。


 アシエリスの母は、家にかかってくる電話の全てにとても丁寧に対応している。なので、それを真似するだけでも随分、賢そうに見られるのだ。


 勿論、ただ真似をするだけでなく、適当に使い分けることが肝心である。



 案の定、堂々とした態度だが丁寧な言葉遣いするアシエリスに幾らか気を許したのか、神官の顔つきが穏やかになる。



「そうだったのですね。こんなに沢山の花を、お二人だけで運んで下さったのですか?」

「「はい!」」


 相手が年下の若いアシエリス達だとしても丁寧な物腰を崩さない神官に、二人は嬉しくなった。

 ニコニコと答える少女達に、神官も笑みを向ける。



「それは、ありがとうございました。普段はわたくし達神官が運び入れねばならないので、助かります。ただ、先程も言ったようにここは私有地なので…手伝いはここまでで結構ですよ」

「分かりました」

「さようなら、また明日来ます」



 こくんと頷くアシエリスとフィリッパ。

 神官にお辞儀をし、門番にさよならを告げて、二人は神殿を後にした。

 ここでごねても仕方がないと、そう判断したのである。


 しばらく歩いていくと、ロワノルドが二人を追いかけてきた。

 どこかに隠れていたのだろうか?


「エリー、フィン! どうだった? 神殿の中は」

「ああ、ロワン。あんまり奥までは行けなかったよ。でも、入口部分は見てきた。繊細な彫刻がしてあったのが印象的かな。最も印象的だったのは、必ず龍の彫刻が施されていたっていう点なんだけど不思議なのは……」

「もぅ、ロワンったら! そんなに気になるなら、明日は私達と一緒に中まで配達したらいいじゃないの!」


 神殿へ思いを馳せ、まだ何処か気もそぞろに返答するアシエリスと違い、フィリッパは着いてこなかったロワノルドを(なじ)った。

 けれど、断固とした様子でロワノルドは否定する。



「嫌だよ、怖いじゃんか!」

「怖くなんかないわよ、意気地がないのね!」

「そんな事ないさ」

「あるわ」

「ない!」

「ある!」

「ないったらないったらない!」

「──という感じなの。だからね、やっぱり何かを表してると思うのよ。二人はどう思う?」

「「エリィィィィ」」

「え、何? ああ、ごめんごめん。何の話だっけ?」



 隣で言い合いをする友人二人に挟まれながらも、意識を飛ばしつつ自分の考えに耽けるアシエリスに、ロワノルドとフィリッパは揃って講義の声をあげた。


 しかもアシエリスは、あまり申し訳ないと思っていなさそうな、ケロッとした顔をしている。


 ロワノルドとフィリッパは顔を見合わせて溜息を着いた。



「こういう時は…」

「エリーに何を言っても…」

「「聞いちゃいないもんねぇ」ものねぇ」


 くだらない事で言い争う自分たちが馬鹿みたいだと、二人は苦笑いをする。



 その後は気を取り直して、神殿についての話で白熱した議論を交わした。



 あの神殿は誰が所有者なのか。


 どういうものを祀っているのか。


 神官と呼ばれる人々はどういう人なのか。


 あの排他的な風潮は何故なのか。等々。



 様々な意見を出し合うも、正解など分からない。花屋に戻り、その日のボランティアを最後までこなしていると、そのうち意識の外へと追いやられた。


 日が水平線の上まで傾いた頃、三人は老夫婦に挨拶をして宿屋へと戻っていった。



 他愛ない会話をしながら宿までの道を歩いていると、宿の外に見かけた顔触れが数人集まっている事にフィリッパが気が付く。


「あら? ねぇ、あれってミリー達じゃないかしら?」

「え? あ、本当だ。カトリーヌとペーターもいるね、何してんだろ?」

「さあ? ペーター達も、ボランティアから帰ってきたところなんじゃないか?」



 近付くにつれ、何やらもう一人いて、その人物を取り囲んで取り込み中のようだと分かった。


 取り囲まれている人物の顔はよく見えないが、少なくとも初日の顔合わせの時にはいなかった人物だと当たりをつける。



「どうする? 挨拶していく?」


 アシエリスは幼馴染み二人の顔を見ながら質問した。

 取り込み中ならば、後にした方が良いだろうかと考えて。

 しかし、フィリッパが首を振った。



「挨拶だけして行きましょう。無視していくのも感じが悪いもの」

「ま、そうだね」

「そうしようか」



 フィリッパに頷き、三人は顔見知りのデルカン生達の元へと歩みを進めた。


 その内、こちらに気が付いたペーターが大きく手を振ってきたので、ロワノルドが挨拶を返す。



「おーい、イーリス校の皆!」

「やぁ、ペーター。それに皆も! 今日のボランティアは終いかい?」

「ああ、そうなんだ。お前らもか? あ、そうだ。皆にも紹介するよ。俺たちの仲間で、用事があって一日遅れで参加したルーカスさ!」

「「「ルーカス?」」」

「そう! なぁルーカス、言ったろ? こいつらが、昨日友達になったイーリス校のボランティアクラブの連中さ。気の良い奴らだよ!」



 ペーターはそう言って、先程まで取り囲んでいた人物をアシエリス達の前へと引っ張り出した。


 その様子は親しげで、引っ張りだされた方もしょうが無いなという風に笑っている。


 その人物は、青い瞳に珍しい水色の髪をした、長身の大人びた青年だった。そして、とてつもなく容姿が整っている。



「やぁ、こんにちは。僕の名はルーカス。ルーカス・ベルグウェリートだ、よろしく」

「よろしく、僕はロワノルド・エンシュルン」

「私はフィリッパ・ランガシュよ。よろしくね!」



 ロワノルドとフィリッパが順番にルーカスと握手を交し、最後に彼はアシエリスへと向き直った。


 アシエリスを瞳に写したルーカスは一瞬だけ目を見張り、しかし何事も無かったかのように僅かに首を振って手を差し出した。



「……」

「エリー?」

「どうしたの、エリー?」



 手を差し出されたのにも関わらず、いつまでたっても握り返さないアシエリスに、不審に思ったフィリッパとロワノルドは彼女を振り返った。が、当人のアシエリスは目を見開いて微動だにしていなかった。


 穴が空くほどルーカスを見つめ、暫く経ってから漸く、かなりぎこちない様子でその手を握り返す。



「……アシエリス…テカヴィニックよ…。…よろしくね、ルーカス……」

「……うん、よろしく」



 握り返されたルーカスも、やはり、何処か様子がおかしかった。


 しばし見つめ合う二人を、周りで見ていた友人達は眺めながら囁き合う。



「ええっと……」

「ええ、なんと言うか」

「ああ、なんていうか、その……」

「これはもしや」

「もしかするかもしれない?」

「「「「「……」」」」」



 互いの友人達が囁き合う中、アシエリスとルーカスの二人はぎこちなく微笑みあう。しかし、互いにそわそわと、落ち着きがなかった。


 微妙な空気を察したペーターが、一際明るい声をだす。



「そ、そんじゃまぁ、顔合わせも済んだことだし? 明日も早い訳だからってんで解散っ!」

「「「「了解! 解散!」」」」



 カトリーヌとペーターとミリーはルーカスを、フィリッパとロワノルドはアシエリスを連れて、それぞれの夕食の席へと歩き出す。


 アシエリスとルーカスは互いの姿が見えなくなるまで、見つめ合っていた。


読んで下さり、ありがとうございます!

いいね・高評価☆☆☆☆☆して下さると、作者のやる気が倍増致します( * ॑꒳ ॑*)

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